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117話:いたずらでも、そんなこと言わないで!

「僕はマーキュリー・ルース。『笑顔拡散委員会』のリーダーで、レベッカの恋b」

「〈違うよ??????〉」

「......セイレーン科の四年生。よろしく」


「アテクシはキューティー・ハネムーンですワッ!! キューピッド科の生徒の中でもっとも優れた成績を誇るだけでなくっ、『笑顔拡散委員会』の真リーダーでもございますノッ!! さぁ頭を垂れなさいっ、崇めなさ」


「俺はゴブリン科のジャスパー・ゴンザレスだゑ! 俺こそが本物のリーダーゑ!!」


「我こそが『笑顔拡散委員会』のリーダー! ライケル・ヘルブレッドだぜぃ!!......あ、あと鬼科だぜ。うん」


「わたすはデボラ・アルミルートって言うだに。こいつら全員まともじゃなくてごめんだに。リーダーのわたすが責任を持って謝るだに~」




マーキュリー先輩は浮いたディスクの上で、二股に分かれた魚の尻尾を振る。

そして、レベッカ先輩に向かって真顔ウインクしまくってたけど、全然無視されてた。


まつ毛先輩はいつも通りだね。変わったところを強いて言うなら......金髪縦ロールが若干長くなったくらいかな。あとまつ毛ももっとファサァッ...ってなってるかも。多分。


ジャスパー先輩はほとんどはじめまして、だよね? アニメとかでよく見そうな、キラキラお目目がこっちを見てる。ずっと緑色の尖った耳を掻いたり、桃色の髭を撫でたりしてる。


ライケル先輩と話すのも初めてかも。短い茶髪と真っ赤な瞳は、明かりがついた部屋でも光って見える。鬼科って言ってたけど、雰囲気は蛇の獣人っぽくもあるというか......。


デボラ先輩は、多分トロール科の生徒だよね? 私たちの中で一番大きくて、一番優しそうな顔してる。これが本来のサイズ? それか、これでも魔法で体を縮めてたり?




「ハ゛ァ゛ーーーー!?!? どうしてどいつもこいつもリーダーの座を奪おうとするんですノッッッ!? どう考えてもアテクシこそがリーダーにふさわしいでしょうがっっ!」

「無理でしょ。キューティーは馬鹿すぎるし」

「それに関しては我も同意だぜぃ!」

「そういうライケルもまぁまぁ馬鹿だと思うゑ?」

「ちょっとちょっと、どんぐりの背比べはやめろだに! 虚しいだけよ?」



自己紹介が終わった後は、当たり前のように取っ組み合いが始まる。

胸ぐらに掴みかかったり、髪を引っ張ったり、相手の口にシュークリームを詰め込んだり。



で。案の定、私たちは置いてけぼりにされちゃってるし。



あと、これに関してはウィローさんのせいだと思うけど、本当に名前が覚えられない。もう忘れちゃったかもしれない。名前よりも個性が一人歩きしちゃってるんだもんこのヒトたち。



「誰が馬鹿ですってぇえエェェエ!? もっぺん言ってみろや糞マーキュリー!!」

「えーん、糞って言われてすごく悲しい。レベッカにキスしてもらわないと死んじゃう」

「このシュークリーム激うまいぜぃ!!!!」


「〈はい、静かにっ!!!!!!!!〉」



レベッカ先輩はみんなの剣幕に埋もれないように、両手を叩きながら大声(テレパシー)を出す。

完全に幼稚園の先生と化した先輩は、作り笑いを浮かべながら、私たちの方を手で差した。



「〈改めて紹介するね! このフクロウの獣人くんがキャベツくんで、アホ毛がメダカみたいなのがガーディナーちゃんだよ〉」

「よ、よぉ! またイカれた先輩共と会うことになるとは思わなかったぜ!」

「アホ毛がメダカ......?」


「アーーーーッ!! 貴様らは何時ぞやの!!!!」



まつ毛先輩は(多分)怒りで顔を真っ赤にしながら、私たち二人の方へドシドシ歩いてきた。そして、金色まつ毛が鼻先に当たってくるくらいの距離で睨みつけてくる。ちなみに30センチは離れてるよ。



「アテクシ言いましたわよネッッ!? あなたたちみたいな生ぬるベイビー共は、試験に合格しないと『笑顔拡散委員会』には入(い)れないと!! まさかっっ、また試験を受けに——」

「〈コラッ、キューティー! うざ絡みしないの!〉」



まつ毛先輩はUFOキャッチャーみたいに片手で回収されると、マーキュリー先輩の方にぶん投げられてた。

そのままマーキュリー先輩の浮くディスクに激突して、二人は床に落っこちる。あれだね、ボウリングでいう『ストライク』だね。



「〈......オホンッ! 改めて......キャベツくん、ガーディナーちゃん! 『笑顔拡散委員会』へようこそ!〉」



レベッカ先輩は全てをなかったことにすると、今度は手で部室全体を差した。

前来たときと、あんまり変わってないな。そこら中に機械とか道具が散乱してて、黒板には数式と変な落書きがびっしり書かれてる。



「〈現メンバーたちは、ちょっと癖が強いけど......二人ならきっと仲良くなれるよ!〉」

「『ちょっと』? 『ちょっと』っつったかパイセン??」



キャベツくんは基本カオスを好むタイプだけど、『笑顔拡散委員会』のメンバーたちへの好感度は意外と低いっぽいんだよね。あまりにもぶっ飛びすぎてて、逆にツッコミに困っちゃうのかな?



「てかオレ、ガーディナーに誘われたから来てやったけどさ、まだ部員になるとは言ってねぇぜ? 検討中なだけだぜ??」

「〈え、そんなぁ! なってよっ! もしなってくれたらキャラメルあげるよ? 1個〉」

「オレを菓子で釣ろうとするな!! ガーディナーじゃあるまいし!」


え、なんか私ディスられてる?? 今さりげなくディスられたよね??


「〈キャベツくん、去年はボクたちの部に興味津々だったのに~~! いつの間に童心を捨てちゃったの?〉」

「い、いや、そういうわけじゃねぇけど......」



キャベツくんは気まずそうに目を泳がせると、視線で私に助けを求めて来た。


ふんっ! 私は助けてあげないもんっ! さっき私のことディスった罰!! べーーーっだ、べーーーーっ、あっかんべーーーーー



「......そのぉ......三年生になってから、ちょっと忙しくなったっつ~か......去年入部しに来たとき、なんか思ってたんとちげ~って思っちまったというか......」



彼は歯の隙間から息を吸った後、首の後ろを犬みたいに掻く。フクロウなくせに。



「いたずらは好きだけどよォ......テメェらのテンションにずっとついてける自信ねぇよオレ、過労死しちまうよ......」

「キャベツくん、若者のテンションについていけないおじいちゃんみたいだねー」

「〈え、じゃあつまりキューティーたちのせいってこと? 大丈夫だよっ、無理についていこうとしなくて! ボクも基本無視してるし!〉」


よし、さりげなくキャベツくんをディスり返す作戦成功!


「あ、あとよォ......それだけが理由じゃなくてだな......」



キャベツくんは眉をキュッと歪めながら、両腕を組んだ。

レベッカ先輩の後は、他メンバーたちにも順番に目をやって......。



「『笑顔拡散委員会』って、イキってる割に影薄くね????」



その瞬間、部屋中に氷属性の電気が走った。

空気にヒビが入ったかのように、『笑顔拡散委員会』の皆さんがピシッて固まる。


こ、こやつ......ホントに言いやがった......! 言っちゃいけないこと言いやがった......!!

も、もうウィローさん知らないよ〜~? どうなっても知りませんよ〜~??



「だってオレ、入学当初よぉ、トモル先生に『笑顔拡散委員会を知らないやつはいない』とか『とんでもねぇやつら』みたいな感じで紹介されたからよっ、すげぇやつらなんだろうなって思ってたんだけどよ......」



冷たくなっていく空気を感じ取ったのか、キャベツくんは自分の翼で暖を取る。さりげなく私の後ろに隠れようとしてくる。


おいこらっ! 意地でも私を巻き込もうとするなっっ



「で、でも実際はさ、なんか面白れぇ魔法道具作ったり......クリスマスに全校生徒を性転換させることくらいしかしてねぇだろ?」



全校生徒を性転換させるのは結構すごいことだと思うけどなぁ。


あとキャベツくん、あれを忘れてるよ。体育館のステージ爆破事件。あれも結構大規模だったんじゃない?



「クラスメイトに聞いてみたらよ、『笑顔拡散委員会』のこと知らねぇやつ結構いたし......オメェらって実は大したことねぇんじゃ——」


「「「「んだとコラァーーー!?!?」」」」



レベッカ先輩を除く五人は、こういうときだけは息が合うらしい。


全員目をかっぴらいて、額にも頬にも青筋を立てて、口をおにぎりみたいな形にしちゃって、




「それはレベッカに対する侮辱として受け取ってもいいの? そうだとすれば容赦はしない」

「ゑゑゑゑい! お前は俺たちを怒らせたゑ!!」

「覚悟するぜぃ!!!!......まぁ、野菜野郎の言うこともごもっともだとは思うぜぃ」

「ライケル!?!? なに急に裏切ってるだに!?」


「おまえたちーーーーーっ!! アテクシの元へ集いなさい!! 合体するわヨッ!!!!」

「「「サーイエッサー!」」」



すると、どこからもなくプ〇キュアの変身バンクみたいな音楽が流れ出す。


......あれ? デジャヴかな??



「フォーム・サードで行きますわヨッッッ!! 全員床に寝そべるのです!!」

「やだ。僕はディスクから降りない主義なんだ」



マーキュリー先輩以外は全員しゃがんで、床で芋虫みたいに——



「〈だーーーもーーーーー!!!! そのくだりはもういいから!! どうせ何も起きないんでしょ!?〉」




......結局みんな、レベッカ先輩にふっ飛ばされちゃってた。


闇魔法だったのか魔法道具だったのかわかんないけど、黒くて大きい何かが箒のように五人を掃除して、黒板の方へ薙ぎ払う。


五人は壁にぶち当たると、目をグルグルさせながらズルズルと落っこちた。......またまたストライクだね。



「〈待っててよキャベツくん!? 倉庫からすっごいガジェット取ってくるから!! 今の言葉、ぜっっっったいに撤回してもらうからねっ!?!?〉」



そして、レベッカ先輩はキャベツくんをビシィッッと指差しながら、

部室(空いた講義室)の扉をバァンッッッて開けて、

ビューーーーーンってどっか行っちゃった。



........................訪れる静寂。



時間差でチョークが黒板から落ちる。



音を立てずに動く壁掛け時計。



床に寝そべったまま動かない、他五名。




当たり前のように取り残された、私とキャベツくんは......二人揃って、両目の絵文字みたいな顔(?)をしていたのでした。




「......」

「......」

「......なんか......よくわかんねぇけど......」



キャベツくんは羽毛に覆われた首を掻く。髪からぴょこっと出てる羽角も、水で直された寝癖みたいにペショ...ってなってた。



「で......結局ガーディナーはどうすんだ? 『笑顔拡散委員会』入んのか?」



どうやらキャベツくんは、一旦周りの状況を無視することに決めたそうです。

私もそうしよっと。



「う~~~~ん、どうしよっかなぁ~? 面白いヒトたちだとは思ってるけど......」

「馬鹿すぎてついていけねぇんだよなァ」

「............意外だね。てっきりキャベツくんは、こういう感じのヒトたちが大好きなのかと思ってた」

「いやそんなことはねぇよ?? いやあのっ、別に嫌いでもねぇけど......なんつーか......」



彼は少しずつ唇を閉じて、途絶えさせた言葉の余韻を噛みしめる。

別に隠し事をしようとしてるわけじゃなくて、ただ言語化する術が思いつかないだけ、みたいな。そんな感じ。


......これも、ただの私の勘にすぎないんだけどね。

私が、そう思いたいだけなのかも。なんて......。



「その感じだと、キャベツくんは『笑顔拡散委員会』に入るつもりはない感じ?」

「オレは......ウゥン............」

「優柔不断とかけまして、キャベツくんと解きます!」

「ア?? そ......その心は?」

「ふわふわのしなっしなでした~」

「馬鹿にされてることだけはわかったぞ......」

「うひひっ」



自分でも聞いたことにない笑い方が出ちゃって、ついつい口を抑えたくなる。

や、やだぁっ、自分気持ち悪っっ......なんでこんな......。



「れ......レベッカ先輩、まだ帰ってこないのかな~? ねーねー、『すっごいガジェット』って一体どんなんだと思——」


「ちなみにオレは、お、お前が......、」



急に遮ってきたと思ったら、キャベツくんは口をクチバシみたいに尖らせた。

膝のところで、両方の拳を握って。

肩を上げて。



「ガーディナーが入部するんだったら......オレも一緒に入るつもりだぜ?」


「......」


「......」


「......」


「......」


「「............」」



キャベツくんは意地でも目を合わせようとしない。

変顔と焦り顔の間みたいな顔をしながら、汗をダラダラ流してる。


頬を覗こうとしたらそっぽ向かれちゃったから、私は代わりに彼の耳を見上げた。

..................。



「......」


「......ッ」


「......」


「な、なんか言えよ!?!?」



キャベツくんがこっちを見てなくてよかった。


だって、汗が蒸発する感覚がしたんだもん。


閉じた口に含まれるのは、二酸化炭素ばかり。

隙間風すらも、沈黙を誤魔化してくれないの。



......キャベツくん。


わ、私が入部するなら......一緒に入るって......そんなの......っ、




「、...」



で......も。


もし、ここで。私が何か言ったら。

喜んで、しまったら。



オリーブくんの気持ちはどうな





『もう二度と、ぼくのことで悩まないでほしい』


『ウィローさんは絶対に幸せになって』

『キャベツさんと、結ばれて』





——————————————あ、



そうだ。


もう、大丈夫なんだった。



むしろ、それがオリーブくんの願い。


で。





『もしガーディナーちゃんが入部してくれるんだったら』

『君とキャベツくんを、くっつけてあげるよ?』





「————————~~~~~っは、」




息を吸った。


キャベツくんの翼に向かって、私は手を伸ばす。



......ねぇ、キャベツくん。

本当に、ただの思わせぶりなの?


それとも、何かを伝えたくて。そんなこと言ったの?

だから目を合わせてくれないの?


ねぇ。


赤くなってる耳を見て、私はなんて言ったらいい?

期待していいの?

触れていいの?



ねぇ!


本当にただの、言葉通りの意味なんだったら!


期待してほしくないんなら!!



いたずらでも、そんなこと——





「二人とも。もし入部するんだったら、一つだけ条件がある」

「「キャァァァァーーーーーーー!?!?」」



マーキュリー先輩が急にヌッと現れたものだから、


浮いたディスクに乗ったまま、私たちの間に入ってきたものだから。




「せせせせせせせ先輩いつ復活してっっっ」

「びびびびびびびビビらせやがってっざけんなよテメッッッ」



後ずさりしたとき、私とキャベツくんは肩と肩をぶつけちゃって。


マーキュリー先輩は真顔のまま、己の真っ白な毛先に触れた。



「試験とかじゃないから安心して。ただ......」



二股の尻尾を足みたいに組みながら、彼は舌を出す。



「『笑顔拡散委員会』の新メンバーとして、解明してほしい秘密があるんだ。レベッカは、僕たちに何か隠し事をしてるから」



未だ気を失ってるまつ毛先輩たちの方に、一瞬だけ目をやった。




「......多分、なんだけど」




そして、再び私たちに合わせてきた彼の瞳は。

ミルク色のサイダーのように、泡のような光を発していた。





「レベッカは、トモルと付き合ってる」


「それが本当なのか、一緒に確かめてほしい」






次話:不倫調査(なお誰も結婚はしていない)

です。トモル先生とレベッカ先輩の関係を調査いたします

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