115話:ブレイズくんまで奪わないで
「ガーディナー」
先週は教授の都合で休みになった、火曜日の朝の授業にて。
ウィローさんにしては珍しく早めに来ちゃったからさ、講義室の隅の席に座って。
クラスメイトたちがぞろぞろと入ってくるのを眺めながら、ぼ~~~っとしてると。
「......ん~......」
「ガーディナー? 聞いていらっしゃいますか?」
「............腹減りぃ......」
後ろから首チョップされちゃった。
「いだっっっっ!? 敵襲!?!?」
「無視するから悪いんですよ」
「あれっ、ブレイズくんじゃん! ブレイズくんもこのクラス取ってたの!?」
ブレイズくんは私の隣に座ると、目を合わせずに軽く息をつく。
そして、メガネを外したと思ったら、制服の袖で適当に拭い始め......って、私のこと無視すんのかーーい。
「も〜〜~、一緒のクラスなんだったら言ってよぉ! そしたら朝一緒に行けたじゃん、一瞬別れた意味なかったじゃんっ」
「言いましたよ。夏休み中に、お互いの時間割を確認し合ったではないですか」
「そっっそう、だっけ......?? ごめん忘れてた......」
「俺も忘れていましたけどね」
「おいコラ」
彼はメガネを掛け直しながら、まだ誰もいない教壇へ目をやった。
「......今日の授業は、元々休むつもりだったんです」
「サボるつもりだったってこと? まぁ、気持ちはわかるけどねー。見るからにつまんなそうな名前の......クラス?授業?だし......」
「そうなのですか? 漢字が読めないので知りませんでした」
「............」
ブレイズくん......さては今日、機嫌良いな?
だって、ブレイズくんの方から結構話しかけてくるもん。あれかな~~? ウィローさんと同じクラスで嬉しかったのかなぁ~~? およ? およよよよ??
「何故笑っているのですか」
「ん~~~? べっつにぃ~~~~?」
「ガーディナー、いつも持ち歩いている......そふときゃんでぃー?は今も持っていますか?」
「? 持ってるよ? なんで?」
「ください」
「ぅえ~~、しっかたねぇなぁ~。何味にす——」
「やあ、みんな。待たせてしまったかな?」
先生の柔らかい声に、講義室が水を打ったように静まり返る。
ブレイズくんは私より先に前を向くと、少しだけ目を見開いた。
私はね、教壇の方を見なくてもわかったよ。
この声。
爽やかで、上位存在感が溢れる口調だけど、中身はわたあめみたいなあのヒトの......
「先週は、僕の都合で講義をキャンセルしてしまってごめんね。メールでも伝えた通り、牡蠣にあたってしまって——」
「トモル先生!? トモル先生だーーー!!」
トモル先生のことは、私以外にも知ってるヒトは絶対いるのに。
騒いだのは私だけで、急に立ち上がったのも私だけでさ。ブレイズくんなんて『なにやってるんですか』って目でこっち見てきたし、秒で恥ずかしくなって席についてっ、
だけど、先生は微笑んで、手を振ってくれたから。ちょっとだけ救われた気持ちになった。
「......ここにいるのは、大天使科の生徒と、大悪魔科と死神科の生徒で合っているよね? 特定の人外しか受けられない授業を取るのは、今回が初めてだって子も多いんじゃないかな?」
トモル先生は天使の翼を広げながら、講義室をゆっくりと見渡した。まるで、ここにいる生徒一人一人と目を合わせるように。
「改めて自己紹介するよ。僕はトモル......普段は代理医務室を担当していて、生徒指導も受け持っているんだ。だから、親しみを込めて『トモル先生』と呼んでくれると嬉しいな」
えへ、えへへっ、嬉しいなぁ......私たちの先生って、トモル先生だったんだぁ......! これからはトモル先生の授業受けれるんだぁっ、えへへへへっ
「そして......ようこそ! 初めての『裁判倫理学』の授業へ!」
***
くっっっっっそつまらん。
あ、あのね違うの、トモル先生は悪くないの! 一ミリも悪くないの!!
これに関しては絶対に科目が悪いの。あとは.....。
「——僕たちの世界では、地獄のことを『ポエナ』と呼んでいてね......名前の由来はラテン語から来ていて、少しだけ物騒なんだけど——」
先生が言ってることのほとんどが、もうすでに知ってることなんだよねぇ~......。
やっぱり私みたいに、地獄の存在まで知ってる生徒は少ないっぽくて。
だからまず、ポエナがなんなのかの説明から入るでしょ?
ネルソービューが人間用の天国だって話は省いて、私たち自身が死んだ魂だって気づかれないように細心の注意を払って......ることも、ウィローさんにはわかっちゃうんだよね。
「——だけど、ポエナは死んだ魂を収納しておくためだけの場所ではなくてね。住宅街もあって、そこで暮らしてる生者たちも——」
多分、ウィローさんは知りすぎたんだろうなぁ......前代未聞なんだろうなぁ。ポエナに連れて行かれちゃって、半年後にネルソービューに戻ってくる生徒なんて。
「——実際に魂たちが収納されているのは、『インフェルッツァ宮殿』と呼ばれる場所だよ。宮殿の地下は、九層まで続いていて——牢屋みたいなものでね——」
あ。寝る。やばい寝る。
この授業、普通に朝早いし......先生の声落ち着くしぃ......。
と、隣にいるブレイズくんもつまんなそうにしてるもん。ワンチャンさ、ブレイズくんの影?背中?に隠れるようにしてさ、こう、テーブルに突っ伏してたらバレないんじゃない??
トモル先生優しいし! ちょっとくらい寝ちゃっても怒らないでしょ!
よし! おやすみーーー!
「————で。地獄には、偉い人外たちが住んでいる場所があってね。それが、『黄昏の砦』と呼ばれる大きな城だよ」
......あれ?
なんか。目を閉じた途端に、知らない名前が聞こえてきたような......?
「そこでは、主にポエナの行政に関することが行われていて......僕たちネルソービューも、ポエナの政治については詳しくないんだけどね」
お城......もしかしてあれかな。インフェルッツァ宮殿から少し離れたとこにあった、あの大きな黒い城のこと? ネルソービューの本校舎にちょっと似てるやつ!
やっと面白い(かもしれない)ことが聞けそうだから、私は顔を上げる。さっきまで机に突っ伏してたことがバレてもいいように、軽く目をゴシゴシする。あれだよ、目が痛かったんですよアピール(?)。目が痛かったんだから寝てても仕方ないよね(?)
「政治を担う他にも、『黄昏の砦』では死んだ魂を天秤にかけたりするんだ。もっとわかりやすく説明すると......」
トモル先生は人差し指を立てながら、金色の瞳を細めた。
よし、私の方は見てない。多分寝てたことはバレてな——
「『黄昏の砦』では、死んだ魂を裁判にかける。その魂の過去の行いを覗いて......転生させるか、地獄送りにするかを決めるんだ」
————さ......裁判。
さっきまでぼーっとしてたブレイズくんも、ピクッと指先を動かした。
私も、ちょっとだけ目を泳がせちゃって。多分先生にバレてて。
そ......っか。魂の裁判は、あそこで行われてたんだ。
ゾディさんを、転生させる判決を出したのは。ポエナにいる偉いヒトたち。
私をネルソービュー送りにしたのも。
ブレイズくんをポエナ送りにしたのも、多分......同じヒトたち......。
「あそこには、100をゆうに超える数の裁判官たちがいてね。主に天使や悪魔、そして死神がこの役職に就くらしいよ。......そろそろ、『裁判倫理学』が君たちにとって必須科目な理由がわかったかな?」
トモル先生はここで初めて、教科書のようなものを開いた。教壇に置いたあと、杖でパラパラとページをめくる。
「裁判のプロセスをざっくり説明すると......まず、一つの魂につき三人の裁判官がついて、相手に色々質問するんだ。死因は覚えてるかとか、何か罪を犯した覚えはあるか、とか」
「......『質問』?」
すると。
私の隣に座ってるブレイズくんは、先生に聞こえないくらい小さく呟いた。
両手を、丸める。テーブルの上で。
「............質問というより、あれは尋問のようなものでしたけどね」
目のハイライトと引き換えに、中の炎がさらに燃え上がる。
青い光を、内側からメガネのレンズに反射させる。
————————そっか。
そう、じゃん。
ブレイズくんは知ってるんだ。覚えてるんだ。裁判を受けたときのことも。
「それで、もし死者が嘘をついたり、何か隠し事をしていれば......魔法を使うんだ。相手の過去を覗く魔法をね」
「......相手が人間であれば、問答無用で魔法を使いますけどね」
ブレイズくんの声が少しだけ大きくなる。
目元に落ちた影が、少しずつ濃くなっていく。
多分、まだ周りには聞こえてないだろうけど......。
「そこで、三人の裁判官たちはよく話し合って、魂の判決を決める」
「......そのうちの一人は眠っていましたが」
「しかし、裁判官たちの考えだけでは、どうしても偏った判決が出てしまう。だから......」
「本当は、偏ることなんて気にもしていないくせに......」
少しずつ、少しずつ。彼の言葉に棘が、覇気が足されていく。
波紋効果のように、ぽつぽつと。彼の静かな怒りが、確かに広まっていく。
時々、近くに座るクラスメイトが、こっちを見て首をかしげてくる程。
「ぶ......ブレイズくん......、だめだよ、あんま大きい声出しちゃっ」
彼の耳元で囁きながら、私は代わりに周りの視線を受け流す。集まる目々に向かって苦笑いして、大したことじゃない感を出して、
「あんまり色々言うと、ブレイズくんがポエナから来たってバレ——」
「わかっています」
ブレイズくんは私を軽く突き放すと、上がっていく自分の肩に手を置きながら、ゆっくりと下を向く。まるで、吐き気を堪えてるような表情。
爪が、ガリガリと机を削っている。
「............わかって......っ......」
「——裁判官たちは、特別な天秤にも頼るんだ。魂を秤にかけて、その結果を元に判決を下すときもあるよ」
トモル先生はみんなの注目を集めるように、綿のような翼を大きく広げる。私の翼よりずっと大きくて、温かそうで......なんだろう。実体感がある、というか......。
「天秤以外にも、ポエナには色々な技術があるんだよ。相手の感情を操るコントローラーとか、対象のもっとも本質に近い姿を映し出す鏡とか、」
「あのヒビ割れた鏡のことか......?」
ブレイズくんは小さく口を開くのをやめない。
やめられない、のかもしれない。
彼の瞳が、渦を巻いてしまっている。ドブに捨てられた炎の絵画のようにぐちゃぐちゃで、穴が空いてしまいそう、で、
何かを。思い出してしまったときの顔。
「あとは、シンプルに自白剤を使ったりもするね。最近は、飲みやすいように甘くしてるらしいよ?」
「......それは......ゾディアックが............、」
「さらに、得た情報を自動にまとめてくれる便利なノートもあるんだ。『調査ノート』っていうんだけど——」
「そうだ......人外というのは......いつもいつも、俺たち人間を......!!」
トモル先生の声を遮れてしまうほど、ブレイズくんの声は鋭くなっていた。
灰色の指先を震わせて。爪が白に染まってしまうほど、強く握りしめる。
「......俺、も......ここに居続けたら、」
「いや、そんなことはもうとっくにわかって」
「覚悟し」
「もう俺、は.. . ..とっくに」
頭を抱え始めた彼の、首筋に。
蕁麻疹のように、黒い穴が広がった。
「っあ、あ、あ~~~、あはははっ、」
私は咄嗟に、両手で彼の首を覆い隠す。どんどん重くなっていく空気を払うように、重なる視線を吹き飛ばすようにとりあえず笑って、これで合ってるのかわからなくて、
前の方に座る天使は頬杖をついて、顔をしかめながらこっちを見てる。
隣に座る悪魔は目をぱちくりさせて、不思議そうに尻尾を揺らす。
ブレイズくんと同じく死神である生徒は、騒ぎの前兆をワクワクしながら眺めてくる。
やだ。
だめ。ブレイズくんのことは絶対に守らないと。
私が守らないと。
「ご......めんトモル先生~~っ、なんかブレイズくん体調悪いみたいだから代理医務室に——は無理だからえっと、あ、アポネ先生のところに」
「——————みんな、」
先生は両手を叩く。民衆の視線を花束にするように。
訪れた静寂に、花びらの船を送るように。
翼を広げて、天使の輪っかを握って、光らせて。
私たちに向かって、微笑みを浮かべた。
葡萄酒のような。なん、か......
「ポエナでは......地獄では、ね」
ま......って、
なんで、トモル先生そんな、笑い、方、
「様々な魔法や、道具を駆使して......」
「〜〜~゛っ、ぐ、... . . . . .. .!!」
お願いやめ、て、
もうっ、
「より公平な裁判を——」
これ以上ブレイズくんを苦しめないで!!!!
「〜〜~゛〜〜~~っっ違う!!!! ちがうっ、公平なわけないっ、っっっあれの何が公平だ!?」
ブレイズくんはテーブルを叩きながら、被告人のように立ち上がった。
窓から差し込む光が、スポットライトのように彼を照らす。
「あいつらは腐ってる!!!! あいつらはっ、人外、は、っ、、............ぁ」
講義室が、法廷へと移り変わった瞬間だった。
「............へぇ?」
トモル先生は顎に輪っかを当てながら、ゆっくりと首を傾ける。
「ブレイズくんは、どういうところが『公平』じゃないと思うんだい?」
「何もかもです!! お前はっ、ネルソービューは間違って......、」
ブレイズくんの頬に汗が伝う。埃と一緒に照らされて、光る。
正気を失いかけてても。過去に囚われていても。
今のこの状況が、まずいことだけはわかるみたい。
「具体的には、どういうところが駄目だと思うのかな?」
「っ、............」
「......ブレイズくん?」
先生。
わざと......なの?
ねぇ。わざとブレイズくんを動揺させるようなこと言ったの?
その天使の輪っかで、ブレイズくんを捕まえるつもりなの?
ポエナに送り返しちゃうの?
送り返したらどうなるの? 宮殿に閉じ込めちゃうの?
それとも、もっともっと酷い目に遭わせるの?
消すよりも残酷で、悲痛で、
また。二度と会えなくなっちゃうの?
「大丈夫だよ、ブレイズくん。言ってごらん?」
「......俺は............」
「人間には、問答無用で過去を覗く魔法を使うとか。裁判に使われる鏡が割れているとか。その他にも、色々言ってくれていたよね?」
トモル先生は、そんな酷いこと。しないよね?
ブレイズくんにも優しくしてくれるよね。
だって私、忘れてないよ? 一年生のときさ。
私に、『あの子のことを気にかけてあげてくれないかな』って。頼んでくれたよね?
だから先生は——
『あの悪霊が、君たちを襲うことはもうない。ちゃんと退治したからね』
『きちんと消し去ったからね』
............せんせ、い......は......っ
ヒナタくんを............
「君はどうやら、ポエナの事情に少し詳しいみたいだね」
「..................」
「『腐ってる』と言っていたよね? 裁判官たちのことを」
だめだ。
せんせー、
ブレイズくん
まで
「——————————————っっっやめ」
「大正解だよ、ブレイズくん。君の言う通り、ポエナは腐り果ててしまっている」
............私。
魔法を使ってまで、トモル先生を止めようとしたのに。
口から出そうだった悲鳴が、喉の奥で溶けていく。
いつの間にか握っていた杖が、手汗で滑り落ちそうになる。
ブレイズくんの瞳に炎が戻って。彼は絶句しながらも、やっとちゃんと息を吸う。
首の根本に咲いていた穴が、一つ一つ塞がっていく。
「......どうやら。予習をしてきてくれたのは、ブレイズくんだけだったみたいだね?」
トモル先生は、手に持っていた天使の輪っかを掲げて、自分の頭上に置いた。
そっと、指を離す。すると、輪っかは独りでに浮く。
......私と違って。似合ってる。
「ブレイズくんの言う通り、現在ポエナにいる裁判官たちは本当に酷くてね。基本的に差別主義者で、倫理観も壊れてしまっている。......全員がそうなわけではないと思うけど」
———————え?
じゃ、じゃあ先生......つまり......
「人間だけじゃなくて、色んな人外も差別の対象になってしまっているんだ。サキュバスは、過去に恋人がいただけで地獄送りとか。トロールは、整形学科に通っただけで地獄送りとか」
ブレイズくんを捕まえるつもりは......ないってこと......?
「さて......みんなにはまだ言ってなかったけど。このクラス——『裁判倫理学』の目的はね。生徒たちに『公平』とは何かを学ばせて、正しい倫理観を持たせることなんだ」
先生と、目が合う。
すると、先生は真っ白な髪を揺らして、眉をひそめる。
「そして、裁判官を志望する卒業生をポエナに送りこんで、今いる腐った裁判官を引きずり下ろす......」
目が。少しだけ、輝いている。
ブレイズくんの炎よりも明るくて、眩しい。
「ネルソービューはね。より公平な世界を作ろうと、僕たちなりに奮闘しているんだよ」
申し訳なさそうにも、いたずらっぽくも笑う先生を見て。
私はそのまま、浮いていた腰を椅子に落としてしまった。
***
「なぜ俺を庇ったのですか?」
授業が終わるなり、ブレイズくんはトモル先生を追って出て行っちゃってさ。
そんな彼にようやく追いつけたと思ったら、二人は誰もいない廊下で対峙していて。
「お前はもう、とっくに気づいているのでしょう? 俺の正体がなんなのか」
「......」
ブレイズくんは両手を丸めて、先生を睨みつけていた。
怒り。不信。そして、一握りの恐怖。
だけど......爆発するような憎しみは、もう落ち着いてるみたいだった。
「ネルソービューの教授という立場でありながら、なぜ俺を追放しようとしないのです?」
「......」
「なぜ......咎めないのです?」
「............」
トモル先生は、笑顔とも真顔とも言えない、ふわっと悲しげな表情を浮かべていた。
私が来たことに気づいても、少しだけ眉を上げるだけ。
......何か言える雰囲気じゃなさそうだから。
私はブレイズくんの後ろに立って、ただ二人を見守ることにする。
「『裁判倫理学』の目的は、本当にお前が言った通りなのですか? 本気で......生徒を、差別主義から遠ざけたいと思っているのですか?」
「......違うと思うのかい?」
「はい。ネルソービューが、人間のことを気にかけているとは思えません」
ブレイズくんの目は真っ直ぐ。
死んでいても、彼の瞳はいつも生きている。
「どうせ、何か裏があるのでしょう? 何か、......」
「......これは、ただの仮説に過ぎませんが......」
静かに揺らいでいた炎が、一瞬だけ消えかかった。
「............お前は......俺を庇うためだけに、あの場で嘘をついた」
「......」
「咄嗟に授業内容を変えた。本来の『裁判倫理学』とは、目的も趣旨もまったく異なるものへすり替えた......違いますか?」
......そうなの?
「もう一度聞きます。なぜそこまでして、俺を庇ったのですか?」
「ちょ、ちょっと! まだ僕っ、君の仮説が正しいとは言ってないんだけど......?」
「なぜ俺を庇った? 何を企んでいる?」
「......あはは......なんだか......信頼されてるのか、疑われてるのかわからないね」
天使の輪っかが、先生の頭を優しく照らす。
光を浴びた雪景色に、星模様が現れるように。彼の髪も、翼も輝くの。
そして、先生は輪っかを指で弾いた。
弾き飛ばして、キャッチして。ズボンのポケットの中にしまう。
いつの間にか、目から光を失っている。
片方の腕を掴みながら、私たちの方へ歩み寄ってくる。
「............あのね」
感情を読み取られないようにするためか。
トモル先生は、そっと金色の瞳を閉じた。
「僕は、ただ——」
次話:恋のグレーゾーン
です。トモル先生のことがもう少しわかります




