戦闘後のナンパヒ島
—異世界アーリー ナンパヒ島 未完の浜 —
私、「時の加護者」アカネは魔神アルデンと共に姿を消した。
そして精神体となったシエラも「運命の加護者」シャーレの手によって「現世」へ送られた。
防魔法の結界「転・法魔櫂生」も解除され、一見、異世界アーリーは平和な月夜を取り戻したように見えた。
しかし魔神アルデンの「炎のつぶて」により沸騰した海は深刻な爪跡を残した。
浜には魚たちの死骸やジュゴンなどの沿岸で生活する動物が酷い火傷に傷つき鳴き声をあげていた。
海を渡る1匹の蝶が月明かりを頼りに飛んできた。力強く光る羽根は翠色の煌めきを放っていた。
未完の白浜に降りたつと輝きはさらに大きくなり、エメラルドの光柱の中にドライアドが姿を現した。
ドライアドは打ち上げられた大量の生物の死骸をその手に掬った。
「なんて可哀そうな.. 蝶よ。助けてあげてください」
ドライアドが手の平に息を吹きかけると、そこから永久蝶の大群が生まれ出た。
海面を覆いつくすほどの蝶の大群は魚たちの亡骸や苦しむ動物たちの上に止まると羽ばたきを繰り返した。
その羽ばたきの度にエメラルドの煌めきは強くなり、やがて未完の白浜は生命の樹サイフォージュの香りに包まれていった。
—ポチャン
海面で命果てた魚が眠りから覚めたように音を鳴らして海に戻っていく。
浜に打ち上げらた魚たちはリシュルとバンクによって海に返された。
沖では海面から飛び上がったイルカの姿が月の光に浮かんだ。
「久しぶりだな、ドライアド」
「ええ、シャーレも元気でしたか?」
「まぁ、私はな..」
突然の気配にシャーレの耳がピクリと動いた。そしてクローズが身構える。
岩の影に隠れていた蟹が一斉にワサワサと逃げ出した。
岩となったシエラが動き始めたのだ。
「シエラか、お帰り。ご苦労だったな。うまくいったようだな」
白浜に胡坐をかくとシエラが言った。
「うん。万事うまくいったよ。帰ってくるよ、僕の『時の加護者』アカネ様が」
・・・・・・
・・
現世からいくつもの空間の扉を押し広げ『千手の恕』は異世界アーリーに辿り着いた。
月明りに浮かぶ未完の浜が目の前に広がると、私は『千手の恕』から砂浜の上に飛び降りた。
もつれる足で私は白浜を走った。
そして近づいてきたツグミとリシュルを思いきり抱きしめた。
「お帰りなさい」
2人の温もりと息づかいが肌に伝わった。
「アカネ様、お疲れさま」
「シエラ..」
近づいてきたシエラと固い握手を交わすと力強く抱擁した。
「シエラ、ありがとう。シエラが来てくれたから、魔神を倒すことが出来たよ」
「僕はアカネ様のためなら何処へでもいきます。だって僕は『時の加護者』のトパーズですから」
(シエラ、本当にありがとう。私のトパーズ。私の親友、大好きだよ)
もう一度、しっかりシエラを抱きしめた。
「ところで、アカネ様。5人の魔王たちはどこへ行ったのですか?」
「ああ、彼らはね、依り代をとりにシェクタ国へ飛んで行ったよ」
「シェクタ国へ? 依り代って?」
「うん。魔神アルデンが世界に恐怖をもたらすために創った『5色の龍』。その龍を彼らは依り代にするんだって。これで魔界と異世界アーリーを自在に行き来できるって喜んでたよ」
「もともと自分たちの魔力で創った龍ですもんね」
遠い空から赤・青・緑・黄・黒の光が飛んでくると5匹の龍がナンパヒ島の空を覆いつくした。
龍は魔王へと姿を変えゆっくりと未完の白浜へ舞い降りた。
そしてみんなの前に膝を着いた。
真面目な魔王ローキが経緯を説明し長々と謝罪をしていたが、みんなにとってその謝罪はさほど意味を持たなかった。
ツグミとリシュルは海辺のイルカと戯れ、シエラとクローズはおしゃべりしている。
グレイブ使いのロウゼにいたっては『気を失うなど不甲斐ない奴だ』とシャーレにお叱りを受けていた。
やがて、診療所からおいしそうな香りがしてくると、サオさんの元気な声が聞こえた。
「みんなぁ、料理が出来たよ! こっちにおいでよ!」
サオさんの横にはジェラが寄り添っていた。2人は笑顔で皆を迎え入れた。
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