女神と黒羽
「千手の恕」の上に乗る私の頭上には漆黒の闇が広がる。世界で今、未曾有の災悪が起ころうとしていることに気が付いている者がいったいどれほどいるのだろうか?
「さて、そろそろ終焉の幕を開けるとしよう。クククク.... な、なんだ!」
魔神アルデンは私がどれほど悔しがって泣き喚くかを楽しみにいやらしい顔で覗き込んだが、含み笑いが喉に詰まるくらいに驚いていた。
「なぁに? どうしたの、魔神アルデン?」
「な、何をした! 貴様!」
「何をそんなに狼狽しているの?」
「すっとぼけているんじゃないぞ! 貴様の腕! 治っているじゃないか!」
「どうやら、あなたの中のローキやルカはあなたに大切な事を秘密にしているようね? もしかして、あなた5魔人の魂を統制できなくなったんじゃないの?」
「質問に答えろ! お前..いったい何を....」
私はゆっくりと肺の中の空気をすべて吐き出し、そしてゆっくりと肺を満たした。
現世において「時の加護者」の力を出せないのは、単純な話ここが異世界アーリーではないからだ。事実、魔神アルデンも体内の魔素を燃やしながら、5人の魔人の魂を結び付けているだけで精一杯だった。そのため、魔人ローキと魔人ルカの中にある記憶を読み、これから私、一ノ瀬茜に起きる奇跡を予想することができなかった。
シエラの精神体は既に「運命の加護者」シャーレが作り出した道を通じて私の精神に入り込んでいた。ケガが治ったのはシエラの自己修復能力によるものなのだ。
そして、今、月明かりの中、再び彼女が現れるのだ。
「シエラ、力を解放して」[ はい、いきますよ ふぅ ! ]
——魔神よ。よく見るがいい。月の光に舞い降りた白女の姿を。
世界で現れる白き者。ある場所では聖なる女神、またある場所では死神と言われることもある。
そしてアメリカ政府機関がつけたコードネームは White And Moon『WAM』 ——
ワムは髪からまつ毛、肌まで白い、唯一その瞳だけは月の光の色をしている。
「だ、誰だ! 何者だ! お前は.. 」
魔神アルデンはただ本能で震えていた。目の前にいる者がヤバイ奴と感じ取ったのだ。
『私の名はワム。あなたを解放してあげるわ』
「貴様は落ちろ!」
魔神アルデンが手を振り払うと「千手の恕」が消え去った。しかしワムは落ちなかった。
[ シエラ、どうして落ちないの? ][ それは私が精神体になる時、ツグミが脚にこれを ]
自分の足首を見ると「空転の翼輪」が結ばれていた。
「クソッ!貴様、ジャクの能力までまねやがって」
[ それはお互い様。というよりも魔人はツグミの子供のようなもの。ツグミが使えてあたりまえでしょ ]
「おのれぇ! 闇炎よ、落ちろ! ライ.... 」
魔神アルデンが何かを詠唱しようとした時、ワムが姿を消した。
ワムは速さの概念を越えていた。
見る者によっては、魔神アルデンの周りで舞っているようにも見えた。
その舞はカポエイラの舞にも見えたし日本古来の神楽の類にも通じるものがあった。
ワムは時の次元空間で魔神アルデンの身体を5度も通過したのだ。
[ さぁ、アルデン、もう楽になっていいのよ ]
浩々と光る満月のように吸い込まれそうな深い声でワムは語り掛けた。
魔神アルデンの黒い羽根がゆっくりと5個に分断された。
分断された羽根は黒い輝きと共にそれぞれが再生していく。
羽根を広げると、その中から5人の魔王が誕生した。
憤怒の魔王ローキ、慈愛の魔王ドルヂェ、静謐の魔王ダリ、天空の魔王ジャク、炎光の魔王ルカ
そして魔王ドルジェに抱かれるようにシェクタ国王アルデンの姿があった。
魔王ルカが天に漂う闇炎へ手をかざすと闇炎は苦悶の表情を浮かべるアルデンの体内に入っていく。
身体の中で仄かに光るものが何かを燃やしているようだった。アルデンの顔から不安や苦しみが消えて行った。
そして穏やかな顔で光る塵となり月へと舞い上がっていった。
「アカネ様、『時の加護者』アカネ様にお返しようがない御恩ができました。我ら5人、アカネ様の為ならばこの身を捧げても構いません。何なりとお申し付けください」
『そうね。じゃあ、あなた達は私の妹「法魔の加護者」ツグミの為に尽くしてちょうだい』
「はっ、かしこまりました。我ら5大魔王は永遠に『法魔の加護者』ツグミ様にお仕えします」
『うん。はぁ~、疲れた。取り敢えず帰ろうよ』
魔王ドルヂェの青い魔眼が開くと空間から「千手の恕」が現れ、ワムと魔王たちを手の上に乗せ、異空間へ消えて行った。
この空が闇に包まれる現象は世界中のカメラに収められた。その映像には空に浮かぶ白い女神と5人の魔王の姿が映されていた。
しかし後日、アメリカ政府機関よりこれはドローンによって描かれたフェイク映像だと分析され、日本をはじめ世界各国へ公式に発表された。
そして人々の記憶から消えていった
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