蒼く燃えよ暗欄眼—リシュル覚醒
普通なら踵に心臓は潰されて絶命するはずだ。
しかし、魔神は硬化魔法と空間防御魔法でガチガチに身を守っていた。加えて自己修復能力に完治魔法を合い掛けすることで驚異的な治癒力を発現していた。
「く、おのれアホな女かと思えば、変な所で機転をきかせやがる」
「そうね。それを世間ではヒラメキって言うのよ」
魔神は顔赤くして怒った。そして大きく息を吸うとすぐに冷静さを取り戻すのだった。
この魔神の性格はかなりはっきりと「5大魔人」の特色が表面化しているようだった。怒りやすいのはジャク、警戒心はローキ、分析力はドルヂェ、冷静さはダリの特色なのだろう。
「ふぅ..私としては不本意だが肉弾戦だけでは苦戦するようだ..だから、また魔法に頼る事にするよ。— バリ・ハリュシュ — 」
魔神の右手から2つの「炎のつぶて」が私とシエラに向かってきた。
「今更、こんなもの」「いけない!アカネ様、罠だ!」
シエラの言葉虚しく私は思いきり蹴り上げてしまった。すると「炎つぶて」より天界をも焼きつくすような「憤怒の業火」が噴きだした。
[ —ラクト— ]ツグミが氷結魔法の詠唱すると業火が一瞬で凍った。
「憤怒の業火を瞬間的に消すとはツグミ様の魔法はいつも切れがいい。でも、ほら見てごらんよ、アカネ」
ツグミの身体の中で淡い光が点滅している。周りを見るとリシュル、バンク、気を失っているロウゼの胸でも淡い光が見えた。
「アカネ、そいつらの胸に特別性の『炎のつぶて』を忍び込ませた。さらにだ。私はシェクタの地に『5色の龍』の召喚術を施してある。私が魔力を送るだけで龍は卵から孵化し、たちまち世界に最悪をばらまくだろう。故にアカネよ、私の攻撃を防ぐな。抵抗すればどうなるかわかるよな」
「ぜんっぜんわからない!」
「強がるな! いいのか? 爆ぜるぞ!」
「それも嫌だね」
「わがまま言いおって」
「私、ちょっと考えてみたんだ。もしも私が抵抗せずに死んだら3主の力が欠けて現世が消えちゃうでしょ。それは嫌だよ。私の故郷だから。それに私が生きようが死のうが結局あなたは『炎のつぶて』と「5色の龍」に魔力を送るつもりでしょ」
「ほぅ.. それで」
「それで....あなたの約束に何の価値がある」
「ふふふ。ならば、そこで仲間が消し炭になるのを見るがいい。まずはバンクからだ」
「そう..バンクからやるつもりなんだ。バンクが消し炭になっちゃうんだ。そうなんだってさ、リシュル!! ねぇ、あなたの目の前で家族がいなくなってしまうよ。せっかくハクアがあなたの願いを叶えたのに。それでいいの? ねぇ? 結月!!」
「い..いや、いやだ。もう独りは嫌。バンクは私の家族。バンクと一緒にいたいよ!バンクお兄ちゃん!」
その時、リシュルの眼帯が蒼い炎に燃えた。そして開け放った両目の暗欄眼から鋭い光が放たれた。
奇跡の暗欄眼が覚醒したのだ!
それを見ると魔神アルデンは酷く取り乱した。何しろ恐怖していた奇跡の暗欄眼が目の前に覚醒したのだから。
「私は.. 認めない..」「待って結月」
リシュルが「秩序の加護者」の「審判の瞳」を唱えようとした時、ツグミがリシュルに抱き着いた。
「—ラキタ・ルググ・リル— 魔素よ、生命に転じよ 転・法魔櫂生」
ツグミは残りの魔素で大魔法の詠唱をとなえた。その魔法がリシュルの『奇跡の暗欄眼』をとおして、世界中にちらばるティラーの民の暗欄眼に伝わっていった。
たちまち大きなうねりと共に『転・法魔櫂生』の結界が世界を包み込んだ。
通常、ティラーの民がもつ暗欄眼は1つ。
リシュルはそれを両目に持っている。
その奇跡の暗欄眼はその眼を通し、他人の能力を倍化する。
そして真に恐ろしいのは彼女の暗欄眼は世界に散らばるティラーの民の暗欄眼をも自分の眼として使える事なのだ。
ツグミはリシュルの奇跡の暗欄眼の助けを借りて、ギリギリの魔素で結界『転・法魔櫂生』を世界に張り巡らせることに成功したのだ。
しかし、その大きな力の反動にリシュルは気を失い、ツグミは1歳の赤子へ戻った。
「何をしたか知らないが、この野郎。全て、燃えて無くなれ!」
魔神が魔力を込めるとそれぞれの『炎のつぶて』からピンクサファイア色に輝く光の柱が立ち上がった。これは魔法が魔素へと逆行する現象だった。やがて光から無数の蝶が生まれ飛ぶ。それらは魔素の精=魔素蝶だった。
『転・法魔櫂生』とは、その魔素を転じて生物を生み出す結界なのだ。
無数の魔素蝶は「法魔の加護者」ツグミの元へ集まってきた。
魔素蝶が羽を広げると、ピンクサファイアの輝きを発し、ツグミの体へ溶け込んだ。
魔素を取り込んだツグミは魔法『来迎の反映』により7歳の姿を取り戻した。
「アルデン!これであなたの魔法の鎧はなくなったよ」
ツグミは拳を胸にあてながら魔神へ言い放った。
「く.. おのれ、だがな.. なぜ私を消さなかった。あのまま『秩序の加護者』が私の存在を消すこともできたはず。私にはまだ貴様らを倒す力があるのだぞ..お前らの考えることはわからんな」
魔神アルデンからあせりは消え、その代わりに大きな疑問が残っていた。
「『運命の加護者』は道を示してくれる。『法魔の加護者』は魔法への可能性を広げる。『秩序の加護者』は世界の秩序を守る。それぞれの役目がある。そしてどんな困難にも打ち勝って未来へ時を進めるのは『時の加護者』の仕事。魔神アルデンを倒し未来を切り開くのは。私のお姉ちゃん『時の加護者』アカネの役目なのよ」
ツグミの言葉は静かで少しの不安もない横顔を私は両目にしっかりと焼き付けた。
「ふぅ.. そんなに期待されるなんて.. さぁ、正々堂々と最後の闘いをしましょ、アルデン」
雲が消えた天空の星空が私と魔神アルデンを包み込んでいた。
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