返事をするファンタンの長靴
—それは魔神アルデンがナンパヒ島に再来する少し前のことだった。
ツグミが驚くべきことを言った。
「ジェラ、私はあなたの『法魔の加護者』トパーズとしての任を解きます」
そこにいる全ての者が信じられなかった。
今からより強大になった魔王と闘うというのに。
魔素を作り出すジェラを解任するということは、ツグミにとっての魔素の供給源を断つことなのだ。
「なぜだ、ツグミ? なぜ今なんだ!?」
ジェラはツグミに詰め寄った。
「はっきり言えば、次の闘い、魔王は私に魔素を補充する余裕を与えない。あなたが魔素の供給源と知れば、必ずあなたは消されてしまいます」
「馬鹿な。俺だってトパーズだ! 命に代えても—」
「ジェラ!! サオさんを連れて再び迷い森にいくのです! そして今度はセイレーンたち鳥獣族に手出し無用と伝えなさい。今度の魔王には小細工は通用しない」
ジェラは唇をかみしめていた。
命を賭したルルさんの願い、ツグミはそれを無駄にはしたくなかったのかもしれない。
しかし、ツグミの魔法はいったい何度使えるのだろうか。
きっとツグミは残りの魔素を私たちの守りに使うはずだ。
—そして、現在、熾烈な闘いは続いていた。
魔王の極大魔法の攻撃は天から雷、地から氷刃の同時攻撃だった。
ロウゼは雷に寄り意識を立たれてしまった。
そして、秩序の力である『禁言』を嫌う魔神は、それを封じるためにバンクの脚を引き裂いた。
氷刃により脚はズタズタにされたが、その凄まじい痛みにバンクは決して声ひとつ発しなかった。
自分が悲痛な声をあげれば、リシュルが不安になってしまう。
しかし、バンクの心配は全く意味がなかった。
その凄惨な光景を近くで見れば、叫ぼうと黙っていようが同じだ。
脚はバンクの誇りであり命に等しいものであることは、リシュルは知っているのだ。身体の痛みよりも、その誇りを奪われたバンクの苦しみをリシュルは誰よりも理解していた。
「バンク、バンク!」
泣いてすがるリシュルにバンクは『今は闘いの中です。泣いてはいけない』と言うのだ。
だがそんなもの14歳の少女には関係なかった。自分の家族、大切な存在であるバンクが心配なだけなのだ。
一方、魔神アルデンはわざとシエラとクローズの攻撃を受けた。
派手に自分の頭部を破裂させ、その指先で誰にも気づかれないようにリシュルへの攻撃を行っていたのだ。
強大な力を込めた「炎のつぶて」がリシュルへ向かっていた。
極小の「炎」の速さは決して誰の眼にもとまらない、私以外を除いては!
その姑息な攻撃に私の心は沸騰していた。
静かな怒りは私の脚に伝わり、その先にあるファンタンの長靴にまで届いたのだ。
意思のあるファンタンの長靴が、私の意識より先に、脚を動かした。
バヒュッっと唸ると、空気を押しのけ真っ白い衝撃波が爆発した!
『炎のつぶて』は分子レベルまで粉々になって飛散した。
「私はね、私は決して誰も死なせない!! クローズ、持って来た『エルフの丸薬』をロウゼとバンクに飲ませて。お願い」
クローズは『エルフの丸薬』をひとつバンクに手渡すと、海面に浮いているロウゼの元へ急いだ。
『エルフの丸薬』を飲んだバンクの脚の傷は塞がっていったが、彼の体力はもう闘えるほど残っていなかった。
「バンク、リシュルを連れて少し離れていて。私の邪魔にならないように..」
ファンタンの長靴が地面を二度踏みつけると長靴が —キャンキャン— と音を鳴らしていた。
『(あなた、返事してくれたの? ふふ、じゃあ、行くよ!)』
「やっと『時の加護者』アカネの登場だな。全力で叩き潰してやる!」
魔神アルデンが全てを言い終えた時、長靴がすでに魔神の右ひざに命中していた。
その衝撃波は膝から足全体の骨を粉砕したため、魔神アルデンは受け身も取れずに無様に地面にひれ伏した形になった。
「ぐあぁああああぁ!」
「私にひれ伏したの? ずいぶん素直になったわね?」
「くそ、そんな馬鹿な! なぜだ?」
魔神は屈辱の表情よりも先に自分の予想外の事態に驚きを隠せないでいた。
「余裕がなくなったみたいね。 驚くこと無いわ。あなた、私たちを見くびっていたのよ」
「何を? 貴様らなど、我にとってはゴミだ」
脚の治りが悪い魔神アルデンは苦渋の表情で言い返した。
「それが見くびりだっていうのよ。あなたは、その凄まじい力で攻勢のように映るけど、実はしっかりと、バンクやロウゼの攻撃を受けてしまっていた。それを見て思ったの..あなた、本当はあまり強くなってないんじゃないかって」
「それはお前が私の実力を計れていないだけだ」
やっと膝を治した魔神は再び立ち上がった。
「そう? じゃ、あらゆる魔法を使ってもいいよ。私が全て粉砕してやるから。どうぞ」
「な、なめおって。だが、せっかくの誘いの言葉だ」
[ — ナメル・タ・レズカ — ランス・レズカ — リン・シ・タクト — ]
魔神は硬化・速さ・防御の3つの詠唱を唱えた。
「ふふふふ。これで私の防御は完璧だ。そして攻撃はシエラの『無限の防御』すら超えるぞ。そうだ、貴様らの弱点、雷撃も加えよう」
魔神が天に手をかざすと稲妻が落ちて来た。その力が魔神を黄金に輝かせていた。
「私に触れれば、お前たちの弱点である電撃を喰らうことになるぞ。攻撃できまい! さぁ、どうする? 『時の加護者』アカネよ」
魔神が腕を振ると電気の渦が巻き起こる。
「いいよ。でも勘違いしてるから教えてあげるわ。シエラには雷撃は効かないから、油断しない方がいい。あなた、さっきクローズとシエラに対してアホみたいに雷撃していたでしょ? 前にシエラが倒れたのは私が雷撃で倒れたからなのよ」
「なるほど。それは勘違いをしていた。だが、教えるとは余裕だな....」
「これを騎士道精神っていうのよ。覚えておくといいわ」
「小娘の分際で! 元シェクタ国の王であった私に騎士道をほざくな!」
魔神アルデンの咆哮のあと、全てが沈黙した....
そして、浜に押し寄せた波が、バチャリと音を鳴らした!
魔神の姿が消え、その動きに音や風は間に合わない。
『時の加護者』への攻撃を防ぐのは、いつでも守護者であるシエラの.. はずだった。
—バギィィイン
魔神の上からの肘打ちを、跳ね上げた脚で防いだのは、シエラではなくアカネ自身だった。
纏われた雷撃はファンタンの長靴が全て吸収していた。
肘が弾き飛ばされると、魔神の上半身は無防備に伸びきった。
闘神シエラの踵蹴りが左下からあばら骨をバキバキとこじ開けながら、心臓へめがけてめり込んでいく。
その美しいほどに寸分たがわない連携技にクローズは感嘆した。さすがは「時の加護者」と「闘神」だと。
— 攻守の逆転 —
『守りのトパーズ、攻撃の加護者』の思い込み利用した逆転の発想。
攻撃は最大の防御、そして2人の攻撃を防御できるものなど、この世界に存在するはずなかった。
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