暗欄眼を見張る魔眼
私は「時の加護者」アカネ。
ついに魔王アルデンがナンパヒ島に再来した。それも魔人ローキ、魔人ルカ、そして魔鳥レイをもその身に吸収したアルデンは自らを魔神と呼び、圧倒的な力を私たちに見せつけた。でも、大人しく負けてやるものか。子犬だって人間の脛くらい嚙みつけるんだから!
—その時、世界各国では....—
ナンパヒ島に渡ってきた者たちは「秩序の加護者」リシュルとバンク、グレイブ使いのロウゼ、運命のトパーズ=クローズの4人だけだった。
だからと言って、世界各国の英雄たちが怖気づいたわけではなかった。
王都フェルナンではアリアの剣を持つアコウとクリルの森のエルフ部隊が、召喚魔獣から王都を守っていた。
王国カイトでは、国境の森とシュの山に強力な結界が張られていた。その結界を支えるのは、特殊部隊ラワンと光鳥シドだった。彼らは魔獣・猛獣を一匹たりとて侵入を許すことはなかった。
ギプス国の近海には最強の海獣プーフィスが海を渡ろうとする魔海獣を待ち構えていた。プーフィスが一旦その大顎をあければ全てを飲み込み、あとにはさざ波ひとつ残さなかった。
そして太陽の国王国レオでは、ロウゼの兄であり、闘神シエラに熱烈な信仰を持つガゼとヴィタニマ村の住人たちが警戒を強化していた。
——ナンパヒ島 未完の白浜—
「ひれ伏すのだ。私は魔神アルデンである」
やはり『魔神』という称号を自ら使うアルデンはどこまでも力に固執しているのだ。
「貴様、いつまで私たちを見下ろしているつもりだ。とっとと地上へ降りて来い。降りて来ないのなら、引きずり降ろしてやるぞ」
バンクがたくましく感じる。少し生意気さを感じるのは魂の一部にティムの人格が入り込んでいるせいかもしれない。
「人間のくせに生意気な。..しかし、お前は本当に人か?」
「だまれ! — 私は偉そうに上から見下ろす者を認めない —」
バンクがその光る脚を地面に叩きつけると『禁言』が発動しバンクを中心に300mの地面を光らせた。
すると魔神アルデンは地面に引っ張られ海の上に引きずり降ろされた。
バンクの『禁言』は昔より範囲が広く強力になっている。それは彼が仕える『秩序の加護者』が奇跡の暗欄眼の持ち主だからだ。
「やはりお前はただの人間ではないな」
そういうと目にも止まらない速さでバンクへ襲い掛かる。3本目の脚でバンクを襲うもバンクとて脚専門の格闘家だ。脚と脚がぶつかり合うと空気が震えた。だがすぐに追撃の4本目が襲い掛かる。当たれば肉を裂き骨は砕ける威力がある。
—ガヂッ..
「俺も無視しないで混ぜてくれ」
その脚を軽く受けたのはグレイブを持つロウゼだった。ロウゼの髪と瞳は銀色になり手に持つグレイブは以前のものと違っていた。振るうと銀の粒子が光り輝くのだ。
「ロウゼ! なんだ、それは?」
シエラが嬉々として聞いた。やはりシエラは闘いが好きなのだ。
「ああ、今回、俺はシャーレ様の使いだ。これは彼女にもらった『雨穿つの槍』だ」
ロウゼは魔神の脚の威力を殺しつつその反動で距離を取り追撃を防いだ。そしてその槍を振るうとまだ届かない距離であるのに槍の矛先が魔神の肩に穴を開けた。
ロウゼの持つ槍は「アリアの剣」「不縛の剣」に並ぶ威力を持っている。しかも「運命の加護者」の使いならばロウゼは加護者の『恩恵』も持っているのだ。
「これは驚いた。お前たちの強さは賞賛に値する。だがもうわかった」
深く響く声で不気味な言葉が耳に残る。
「何がわかったというのだ」
ロウゼの槍が魔神を穿つ。しかし、魔神の体を透明な膜が包み込んだ。槍の衝撃はその膜に囚われるように玉となり地面へ落ちていく。そして落ちた衝撃は地面をえぐるように爆発したのだ。
魔神は圧縮空気の鎧をさらに進化させ身に纏ったのだ。
しかも、いとも簡単に一瞬にしてだ。
さらに凄まじい速さでロウゼに詰め寄る。
「— 私の周りで目に見えぬ速さで動くことを認めない —」
バンクが禁言で魔神の動きを抑制したが、時空系の魔法を使う魔神の速ささらに増していった。
ロウゼは衝撃波と共に海に吹き飛ばされたが、辛うじて槍の柄で受け止めた。しかし、脇腹を負傷してしまった。
『ガフッ』と血混じりの咳が出た。
間髪入れずに、魔神は天に手をかざした。雷雲が発生すると空気を裂きながら雷剣が降ってきた。
ロウゼ、バンク、クローズはもちろん私とシエラも弾き飛ばしたが、闘いの迫力に恐れ、ひとり後ろにさがった「秩序の加護者」リシュルに雷剣が突き刺さろうとした。
しかし..
ボヨ~ンと空気がまるで衝撃吸収シートの様に剣を弾き飛ばした。ツグミが防御魔法をリシュルの周りにかけてくれたのだ。
だが、魔神の狙いは雷剣による直接攻撃ではなかった。弾かれた雷剣は地表に突き刺さり六芒星の魔法陣を作り出していたのだ。
[ 極大魔法 — ラグド・ディリ — ]
天から空気を裂き極大の稲妻が落ちた! 直撃を受けたロウゼは白目を向き気絶してしまった。
私とリシュルはツグミが咄嗟に創ったカシュの葉の絶縁壁により守られた。
「バンクの脚は面倒だから潰させてもらったぞ」
魔神にとって一番厄介な『禁言』を封じるため、バンクの脚は地表から生えた氷の刃でズタズタにされていた。
魔神アルデンは得意そうにしていたが直ぐに異変に気が付いた。
そこにシエラとクローズの姿がなかった。
「馬鹿...—」
左からクローズの振動波、右からはシエラの強烈な蹴りが直撃した。
魔神の頭は大きな音をたてて破裂した。
「あなた、わざと蹴りをくらったわね。狙いはお見通しよ」
私の眼は決して見逃さなかった。破裂した瞬間に魔神アルデンがしていたことを。
アルデンはマジシャンが使うような心理的な死角をついていたのだ。
自分の頭をわざと派手に破裂させると、その手からしっかりと『炎のつぶて』を放っていたのだ。
その「つぶて」はどこへ向かっていた?
私ではなかった。『炎のつぶて』はリシュルに向かっていたのだ。
当然、『炎のつぶて』は私の脚で分子レベルで蹴り飛ばされた。
「あなた、怖いんでしょ?」
「何がだ?」
「とぼけても無駄よ。あなたはリシュル、いいえ結月が怖いのよ。奇跡の暗欄眼、最強の加護者が目覚めるのが怖いんだわ」
魔神アルデンは今までにない憎悪のこもった眼で私を睨んだ。
「いつも、いつも、目障りな奴だ! 時の加護者、アカネめ!!」
私は知っていた。
アルデンの額の魔眼は、今まで片時もリシュルから、目を離していなかったことを。
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