魔神降臨
私は「時の加護者」アカネ。
魔界にいる魔王アルデンが凄まじい力を持つ何かに変わった気配はナンパヒ島にいる私たちにはわかった。しかし、それはナンパヒ島にいる私たち以外の力をもつ者たちにもしっかり伝わっていた。この世界が吹き飛ぶかもしれない、そんな毛穴が開くような恐怖を抱かせていたのだ。
—王国フェルナン—
『ナンパヒ島へ集結せよ』という伝言はしっかりと「運命の加護者」シャーレにも伝わっていた。
それなのにシャーレがナンパヒ島へ行かなかったのにはいくつかの理由があった。
ひとつは「運命の加護者」は運命を伝える者であるという事だ。『加護者である自分はなるべく運命を左右すべきではない』それが「運命の加護者」の矜持なのだ。
そしてもうひとつは、シャーレは動くことが出来なかったのだ。王都フェルナンのすぐ近くで「永久の凍結」をされている我が娘ソルケを放って置くことがどうしてもできなかった。
この凍結がどこかの秘境の地であったならば、もしくはシャーレはナンパヒ島へ出向いたかもしれない。しかし王都の目と鼻の先にある凍結だ。
魔王が王都フェルナンを襲撃したならば、間違いなくこの凍結されたソルケを破壊してしまうだろう。
もはや「加護者」と同等以上の力をもつ魔王がどこに出現するかなどシャーレにもわからないことなのだ。
しかしシャーレがこの異世界において異物である魔王との闘いを完全に放棄しているわけではなかった。それは「時の加護者」の近くにクローズを派遣したことがその証明なのだ。
—ナンパヒ島 未完の白浜—
もはや空間に通り道を作る必要もない。自分の意志で一歩踏み出せば異世界アーリーだろうと魔界だろうと、もしくは現世にだって移動できる。そんな力を魔王アルデンが手に入れていることはわかりきっていた。それは神の技と言えるだろう。
空間がパチリと跳ねた。続けてパチパチと乾いた静電気のような音が鳴り続いている。
消すことなどできないその強大な気配。
そいつは暖簾をくぐり入るように、わずかに首を引きながらアカネ達の前に帰ってきたのだ。
背中には神々しい黒い羽根を生やしている。顔はまた別の顔になっていた。アルデンがベースになりつつ中性的な美しさを感じるのは、新たに取り込んだ魔人ルカの影響からだろう。
「アカネよ。約束を果たすために来ました」
その言葉でわかった。性格はアルデンの執着性を引き継いでいる。美し言葉使いをしてはいるが、私に苦渋を飲まされた仕返しをしたいだけなのだ。
「魔王、あなた.. その羽はもしかして」
「ああ、そのとおりです。これは魔鳥レイの羽です。少し地味ですが良いでしょ。ふふふふふ」
アルデンは魔人ローキとルカを取り込んだのち、魔鳥レイの卵を食べたのだ。自らを犠牲にしてまでも魔界をつくりあげた魔鳥レイの卵を。
普通なら怒りに任せて攻撃をするところだが、魔鳥レイの理力も手に入れ羽根を大きく広げるアルデンに委縮してしまった。
『私たちなどが歯向かってもよいのだろうか』と。
—カカンッ
音だけが鳴った。
「....やはりシエラよ。あなたの『無限の守り』だけは神の領域のようですね」
「そんなのは知らない。僕はアカネ様を守るだけだよ。僕は大好きな人、大好きな町、大好きな食べ物が無くなるなんて絶対に嫌だ。アカネ様は唯一それを守る存在だ。未来を切り開いて時を進める『時の加護者』を守るのが僕の役目なだけだ!」
そのシエラの言葉に目が覚めた。やらなければいけない。ここで終わりになろうと闘うしかないんだ。
「良い演説ですね。シエラ。じゃ、これが『時の加護者』に守れますか?」
[ —バリ・ハリュシュ— ]
アルデンの指先に赤よりも赤い「炎のつぶて」が見えた。
「これはルカの闇の爆炎にローキの憤怒の業火を混ぜ合わせた魔法です。防げますか」
その「炎のつぶて」が海の中へ投げ込まれる。沖合から水蒸気が沸きあがり空気が熱くなる。海面に次から次へと魚の死骸が浮いて来る。魚だけでなく沿岸にいるジュゴンも沸騰する海に次から次へとうめき声をあげて死んでいく。
「ははは。これはまるで鍋のようですね。この炎は海が全て干上がるまで広がります。アカネ、あなたに止められますか?」
[ —クシェリミシオ・ラクト— ]
「法魔の加護者」ツグミが詠唱を唱えると海が凍り付いた。
「さすがツグミ様と言いたいですが、そんなのでは私の怒りの炎は消えませんよ」
海の氷は割れ始め再び沸騰が始まった。
[ —ニ・ナチェイア— ]
ツグミが更に詠唱を唱えると波がとまった。沸き立つ水蒸気も盛りあがったままだ。
「そうです。ツグミ様、それが正解です。永遠に広がるならば永遠に時を止めてしまえばいい。そこのアカネなどにはできませんですがね」
「だから何? あなた私に屈辱感、敗北感を味合わせたいの? 確かに魔法は私にはできない。だからツグミがいる。私はできないことは他の誰かに頼ることにしてるの。あなた、せこい嫌がらせやめたら?」
「あなたこそせこい挑発ですね。でも、私はそういう無礼な挑発は、やはりゆるせませんね」
アルデンは大きく息を吸った。
「誰に口をきいているつもりだ。たかだか加護者ごときが! 私は魔神アルデンぞ!」
魔神は腕を大きくかざすと私を見下すように指をさしていた。
凄まじい威圧感だ。身がすくんでしまいそうだった。
しかし私は精一杯の反抗してやった。
そうだ、よく映画でやるおきまりのポーズだ。
たしかこんなだったかな....
中指を立てて『おあいにく様!』
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