5色の魔界
私は「時の加護者」アカネ。
魔法の再襲撃に備えてナンパヒ島に力強い助っ人が来てくれた。グレイブの使い手ロウゼ、「運命の加護者」のトパーズ=クローズ、「秩序の加護者」レイシャ(結月)とバンクだった。しかし、そこで大変なことが起きていることを聞いた。魔人ローキと魔人ルカが魔王を倒すために魔界へと行ってしまったのだ。だめだ!あいつと闘っては!
—— 魔界 ——
セイレーンの羽根を分身魔法で増殖し自分の羽のひとつとした魔王アルデン。その羽を大きく広げる事で魔界の位置を完全に把握した。そして「千手の恕」を使い自分を魔界へと送り届けた。
「これが魔界か!?」
魔王アルデンは驚いていた。その世界は自分が思い描いていた魔界とは異なっていたからだ。
彼が思う魔界は紫の空、草すら生える事のない穢れの地、住むのは虫や害獣の類のみの世界だったからだ。
しかし、目の前に広がる魔界は違っていた。草原の大地に宝石や氷菓子をばらまいたような赤や黄色や橙色の可愛らしい花。花に溜まる朝露に太陽の光が反射していた。そよ風はその花の甘い香りを運んでくる。
魔王アルデンはその花々を踏みつけながら歩く。
再び魔王アルデンは驚くのだった。今見た景色ががらりと変わり、そこはどこまでも青い空が広がる世界で、自分は雲の上に立っていた。
「何なのだ!ここは」
そう思った瞬間に雲の底が抜け、魔王アルデンは下へ落下していく。焦った魔王アルデンは背中の羽を広げ落下を止めた。
次の瞬間、魔王は大きな船の舳先に立っていた。海鳥が脚安めの場所を探し飛び回る。目の前をイルカが飛び跳ね水しぶきが顔にはじけ飛ぶ。
とっさに瞼を閉じるとその世界は魔王アルデンが思い描いた暗く冷たい魔界の地となっていた。
「ふははは。これは興味深い。なるほど魔界とは魔人の精神によって世界が違うのか」
魔王アルデンは理解した。
今見た世界は自分に吸収されたダリ、ジャク、ドルヂェの魔界だったのだ。ダリは草原、ジャクは大空、ドルヂェは海、そして自分が不毛の地。
魔王である自分の世界が不毛の地であることに自嘲した。
魔王アルデンはそれで良しと納得し、セイレーンの羽を広げ、魔鳥レイの気配を探った。
「お前の想い通りにはさせないぞ、魔王」
大地に亀裂が走ると、その亀裂から赤い業火が噴出した。目の前には真っ赤な姿に黒い隈取り、大きな牙を見せ、目を見開く魔人ローキが立っていた。
「ローキ、どちらかというとお前の方が魔王のような顔をしているな」
「魔王、憤怒の業火が見えているだろ。それは私の怒りだ!今から貴様を消し炭にしてやるから覚悟しろ」
そう言うとローキの背中の腕が巨大な横槌を持って、容赦なく魔王の頭へ振るわれた。
「やめてローキ。草花が焼けてしまう」
ローキは横槌を急に止める。花香る草原に立ち、涙を流すダリを見たのだ。ダリは短剣でローキの腹を裂いた。
「がああ!」
「ごめんなさい。許して、ローキ」
ローキが謝るダリの肩を掴むとそれは砂浜にたたずむ小さな少年の肩だった。
「お兄ちゃん、いつ帰って来たんだよ。僕は寂しかった」
「お前はドルヂェ」
「そうだよ。お兄ちゃんは自分だけ助かるために3主様の所へ行ったんだろ。僕たちを放っておいてさ。ずるいよ!自分だけ正義で僕らは悪なんだろ」
「そんなことない..俺は」
「見てみろよ。ほら、お兄ちゃんがいなくなったからジャクが、こんなことに」
足元を見るとバラバラになったジャクの遺体が波に打ち上げられていた。
「ジャク!何てことだ!」
「何を驚いているの?ローキ!ローキが始めた闘いだよ」
上半身のジャクが目を見開くと、ジャクの雷剣、ダリの短剣、ドルヂェの爪がローキの心臓を3方向から貫いた。ローキは涙を流している。なぜなら、ローキに見えているのは身代わりに刃を受けているダリの姿だったからだ。そして自分も短剣で愛するダリを貫いていた。
「ローキ..もう闘ってはダメ。あなたの罪は私が持っていくから、もう兄弟で争わないで。お願い」
草原に倒れ、目を閉じるダリを見てローキは叫んだ。そのローキの肩を抱くドルヂェとジャクだった。
3方向から心臓を貫かれたローキの体は黒く炭化していった。
そして業火が鎮火した世界で魔王は言った。
「自らの業火で消し炭になったのはお前だったな、ローキよ」
魔王が大きく息を吸い込むとローキの炭はカサカサと音をたてながら崩れて、魔王の体に吸収された。
この魔王とローキの闘いは闘いにすらなっていなかった。
ほんの数十秒の現実をローキに見せるだけで、彼の怒りは不甲斐ない自分への怒りへと変わってしまったのだ。
責任感の強さとそれ故の自責の念に苛まれていた彼の心の弱さ。
それを知っていた魔王の勝利だった。
「哀れな奴」「馬鹿な奴」と蔑むような感情すら今の魔王には感じていない。
当然の結果だからだ。
ローキの圧倒的な内在する力を得た魔王は身体が一回り大きくなった。その圧倒的な力の飛躍は次のルカとの闘いで証明された。
何もない砂漠の地だ。
「これがお前の世界だな、ルカよ」
「そうだ。僕の闇炎はどんなものでも砂塵に変えてしまう。もちろんお前の邪心もだ。有無を言わさない。これがお前が恐れていた闇の爆炎だ!」
ルカの指先より小さな種火が魔王に飛んできた。ほんの小指の先ほどもない種火が魔王の胸に止まると闇色の火柱が天を貫いた。今、魔王の身体と心は激しい闇色の炎に燃やされている。
「なるほど。これが私が恐れていた闇炎か。確かに邪心すら燃える炎だ」
魔王が右手を握ると炎が消されてしまった。
「馬鹿な!なぜだ?」
「ふふふふ。お前は勘違いしている。かつて私はドルヂェの中にあるアルデンという邪心だった。その時ならば私は燃やされていただろう。だが、今の私は魔王アルデンなのだ。私の中に邪心などない。熱く純粋で清らかに私の心はあるのだ」
「そ、そんな..」
ルカは魔王の言葉を理解すると力が抜けてしまった。
「お前の闇炎よりローキの憤怒の業火のほうがまだ熱かったぞ!」
魔王の邪眼が光ると砂漠の中から龍が飛び出しルカをひとのみしてしまった。
「これで5大魔人は全て取り込んでくれたわ!待っていろ、魔鳥レイ!すぐにお前も私の腹の中だ!」
龍の背中に乗り魔王は高笑いをしていた。
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