さきばしる魔人たち
私は「時の加護者」アカネ。
魔王との闘いに敗北した私たちは、今はさらに力をつけ襲ってくるであろう敵に備えて、一時的な休息をとった。
私は未完の白浜にて眠り、今はいなくなったルルさんとの思い出に浸っていたかった。
―ナンパヒ島 未完の白浜-
目を覚ました私は、美味しそうな香り腹を鳴らした。ルル診療所の台所からご飯を炊くときにでる薪の煙の香りだ。
薪の煙の香りの後には必ず食卓にはごちそうが並んでいる。
私はもしかしてルルさんが!と期待と不安の中、シエラを起こしてルル診療所まで走った。
「ルルさ..」
「お食事の用意できてますよ。まだ不慣れなんですがジェラさんが手伝ってくれました」
そこにいたのはルルさんの後継者サオさんだった。サオさんは手拭いでこめかみの汗を拭うと私たちを笑顔で迎えてくれた。
食卓にはルルさんの得意な料理だった海鮮スープが置かれていた。ルルスペシャル海鮮スープと呼んで食べさせてくれたのがついこの前だった。
とても懐かしく涙があふれそうになった。
シエラもそう思っているのだろうか。私より先に席に着いた彼女の顔は見えなかったけど、きっとそうに違いない。
「どうぞ、召し上がってください。たぶんルルさんの料理には及ばないかもしれませんが、一生懸命作りましたから!」
ジェラがツグミを抱きかかえてくると、みんなで食卓を囲んだ。
そこにはリシ貝のだし汁ご飯と具だくさんの海鮮スープが並んでいる。
エビや蟹の赤が色鮮やかでジェラが釣ったイサ魚がぶつ切りで入っている。今にも鍋からあふれて来そうだ。
透明なスープを一口すする。
温かい。
そして口いっぱいに広がる芳醇な味わい。
これは、まさしく....
「おいしいですか?」
「おいしい」「うまい!」と皆が口に出しながら完食した。
「よかった、みんながおいしそうに食べてくれてうれしいな」
緊張していたサオさんの顔がほころんだ。
「特製だ.. これはサオの特製海鮮スープだ!」
私がそういうとみんなから大きな拍手が巻き起こった。
「ところで、サオさん、もう動いて平気なんですか? それに、何で—」
「何で『今』を受け入れているのか。ってことですよね。私、一度目を覚ましたあの時、全てわかったんです。私で5人目なんですよ。この役目。そしてルルさん含めて前の4人の記憶が私の心に流れてきたんです」
記憶..そうだ。ルルさんは次の「伝える者」に受け継がれると言っていた。
「彼女たちの境遇って少し私に似ていました。この『未完の白浜』で彼女たちはたくさんの人と出会いそして別れてきました。でもみんなこの診療所にいる間はとても幸せそうで、それを見つめる彼女たちもまた幸せをかみしめていましたよ」
私はルルさんのあの朗らかでほっとする笑顔を思い出した。
「ルルさんは寂しいと言っていたけど、みなさんとこの診療所で過ごした時間は本当に幸せだったんですよ。私も今、同じ気持ちなんです」
「でも、サオさんは平気なの? サオさんにはサオさんの故郷があったんじゃないの? 私はこの世界は好きだけど、私のいた現世もやっぱり同じくらい大切でかけがえのないものだよ」
「アカネ様、私、ゴミ溜めみたいな所で育ったんです。物心ついたころには、両親もいませんでした。私は捨ててあった医学書を見て、貧しい人の病気やけがの治療をして生活してました。でも、ある時、病状が悪化して死んじゃった人がいて.. 報復に石にくくられて海に投げ捨てられたんです。運よくこの島に辿り着いて、いや呼び寄せられたのかな。へへへ、だから平気です。今は体も心も大丈夫です。だって私はサオ診療所の主人ですから。アカネさん、ありがとう」
そう明るく笑うサオさんを私は抱きしめていた。そして思った。この人なら大丈夫だって。
***
月が天に一番小さく映るころ、ナンパヒ島に新たな訪問者が到着した。「秩序の加護者」リシュルとバンクだ。
「あの、すいません。私たち以外はケガが酷かったりで..あ、あの私、リシュルといいます」
「私はアカネ。『時の加護者』アカネだよ。よろしくね、リシュル」
リシュルの本当の名は結月。奇跡の眼を持つ最強の加護者。せめて彼女の記憶が戻り、本当の力を出してくれたら..
「アカネ様、残念なお知らせです。魔人たちが先走ってしまいました。私は彼らを止めることが出来ませんでした」
不吉な報告をするバンクは責任感が強い性格のためか、もしくは白亜の幹部であったことを心苦しく思っているためか、ずっと顔を伏せている。
「どういうことなの?」
「魔王が魔界の場所を知った時、ローキとルカもまたその場所を感知したのです。彼らは言っていました。魔王の目的は魔素の独占よりももっと大きなものだと....」
「大きなもの.. それって、まさか魔鳥レイのこと?」
「おそらくは.. 彼らは絶対に阻止しなければならないと闇穴から魔界へ向かってしまいました」
「何て早まったことを。今の魔王にはローキやルカでは勝てないわ! 」
「..恐縮でございますが、きっと2人もそれは承知の事なのでしょう。ですが、彼らは同じ魔人が引き起こしてしまった事に、自分たちなりの応えを示したかったのかもしれません。....元白亜である私にはその気持ちはよくわかります」
「..わかった。とにかく2人とも一旦、サオ診療所へ行こう! 」
「2人じゃないぜ」
船の影に隠れて見えなかった。それよりも気配を完全に消していたこの男。槍の刃が月を反射した。
「ロウゼ!」
「よう、久しぶりだな、時の加護者!」
そしてもうひとり「運命の加護者」トパーズ=クローズの姿があった。
★作者こんぎつねからのお願い。
この度はありがとうございます。
実は作者はモチベ維持のためにみなさんの感想などをいつでも受け付けています。
ですので、一言二言でも残していただけると励みになります。
厚かましいお願いですがよろしくお願いします。




