羽根が指し示すもの
私は「時の加護者」アカネ。
ジェラが戦闘に参加しなかった理由。それはルルさんとの誓いにも近い約束だ。ジェラはルルさんの心の奥にある自分たちと同じ責務と覚悟をその涙に見たんだ。そしてジェラにその女性を守らせる事にも何か意味があると思ったんだ。私は知りたい。いったいルルさんはジェラに何をさせようとしているのだろうか....
—ナンパヒ島 未完の白浜—
月夜に交わしたルルさんとの約束を聞いても、シエラはジェラへの厳しい態度を変えなかった。
それどころか『ジェラはルルにはめられた』と言い放つシエラに、その場にいた者たちは当惑した。
シエラの言葉の真意を確かめるべくもなく、突然、白浜が光り、気を失っていたサオが瞼を開いた。
サオはふらつく足で波打ち際まで歩き、ジェラの前に立った。
「ジェラさん、ごめんなさい。私はジェラさんを守りたかったのです。シエラさんやクローズさんは加護者が無事ならば何度でも蘇る。でもジェラさんはアンデッドです。死ぬことこそありませんが、魔法で消されてしまうことはあるのです。私はツグミさんの命よりもあなたを優先してしまいました。サオさんの希望になって欲しかった。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
そう言いながらサオはジェラにもたれかかり再び気を失った。これは砂になったルルさんの意識だ。
私はようやくシエラの言葉の意味を理解した。乱暴な言い方だが、ルルさんにとってはツグミが殺されても構わなかったのだ。
ジェラにさえ生きていてもらえば、それでよかったのだ。
しかし、シエラはルルさんやジェラに怒っているわけではなかった。シエラは理不尽な使命を背負わせる「星の意志」に怒っているのだ。
先代「時の加護者」アカネ(私のおばあちゃん)が異世界から姿を消した数十年の間、シエラは孤独を知ったのだ。シエラにはルルさんの気持ちが痛いほどわかるのだ。
その証拠に、今、シエラは海の中に手を入れ白い砂を撫でていた。
そして白い砂となったルルさんに向かって、ジェラに課せられる重大な事を伝えた。
「ジェラ、お前の処遇はツグミ次第だよ。使命を放棄したトパーズは任を解かれることもあるんだ。覚悟だけはしておけよ」
初めて聞く掟だった。私は今まで知らなかった。もしかしたら加護者とトパーズの間には私が知りえない厳しい掟がまだまだあるのかもしれない。
「恐縮ですが、アカネ様。今、こうしている間にも大変なことが起きています。きっと魔王は私の羽根を使って魔界の場所を突き止めたに違いありません」
シエラの怒りになかなか口をはさむことができなかったセイレーンが、魔王が言い残した言葉の真意を説明してくれた。
「セイレーンの羽根で? いったいどういうことなの?」
半分魔王の負け惜しみとして聞き流していた言葉だったが、セイレーンは丁寧に説明してくれた。
「アカネ様はこのナンパヒ島に最初に来た時、どのように神出鬼没と言われるこの島を探し当てたかを覚えておいでですか?」
「えっと、光鳥シドの羽根を桶に浮かべて、それが射す方向に船を進めて..」
「そうです。光鳥シドの羽根がナンパヒ島に暮らす私、セイレーンを指し示したのです。その逆もしかりなのです。今、魔界には光鳥レイが姿を変えた魔鳥レイの卵があります。私の羽根はその魔鳥レイの場所も指し示すことができるのです」
全身の毛穴が開くと一気に汗が噴き出た。魔人たちの強さを集約した尋常ではない力と果て無き欲望を見せるアルデンの邪心。それがさらに魔界の理力を一身に浴びて力を増してしまったら、もしかしたらもう勝ち目はないかもしれない。
「アカネ様..はっきり言って今回ばかりはかなりまずそうです。『運命の加護者』と『秩序の加護者』の力が必要です」
「闘神」とよばれるシエラが他の加護者の力を求めるとは..事の深刻さを物語っていた。
「お言葉ですが、おそらく『運命の加護者』シャーレ様は闘いに参戦いたしません。シャーレ様は以前、申しておりました。『自分はやるべきことをやるだけ。もしもこの世界が魔王によって破滅してしまうのならば、それもまた運命だ』と」
「あの方はいつもそうだ!こんな時まで」
セイレーンの言葉にシエラは砂を蹴った。
とにかく、一刻も早く皆にその事を伝えなければならない。
「アカネ様、既に大陸にいる皆さんにはレフィスとルッソが状況を伝達しているでしょう。そして島への招集もしております」
さすがはセイレーンだ。まるで出来る秘書の様に行動の先を読んでいる。おそらくは皆がこの島に着くのは早くても深夜だ。それまでは休むことにしよう。はっきりいってもうヘトヘトだった。
鳥獣族は迷いの森へ、ジェラはサオを抱きかかえルル診療所へ戻った。
私は..もう少しルルさんと一緒にいたかったので白い砂に寝ころび眠った。シエラも私に寄り添って眠った。
砂浜に打ち寄せる優しい波音がルルさんの歌声に聞こえ、私とシエラの心を癒してくれた。
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