ルルへのレクイエム
私は「時の加護者」アカネ。
魔王アルデンの襲来はあまりに凄惨で、その被害はとてつもなく大きかった。そして、私たちはまんまと魔王の目的を果たさせてしまったようだ。私たちの負けだ.... ルル.. 私たちのお母さん的な存在、ルルが死んでしまった。もうルルが特製の海鮮スープを作ってくれたり、私たちの汚れた衣類を洗ってくれたり、私たちの言葉を笑顔で聞いてくれたり..は、もうないんだ..
—ナンパヒ島 未完の白浜—
「あ..アカネさま、申し訳..ございません。 カハッ.. 私のせいで..」
セイレーンは満身創痍でありながら、自分を責める言葉をつぶやいた。
「何言ってるの! もうしゃべらないで! セイレーンはそんな身になるまで、みんなを助けてくれた」
「で、でも.. ルル様が....」
セイレーンの気持ちを考えると、それだけで涙が溢れてきた。セイレーンはとてつもない長い年月をルルと共に歩んできたのだろう。
「ねぇ、母様、死なないで! アカネ様、母様は死んじゃうの?」
レフィスは弱まるセイレーンへの不安に今にも心が崩れてしまいそうだった。
「そんなことない! 気をしっかり持って、レフィス!」
すがるレフィスにそうは言ったが頼みのツグミは全魔素を使い果たし、もとの1歳の赤ん坊に戻っている。そんな中に戻って来たのはジェラだった。
「アカネ.. これは....」
想像以上の惨状にジェラは言葉を失っていた。そのジェラに対し一番最初に怒りをぶつけたのはシエラだった。
「この野郎! トパーズのくせにお前どこへいってたんだ!」
「お、俺は..」
言葉を詰まらせるジェラだったが、浜辺で布にくるまって寝ているツグミを見ると安堵の表情を見せた。
ジェラはなぜか若い女性を抱きかかえていた。その理由には触れず女性を砂浜に下ろすとこう言ったのだ。
「シエラ、俺をぶん殴るなり蹴るなりしてくれ! 全力..いや、やっぱすこし手加減を—」
—ガガンッ!
空気が震えるほどの蹴りがジェラの顎にさく裂した。ジェラは真上に舞い上がると、海の中に落ちていった。
「お前は、トパーズ失格だ!」
シエラの怒りはジェラひとりに向けられたものではない。
自分自身にも向けられていたのかもしれない。
私を守ることが出来なかった自分にシエラは憤っていたのだ。
「シエラ..」
私が肩に手を置くとシエラは私の胸に頭をつけ、下を向いたまま一粒 二粒と涙を落とした。
そんなシエラの肩にピンクサファイアの蝶がとまる。蝶は水面からふつふつと沸いては飛び立つ。
やがてジェラが海から上がってくると再びシエラに向かい合い「もっと殴ってくれ」と言った。
そうだ、ジェラはアンデッドなのだ。
そして、衝撃を魔素に変換し、その身体からピンクサファイアに輝く魔素蝶を生み出すのだ。
そしてその蝶はどこへ行く..
行く先はもちろん「法魔の加護者」ツグミだ。
景色を塞ぐほどの魔素蝶がツグミに群がり、そして体の中へ溶けていく。
「まだまだ、足りないんだ。こんなものではツグミの魔素を満たすことはできない。シエラ、セイレーンを助ける為にも俺を殴り続けろ。俺は痛くない。腕が取れても、首がもげても死にはしない。遠慮しないでくれ」
腕が飛んだり顔が飛んだりすると探し出すのが面倒くさいのでシエラは3割の力で連打、連脚の攻撃を5分つづけた。
3割としてもシエラの攻撃力は凄まじい。生まれ出た蝶は流水のごとくツグミの中へ入っていった。
5分後、そこには7歳のツグミがあらわれた。
もはや、助かるかもわからない。セイレーンは指先さえも動かせない状態だ。
「ツグミ、お願い。セイレーンを助けて!」
「うん! ツグミやるよ! きっと救ってみせる!」
ツグミは極大完治魔法をその手で錬り始めた。「サイフォージュの恵」と「完治魔法」を両の手で錬りあげる。
魔法によってできた翠色をしたゼラチン状の魔球はどんどんと大きく膨張していく。
ツグミが『タクト』と唱えると膨らんだ魔球は一気に凝縮し豆粒程度の大きさにになった。
セイレーンの口元でツグミがフッっと息を吹きかけると、魔球の凝縮体である粒はセイレーンの口の中に入って行った。
体の中で光を点滅しはじめた粒はやがてぶるぶると震え始めた。その振動が大きく弾けると、大地を激しくたたいた。
その衝撃に砂の中から大量の幼虫が這い出て来た。この星の命の力を運ぶ幼虫たちがセイレーンを救うために動いたのだ。
幼虫はセイレーンを中心に薄い繭を作り始めた。
幼虫たちがセイレーンの体の欠損部へ凝縮するように集まると、ちぎられた羽、もぎ取られた手足に姿を変えていった。幼虫たちは完璧なセイレーンを修復したのだ。
カッと目を見開いたセイレーンは繭を突き破り、一気に大空に飛び立った。そして、夜空を輝かせる声でルルへのレクイエムを歌った。
大地に幻想が写ると、そこには若き日のルルと幼少のセイレーンの2人の物語りが映し出された。
それを見た者は、セイレーンがどれだけルルを慕っていたかを知ることが出来た。
やがて地上に戻り人の姿になったセイレーンの胸へ最初に飛び込んだのは娘レフィスだった。
「母さま.. ほんとうによかった」
白浜に打ち寄せる波がセイレーンとレフィスの足をやさしく包んでいるようであった。
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