波に包まれる微笑みの砂
私は「時の加護者」アカネ。
魔王がナンパヒ島に上陸した。私はダリの姿に騙され、闘う前に瀕死の重傷を負ってしまった。そんな危機的状況にセイレーンは無残な姿に、そしてルルも命尽きようとしていた。ツグミの極限魔法により私の傷は完治した。
魔王アルデン! 私はあなたを絶対に許さない!
―ナンパヒ島 未完の白浜—
私の渾身の蹴りを受けて高速で海に吹き飛ばされた魔王の身体は、腕がもげ、一部の内臓を周辺にまき散らしていた。
しかし、魔王もここで引き下がる事が出来ない。
最低でもツグミの身体に触れて、異空間にある魔界への道しるべを記憶しなければならなかった。そうでなければ、世界を自分のものにすることはできないからだ。
[ — リ・レイラ — ]魔王は完治の詠唱を唱える。
水面が引き寄せられると魔王を中心に水柱が立ち上がった。その水柱がバザッと砕け散ると、その中には四肢を取り戻し完全に回復した魔王が姿を現した。
さらに「 — クーチ・ル — 」と唱えると足に羽で編んだような柔らかい足輪が結ばれ、魔王は水面を飛来した。
「私は.. ッ.... 私はあなたを絶対に許さない!」
私の怒りは頂点に達し、足元の波は、触れた瞬間に蒸発している。
「お前が怒ろうが泣こうが関係ない。私はそのツグミに用があるのだ。どけぇ!」
その怒声はまるで百獣の王の咆哮のようだった。
だが、私の後ろには虎が目覚めていた。その気迫と目つきはまさしく「闘神シエラ」と呼ばれるだけの威厳を秘めていた。
ツグミは私への回復魔法で魔素を使い果たし、6歳から本来の1歳の赤ん坊へ姿を戻してしまっていた。
周りにトパーズのジェラの姿も見当たらない。
ツグミが逃げる心配がないと確信した魔王は大きく深呼吸をしてその激高していた気持ちを落ち着かせた。
そして魔王は再び姿を変えたのだ。
今度は魔人ドルヂェになった。私が知っている魔人ドルヂェは、依り代であるシェクタ国王子のブレスの姿だった。
しかしここに立つドルヂェは涼しげで何処か憂いを帯びた長い髪を後ろに結った青年だった。
「魔人ローキは複数の腕を持ち、そして『無敗の世界』を持っている。弟であるこの魔人ドルヂェは複数の脚を持ち『無敵の世界』を持つという。私は魔人ドルヂェの力が楽しみだ」
魔王アルデンは魔人ドルヂェの本来の力をここで実験し楽しもうとしていた。
印を結ぶと、魔王の顔に銀色の隈取りが浮かび上がった。
そして空間に銀の粉雪が舞う世界となった。
「さて、この世界で私の敵はいないはずだ」
魔王の3本目の脚にシエラの脚が激突する。その衝撃は天を突き、一瞬、宇宙の星々が姿を現した。
「さすがだな。闘神シエラ」
「別に。逃げ出すなら今のうちだ」
魔王の攻撃対象はシエラだった。これは魔人ドルヂェの思考がそう判断させたのだ。
シエラの脚は「受けの脚」だと見抜いたのだ。
私とシエラは2人でひとつの攻防を形成している。
トパーズのシエラは私を守るためにあるのだ。私に向けられた攻撃ならば「無限の守り」でその防御は無限大だ。
しかし私ではなくシエラに向けられた攻撃への防御はその限りではないのである。
「くそっ! シエラにばっかり攻撃するな!」
私の攻撃を4本目の脚でかわしても、魔王はシエラに容赦なく襲いかかる。
次第にシエラの周りに岩の破片が飛び散る。シエラが傷を負い始めているのだ。
魔王の攻撃はますます激しくなりシエラの血も飛び散り始めた。
私がどれだけ攻撃しても全ていなされてしまう。
攻撃そのものが「無敵の世界」により3割ほど削られているような感覚だ。
もっと攻撃力を上げたい。
でも私の攻撃力はシエラの「無限の守り」があってこそ上乗せできるのだ。
まさか、こんな頭脳的な攻撃をしてくるとは思わなかった。
これは私の失敗だ。
魔王を甘く見ていた。
私の力が削られているからシエラの自己修復の能力も下がっている。
どれだけ攻撃しても空回りしているように感じた。そして魔王は私をまるっきり無視し続けていた。
「いい加減に、私を無視するな!」
感情任せの単調な攻撃をしてしまった。魔王に弾かれた私は砂に足をとられ身体が泳いだ。それはまさに魔王の蹴りの軌道上だった。
— シパンッ —
偶然にも魔王の蹴りが私へ向いたことでシエラの「無限の守り」が発動したのだ。
そして私の攻撃力も上乗せされるのだ!
敵の攻撃を超える速さと固さと威力!
今、右手の時計が光り不規則に動き出す。
[ 柳烈蘭脚 ]の攻撃が始まるのだ!
壊れたDVDプレイヤーの様に映像が止まって動いて、飛んでは止まる..
私の脚は予測不能の出鱈目な動き!
予測不能ついでに8本の脚が一斉に魔王に襲いかかる。
一撃一撃が空間を破裂させる! そして、破壊し、吹き飛ばす!
その全てを受けた魔王がボロ雑巾の様に浜に吹き飛んだ。
しかし、シエラの自己修復能力を模倣した魔王は欠損した部位をも成形していた
能力や魔法を模倣するのは魔人ドルヂェの能力のひとつだ。
「ガ.. くそ。アカネめ。お前の『お間抜け』を見落としていた..それともわざと自分に攻撃が来るようにしむけたのか?」
遠くに飛ばされ魔王は白浜を這いずりながら悪態をついていた。しかし身体は驚くほど速く修復している。
「間抜けですって!」
「それよりアカネ様、急いで、止めを!」
完全に回復しないうちに止めを刺さなければ!
私たちが走り寄ると魔王はとんでもない行動にでた。
浜を這いずりながら見つけた瀕死のセイレーンを盾にしたのだ。
「お前ら、それ以上寄るな。お前たちが攻撃をすれば、こいつがどうなるかわかっているよな」
「くそ、何て卑怯な奴だ」
「はははは。私はこれまで何度も卑怯な真似をしてきた。今更、こんなことが何だと——」
魔王が動きを止め、目を見開いていた。体が硬直するほどにセイレーンの体から何かを感じているようだった。
「は、ははは。はははははははは.... ククク.. そうか..そういうことか....」
魔王は独り言の後、天と地をみると、腕を斬った。そして血で円を描いた。
そして魔王はこう言い残した後、「空間の扉」を開き、姿を消したのだ。
「アカネよ、私の目的はこのセイレーンの羽根にて達成できたぞ。もはやここに居る必要はない。次会う時は瞬殺..いや秒殺くらいで勘弁してやるか。私は大魔王、いや神になるぞ」
魔王が消えると、舞い上がっていた粉雪は白浜に落ちて溶けた。
そして魔王により張られていた結界も解かれた。
次々にレフィスたち鳥獣族が空から舞い降ると、無残な姿となったセイレーンを囲んだ。
「セイレーン様.. お母さまあぁぁ!」レフィスの悲痛な叫びが響いた。
そして..
雷剣を突き刺され鎮座したままのルル。
その姿はまるで白化珊瑚のようになっていた。
やがてその優しい微笑みと共に白い砂となり崩れ去った。
そして、波は撫でるようにルルを迎え入れていた....
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