移り行く時を見つめ
私は「時の加護者」アカネ。
私とシエラは魔王アルデンの襲撃の可能性が高いナンパヒ島へ向かうこととなった。海獣プーフィスが船を運ぶという前代見物の特別サービス。これなら数日かかる航海も数時間で行ける。それにしても凄いスピードだよ!
—東の大洋~ナンパヒ島—
船は大海を押しのけ波が立つ間もないほどの速さで突き進む。
いや、正確には白鯨プーフィスの背中に乗っているのだけど.. 何もかも規格外のため、揺れがないのは救いだ。
しかしラオス船長はぶち切る風に帆柱が折れてしまわないか心配しているようだった。
「ねー! せんちょー! どれくらいで着くかな?」
風きり音に負けないくらいの大きな声で訊ねてみた。
「そおーだな! とんでもない速さだ。たぶん5時間くらいで着いてしまうだろう! 寝ちまえー! そうすりゃ起きた時にはナンパヒ島だー! 」
「そーする! 」
「あーっ? なんだってー? 」
私はラオス船長のほっぺたに丸印を書くと、船の奥で眠ることにした。ちなみにシエラは舳先に立って迫力ある航海を楽しんでいた。
・・・・・・
・・
「アカネ様! アカネ様!」
シエラの呼びかけに目を覚ました。
甲板へ行くと、そこにはナンパヒ島が見えていた。
ゴウッと大きな潮をはくプーフィス。その大きな金色の瞳は「しっかりやれ!」と檄を送っている。
プーフィスの瞳にラオス船長は、改めてそのとてつもない大きさに気が付いたようだ。口に咥えていたタバコが甲板に落ち転がっていた。
「ありがとう! プーフィス! またね! 」
そう言うと、プーフィスはもう一度大きな潮を吹いて去って行った。
プーフィスと入れ替わりで空からレフィスが舞い降りた。
「では、行きましょう。母様が少し話をしたいらしいです」
「セイレーンが? 」
船を桟橋に付け、私たちを降ろすとラオス船長は『俺は沖で釣りでも楽しんでくらぁ』と船を海に戻した。
船長はそれとなく自然な形で席を外したのだ。さすが船長!
未完の白浜を歩き、ルル診療所へつくと6歳のツグミが走って私の腿に抱き着いてきた。
きっと寂しかったのだろう。
私はそんなツグミを抱き上げ再び会えた喜びをかみしめた。
そんな様子をトパーズであるジェラが穏やかにみつめていた。彼はいつでも控えめにツグミを見守っているのだ。
空の色味が増したかと思うとセイレーンが舞い降りた。
そして『屋敷に戻って夕食の支度をしてください』と珍しくレフィスを帰らせると語り始めた。
「アカネ様、魔王アルデンとの闘い、お疲れ様でございます。着いたばかり、本来ならば迷い森の屋敷にてゆるりと休んでいただきたいのですが、いつまた魔王アルデンが来るやもしれません。ですので、さっそくお話させていただきます」
来て早々にグイグイと話を進めるセイレーンに改めて緊迫感を感じた。
彼女は続けて私に質問をした。
「アカネ様はこのナンパヒ島の本当の主が誰なのかわかっておいでなのではないでしょうか?」
「うん、たぶんだけど..ルルさんだよね?」
「 やはり....正直、私は驚いているのです。実はその事実に気が付いていると最初に言ったのはルル本人なのです。この事実をどなたかに話しておられますか?」
「ううん。シャーレにすら話していないよ」
「そうですか。シャーレ様には時を見てお伝えしようとは思っています。でもなぜ気が付いたのです?」
「なんとなくかな。改めてさっきのような質問をされて思い返すとルルさんなのかなって思ったんだ。だってルル診療所にいると、魔人とか加護者とか関係なくリラックスできるでしょ。なんかさぁ、自分の家に居るような感じ。それでね、もしかしてルル診療所ってこの世界全ての家なんじゃないかなってね。そう考えるとさ、ルルさんって世界の親みたいだなって」
「....さすが『時の加護者』ですね」
自分の妄想のように思った事がたまたま当たっただけ、それを褒められると少し恥ずかしい気持ちになった。
「ふふふふ、そんな風に思ってくれてうれしいわ」
「ルルさん..」
診療所からルルさんが濡れた手を手拭いで拭きながら出て来た。
「でも、半分正解ってところね。正解は、『私は星の意志を伝える者』なのです」
「星の意志? 伝える者?」
「アカネ様、私の祖先もこの島の住人なんですよ。そして私に与えられた役目は長い時を見つめ、星の意志を人々に伝えることなのです、そしてその記憶を次の『伝える者』へ引き継いでいくのです」
ルルさんは海を見つめながら話をつづけた。
「『未完の白浜』は本来、次の『伝える者』がたどり着く場所なのです。はるか昔、私もここに流れ着いて、先代の記憶を引き継ぎました.... アカネ様、いいえ、茜、あなたは本当に良い子。あなたは、みんなに勇気とやさしさを考える機会を与えてくれる。相手を殴る痛みを知り、その悲しみに涙を流す、本当に良い子。もう一度、あなたの手に触れさせてちょうだい」
「うん、いいよ。でも..なんで、今、そんな話をするの?」
手を握るルルさんにそう問いかけてもルルさんはいつものやさしい微笑みを浮かべるだけだった。
静かな波が一瞬大きく弾けた時、シエラの気が尖った!
瞬間、夜が来た。いや、光と闇が反転したのだ。
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