待ち伏せ
私は「時の加護者」アカネ。
ついに魔王が世界を恐怖に陥れるために動き出した。手始めに女王国カイト、そして王国フェルナンを滅ぼすつもりだ。魔将レスト、魔将ブルゲン、魔将ジキを引連れ、凍る海を馬獣が走る。こんな急襲だれが予測できるというのだろうか....
—ギプス国 ケイキ港—
馬獣ホウカイの上で魔王アルデンは疑問に思った。 アルデンの考えでは、氷の行き着く先はギプス港のはずだった。
そして王都ギプスを蹂躙した後に、王都カイト、そして王都フェルナンを陥落させる予定だったのだ。
だが、行き着いた先は、ケイキ港と呼ばれるギプス国の漁師が道具置き場として利用する無人の港だった。
「なるほど.. そういうことか、『時の加護者』よ。既に我らが来ることを知らされていたな」
「うん。ここから先、あなたが進む道はないわ」
「ふん。どうだろうな。余は既に『加護者』を越えているかもしれないぞ」
アルデンは馬上で腕を振りかぶり見下すように指をさした。 そこから放たれる覇気はまるで身をヤスリで削られるようにザラザラと痛い。
だが、肉すらも引き裂く虎の爪のような覇気を放ち、圧倒するのは、『闘神』シエラだった。
「魔人の気合いなんか、僕に言わせれば団扇の風くらいなもんだ」
「闘神シエラ.. 確かに噂以上の存在だな」
アルデンの皮膚からは感覚ではなく実際に虎の爪に傷つけられたように血しぶきが飛散している。
「だがな..」とアルデンが不敵な笑みを浮かべた。
瞬間、シエラが吹き飛び、腕に斬撃が走る。その斬撃を見定め、避けきったつもりだった。剣による傷は薄皮一枚程度だったが血がにじんでいた。
この攻撃は1人による単純な一撃目、二撃目という攻撃ではない。拳撃と剣撃が同じ瞬間に放たれているようだった。
しかし、実際に攻撃したのはシエラの前に立ちはだかったこのひとりの魔人だ。
「時の加護者アカネよ。お前たちの相手は私ではない。そこの魔将レストだ。存分に闘え」
やはり聞いた通りだった。魔将レストはあのカレン調査団副隊長のロッシその者だ。もしレストがロッシの魂を転生させた魔人なら、きっと思い出してくれるはずだ。だって、あれほどカレンの愛を守りぬいた人だもの。
「魔将レスト、思い出して!あなたがロッシだった時に貫いた愛を。あなたが愛したカレンのことを」
だが、レストの様子が変だ。目は血走り、狂気に満ちている。そして、しきりに独り言をつぶやいている。
「ヴゥォ.. 俺の前に立つな! 俺の前に立つ奴は殺してやる.... 」
レストの姿が一瞬歪んで霞むと、いつの間にか剣が私の首を両断しようとした。
—パキンッ
「ふぅ.. そんなこと、「時の加護者」を守護する僕が許すはずがないだろうが! 」
何とシエラはたった3本の指でその剣撃を防いだ。しかし先ほどと同様にシエラの背中に拳撃が襲い掛かる。
—バシンッ
「あなた達、魔法か何かを使っているようだけど、あんまり「時の加護者」を見くびらないでよね」
レストから離れた空間から繰り出された拳は、私の脚に弾かれた後に、その場で消えたが、そうはさせない! 引きずり出してやる!
一瞬、腕をつかみ引っ張ったが腕は慌てたように存在を消しさった。そして本体のレストが脈絡もなくその場所から吹き飛んだ。
この違和感はなんだ。
今、この瞬間、魔人レストはひとりだが、攻撃にうつる時には確かに2人の気配がするのだ。
高みの見物をするつもりだった魔王アルデンから焦りの声があがった。
「時の加護者.. 物理も理論も通じないとは聞いていたが.... 貴様、今、時間ごと掴んだだろう」
「そんなの知らない。それよりあんたよ! 自分の闘いに他人を駒にするのが許せない。今、その高みからひきずり降ろしてやるわ」
その言葉にシエラは跳躍し、アルデンの眉間めがけて踵を落とすが、ジェル状に変化した空間が攻撃を吸収してしまった。
「アカネ様、あいつったらツグミが使ったような防御魔法を使いますよ」
「はははははは。バカめ。『法魔の加護者』が使う魔法を、私が使えるのは当たり前の事だ。法魔とは魔の理を決めることなのだ。つまり誰かが新たな魔法を創れば、その分、世界は魔法で満たされていく。お前らのような脳筋に理解できるかわからんがな」
「キーっ!! 本当にムカつくわ! 今までいろいろ言われて来たけど『脳筋』って言葉マジでムカつく!」
「では、その詫びに教えてやろう。その魔将レストは生前の余計な記憶まで思い出そうとした。だから、『ゼロ』とかいう奴の魂を上書きしてやったのよ....死んでも狂気を消せない愚か者よ」
「ゼロ!? よりによってあんなやばい奴の魂を」
「はははは。僕はそれを聞いたら逆に気が楽になりました。こんな敗者復活戦にいつまでも付き合ってられませんよ、アカネ様」
(シエラ.... そのとおりね。あなたの言う通り、私たちは先に進むんだから!)
魂は2つ。剣撃と拳撃。魔法ではない限り、攻撃は物質的に存在しているはず。だからシエラは剣に、私は拳に触れる事ができたんだ。
「瞬間の物質化を..でも、それじゃレストまで.... 瞬間.... もっと先か...... 時間を..うん.. よし、やるしかない」
「アカネ様?」
「シエラ、もし失敗したらカレンに謝っても許してもらえないかも」
「その時は、僕も一緒に罰を受けますよ」
魔将レストの前、あえて無防備に近づいた。当然、魔将レストは無防備な私に対して攻撃を仕掛けてきた。
—スパンッ
衝突音と共にシエラがレストの拳を防いだ。同時に私の脚がレストの胸に突き刺さりレストは吹き飛んだ。
誰の眼にもこのように見えたに違いない。
だが実際はそうではない。シエラがレストの拳を防ぐよりも、いやレストが凄まじき速さで拳を突き出す前に既に私の脚はレストに突き刺さっていたのだ。
私の脚は今の瞬間よりも もっと先を、 そのわずか先の『時』を貫いたのだ。
そして、『わずか先の時』の中で剣を振るために実体化したゼロを魂ごと消し飛ばした。
何の根拠もない。
ただ私は「時の加護者」アカネだ。
それを信じるのみだった。
—ズボンッ—という音とともに魔将レストから引きはがされた魂がゼロの姿で地面に転がっていた。
「ぐぉ.. 時の ..時の加護者めぇええぇ!」
剣を大きく振りかぶったゼロ。
その姿を見てシエラが言った。
「死んでもなお、闘おうとするお前は愚か者だ。だが、僕はそんなお前を『凄い』とも思うよ」
ゼロはゆっくりとシエラの方を向いた。
「俺を凄いと.. 『闘神』よ。 俺は..」
ゼロが剣を下げるとシエラに膝まづいた。
魂は肉体を持たなければ存在できない。ゼロはその場で黒く固まると、海風に吹かれて塵となった。
だがゼロの顔は僅かに笑っているようだった。
私の蹴りの衝撃波はレストの胸骨も砕いていた。口から血を吐きも、もはや闘える状況ではない。
「おのれ役立たずどもが!」
全てを自分の思い通りしようと考え、全てを他人の責任と考えるアルデンらしい言葉だ。
「さぁ、どうする。アカネ様に謝るなら今のうちだよ」
「ふ..ふははははは.... なぜ私が謝るのだ。こんなことをしている間に追い詰められていることにも気が付かない間抜けめ。今頃、お前らの大切な国々が悲惨な目にあっているぞ。とくに王都フェルナンはな」
「あっ、そ。そっちは大丈夫だから」
「『あっ、そ』だと。強がりを言うな」
「強がりじゃないよ。そっちはちゃんと助っ人を用意しているからね。とびっきりの助っ人を。あなた、もう終わりよ」
私は腕を上から振りかぶり見下すように魔王アルデンへ指をさした。
★作者こんぎつねからのお願い。
この度はありがとうございます。
実は作者はモチベ維持のためにみなさんの感想などをいつでも受け付けています。
ですので、一言二言でも残していただけると励みになります。
厚かましいお願いですがよろしくお願いします。




