自己顕示欲
私は「時の加護者」アカネ。
ナンパヒ島にて本来の自分を取り戻した魔人ダリは、未だに闇に彷徨うドルヂェを憂いてシェクタ国へ帰った。しかしドルヂェは自らの直属の部下を配置し自分を魔王と名乗り始めた。そしてダリは魔将とよばれるレストに恩人カレンの恋焦がれたロッシの面影をみつけたのだ。
—シェクタ国 西の塔—
自らを「魔王」と名乗り始めたアルデンは、以前のように一人称が「俺」や「僕」にかわることが無くなり、「私」または「余」と呼ぶに至った。
以前の魔人ドルヂェはブレスとの融合体に邪なアルデンが混じってしまった「3人の集合体」であった。しかし、今はアルデンという自我として存在していた。
もはや魔人ドルヂェではなく完全なる「魔王アルデン」となったのだ。
アルデンはレストを筆頭に、魔将と呼ばれる魔人を2人創りだした。
2人は高潔なレストとは対照的に、アルデンの歪みきった性格を受け継いでいるような者たちだった。
1人は狡猾で冷酷な魔人獣ブルゲンであり、大きな嘴と鉤爪を持つトリュテスクローの魔人だ。もう一人は鎧のような黒色の筋肉を纏った巨漢魔人ジキだ。人間だったころの醜悪な性格をそのまま持ち合わせていた。
「おい、レスト、お前、お、俺より、偉いと思ってるだろう。お、俺は、お前の手下じゃねぇぞ。お、俺の、主人は、アルデン様だけだ。覚えておけ。お、俺に、命令するな」
「キシャシャシャ。レスト君にそんなつもりはないですよねぇ。ジキ君もその頭の筋肉を少しやわらかくしたほうがいいですよ」
ジキは黒い顔からギラつく血走った目でブルゲンを睨みつける。
「鳥頭、お前も、お、俺様に、命令するな。その嘴をへし折るぞ」
レストは2人の言い合いに耳も貸さず、塔から降りて来たアルデンの気配に気づくと膝まづいた。
「皆の者! 余は久しぶりに晴れやかな気分だ! 力と生気の充実を感じるのだ! そして今から余に歯向かう虫けらどもを駆逐しにいく! 奴らの醜くひきつる顔を見る事が出来るかと思うと、この身体が武者震いを起こすのだ! お前らもそうであろう!」
何百という魔人獣、何千という魔獣が一斉に声をあげると、アルデンは光悦の表情を浮かべていた。ここに今、アルデンの小さくせこい自己顕示欲は満たされたのだ。
「皆の者! 余を我が名で呼ぶのだ! 他の名で呼ぶことは許さぬ! 我が名は魔王アルデン成り! 我が名を唱える限り、勝利は我らの手にある! 皆の活躍を期待しているぞ!」
そういうとアルデンは傍らにいるダリを抱き寄せた。
そして馬獣ホウカイに飛び乗ると3人の魔将を引連れて海岸へ向かった。
海が見えるとアルデンは天へ指を向け、3回右回転させた。
雲の切れ間より3匹の冷鳥フロアが姿を現した。
だが、アルデンは思い立ったように指をパチリと鳴らして、冷鳥フロアを消し去った。
「ダリよ、冷鳥など使わずともこの世界は今や私のものであることを見せてやろう」
水の精霊に命令する [ —クシェリミシオ・ラクト— ]
すると目の前の海が鯨のごとく唸りはじめると、延々と白い氷の道が大海に延びていく。
魔王アルデンの高笑いとともに馬獣ホウカイは氷の上を疾走する。氷の道は彼らの後ろで次々と崩れ落ち、追跡者の道を塞いだ。
***
—フェルナン国よりさらに西方の森—
[ —イラト・ミズム— ]
魔人ローキはフェルナン国の森で抱いた疑問を調べに最果ての地へ赴いた。
少しの異変も見逃さないように「三世の眼」と目に見えないものを可視化する「イラト・ミズム」を発して山麓を歩く。
「やはり、この世界は広がりを見せている」
髭を生やす背の低い半透明な種族がひとりローキの横をすり抜ける。ローキが警戒し横槌を手にすると、知らぬ間に加工が難しく高級な魁傑木を素材として作られた横槌に変わっていた。
ローキはその横槌に驚きながらも、素晴らしい出来栄えに感嘆した。
[ ローキ、魔人ローキよ ]
その美しい声は光鳥クリルの呼びかける声だ。
「はっ、クリル様」
[ どうでしたか? あなたの思う通りでしたか? ]
「はい。確実かと思います。この星の世界は広がりを見せています」
[ やはりそうでしたか。 あなたにお願いがあります。急いで私のところまで来てください ]
『(偉大な光鳥クリルが一魔人に頼みごととは何であろうか)』とローキは思っていた。
それはローキすら思いもよらない頼みだった。
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