聖なる耀輪
私は「時の加護者」アカネ。
魔人ダリがついにナンパヒ島に入って来た。しかし、ナンパヒ島の結界を潜り抜けるために自分の魔素を使い切ったダリは、辿り着いた桟橋で気を失ってしまう。倒れていたダリを介抱したのはカレンだった。ダリは人の優しさ、温もりを感じると同時に、最愛の人を目の前で亡くしてしまったカレンの悲しみに涙した。魔人ダリの心に何かが起ころうとしていた..
—ナンパヒ島 未完の白浜—
海から浜へ上がった時、ダリは何度か砂に足をすくわれた。自由に体を動かすには魔素はまだ十分ではなかった。
(ここで「時の加護者」に見つかれば何の抵抗も出来ず捕まってしまう)
しかし、同時にダリは思うのだった。
(私はなぜこんな事をしているのだろうか.. )
いや、そんな疑問を抱けば、自分たちの存在意義にまで話が遡ってしまう。ダリはよぎる疑問を振り払おうとした。
未完の浜の一番端から上がり、そのまま森に身を隠しながらルル診療所へ近づいた。夕暮れ時、台所に近い勝手口は賑やかで、ダリは消灯するまで、森の中に潜むことにした。
潜む森の中で再びピンクサファイアの蝶がダリの腕にとまり、そのまま溶けて行った。
(この蝶は魔素の精なのだろうか? )
ダリは魔力が回復する中、この不思議な蝶に感謝する。
やがて台所の明かりが消えると浜側の居間から笑い声が聞こえた。ダリはその部屋側へ周り込み、耳を澄ました。その多くの声の中に魔人ルカの明るい声も混じっていた。
(そんな馬鹿な。魔人と人間、それにこの大きな存在感は『時の加護者』に違いない。なぜそんなに楽しそうに笑い合えるのだ)
ダリは心の中で『(もしかして自分もこの輪の中に入ることができるのだろうか..)』と思ってしまった。
カレンの温かい心に触れたことによって、彼女の心に変化が起こっていた。だからこそ、その狭間で心が激しく揺れ動かされるのだ。
しかし、細心の注意を払っていた。特にあの『闘神』シエラに気が付かれないようにしていたのだ。
それなのに、この目の前にいる幼き少女は誰なのだ。
『あなたもここに居てもいいんだよ』
心臓が一回転するほどの衝撃だった。
(まさか、この少女が。この方が「法魔の加護者」ツグミ。私たち、魔人の真の主か!? )
激しく動揺したダリ。
背後からシエラの足蹴りがダリに突き刺さろうとしていた。しかし、シエラの蹴りは柔らかいジェルに包まれると、衝撃波は天空へ抜けていった。
「シエラ、ダメ。私の子を傷つけないで」
それはツグミが放った防御魔法だった。
「ツグミ、そいつは危険だ。世界を混沌に陥れようとしている魔人だ。わかっているだろう? お前にとっても裏切り者だ」
「違う。この子は今迷子になっているだけ。でもやっと道をみつけそうなの」
「何を根拠に? 」
「シエラ、このダリの姿をよく見て」
茶色く派手だった巻き毛は、そよ風になびく真っすぐな黒髪に変化していた。薄い化粧のダリは凛とした美しさをみせていた。
そして何よりもダリの首には、深く静かな湖のような瑠璃色の首飾りが浮かび上がっていた。
それは以前、ローキから聞いた『聖なる耀輪』に間違いなかった。誰よりも清らかな心を持つ魔人ダリを象徴する首飾りなのだ。
愛する人想うカレンの悲しみ、それでも人に優しくできるカレンの強さと気高さが邪心を振り払い、ダリの首に「聖なる耀輪」を呼び戻したのだ。
ツグミがダリに話しかける。
「ダリ、あなたはここに居てもいいのよ」
しかしダリは辛そうな表情で首を2,3度 横に振ると、「空間の扉」を開けて逃げてしまった。
去り際にダリの声が聞こえた。
「ドルヂェをこのまま置いては行けない」
それは『ドルヂェを見捨てることはできない』というダリの優しい心から出た言葉に他ならなかった。
しかし、ダリが私たちの前に再び現れたのは、それから数時間後の事だった。
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