レストの任務
私は「時の加護者」アカネ。
光鳥クリルから魔界の成り立ちを聞いた魔人ローキは光鳥という存在の懐の深さに涙していた。一方、体からブレスの魂が抜け落ちてしまった魔人ドルヂェは弱体してしまった。吸収した魔人ジャクの魔素さえ分散してしまいそうだった。身体を安定させるには魔人ジャクの依り代を喰らう必要があった。でもその依り代は「秩序の加護者」レイシャが保護していた。私がナンパヒ島にいる間に事態はより複雑になっている。
—シェクタ国 西の塔—
[ グッシュ グシュ ギュゲーン!! ギュッゲーゲ!! ]
魔獣の激しい声と地面をたたく振動、そして物を弾き飛ばす音が塔の上にまで聞こえて来た。
ムカデ魔獣マミラがミミズ魔獣ストルムに襲い掛かっていたのだ。
ドルヂェの弱体化により魔獣を統率する力が弱まっていたのだ。
魔獣を操る能力を持つダリを呼ぼうとするが、何処かへ出かけて留守にしていた。
「ダリめ、自由奔放すぎるぞ、クソ女。あいつもいつか喰ってやる」
ドルヂェはイラつき加減にひとり毒づくことが多くなった。
印を結び「千手の恕」により魔界からレストを再び召喚した。
レストはひれ伏しながら、仰々しい挨拶とフェルナンでの失態の謝罪を始めた。
そんな挨拶、謝罪など求めていないドルヂェは横柄に手を振ると、レストを黙らせた。
「レストよ、塔の下にいる魔獣どもを黙らせて来い。殺してもかまわない。うるさくてたまらん」
数分後、魔獣の返り血で染まったレストが帰って来た。
「ドルヂェ様、どうやら魔獣ストルムは砂漠での捜索結果を報告に来たようです」
「奴ら、なんと言っていた? 」
「太陽の国レオから南へ下ったラジス峡谷で目的物を見つけたと言っていました」
その言葉にドルヂェは身を乗り出した。
「あいつらに目的物をここまで運んで来いと伝えろ」
「ストルムもマミラも私が全て殺してしまいました」
自分が命じたにもかかわらず、レストの行いにイラつくドルヂェは床を二回踏み鳴らした。
「な、ならば、レスト、お前が運んでくるのだ! 」
「目的物とは何でしょうか?」
「ジャクの依り代に決まってる! 」
その言葉を聞くとレストは塔の小窓から飛び降りた。そして羽毛のごとく地上へ着地する。
ヒュっと口を鳴らすと、地面に激しい振動が鳴り響いた。
レストは華麗にジャンプし、通常の馬の2倍はある馬獣ホウカの背中に飛び乗った。
ホウカイの額に埋め込まれた青い魔眼が開くと、荒々しい走りから水辺を泳ぐ水鳥のような静かな走りに変化した。
・・・・・・
・・
シェクタ国をでるとレストは走りにくい砂漠を避け、足場がしっかりした海岸沿いを走ることにした。
緑の草が生える海岸沿い、漆黒のホウカイが走るその姿は凛としてなんとも美しい。
北の国シェクタから太陽の国レオの最南端ラジス峡谷まで通常の馬ならば何日もかかる距離をホウカイは1日と半分で走り抜けた。
レストは感覚を研ぎ澄ました。
魔素の抜けた依り代だが、そこにはまだジャクの魔素の香りは残っている。
微弱としても、5大魔人の威厳ある魔素の残り香を探し当てる事は、決して難しい事ではなかった。
しかし、レストは躊躇していた。
その依り代の近くに、5大魔人よりも深く大きな存在を感じたからだ。その力に比べれば自分など塵にも満たぬことも認識していた。
レストは馬獣から降りて、峡谷の岩に隠れながら近づくことにした。
しかし、先ほどからレストを軽い頭痛が襲う。
始めて来るラジス峡谷、それなのに知るはずもない景色が脳裏に浮かぶのだ。
そこを抜けると左側は傾斜になり、右側にはちょっとした水たまりがある。
(なぜ、私はここの景色を知っているのだ?)
その時、はっきりと強い幻聴がレストの脳裏に聞こえてきた。
[—女は何処にいる? 何故しゃべらない。しゃべらねばお前が処刑されるのだぞ、ロッシよ—]
【—貴様などにはわからぬ。彼女は俺の全てだ。殺るがいい、俺は愛の為にこの命を捧げよう—】
(なんだ.. 私は、誰を庇っている.. 愛とはなんだ? 何なのだ..)
「馬鹿な! 私の全ては魔人ドルヂェ様のものだぁあ!!」
レストは大きな声で叫ぶことで幻聴を、心に浮かぶ疑問を、強引にねじ伏せようとした。
王都フェルナンでのアコウとの闘いで失った信頼を取り戻し、魔人ドルヂェへ忠誠を示さなければならなかった。
しかし、何度ねじ伏せようがドルヂェなどよりも「大切な存在」をラジス峡谷の景色に感じずにいられなかった。
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