魔の種族
私は「時の加護者」アカネ。
ジャクを吸収したドルヂェは力をつけた。そしてフェルナン国を蹂躙する。その無慈悲な殺戮は、ただローキを決闘の機会を得ようとするがための行為だった。そしてついに王都フェルナンに牙が向けられた。凶暴な魔獣が王都を取り囲んだ時、「アリアの剣」の慟哭に大地が震えた。
—王都フェルナン—
「その剣の波動から察するに、お前も『運命の加護者』に与するものだな」
「この剣だけな。だが、俺は違う。俺はただの人間だ」
「ますます面白い人間だ」
「アコウ!」
大門から飛び出してきたのは騒ぎを聞きつけたラヴィエだった。
「ラヴィエ、出て来るな! 今日のお出かけはこいつを片付けてからだ。王宮内でお茶でも飲んで待っていてくれ」
ドルヂェはラヴィエに一度目線を送ると怪しい笑みを浮かべた。
逆にラヴィエの心は凍り付いたようだった。なぜならば目の前にいる魔人の顔はシェクタ国のブレス王子だったからだ。
「面白い闘いを思いついたぞ! これは実に面白い! 」
ドルヂェが印を結ぶと、金色の隈取が浮かびあがり、突如、空間に穴が開いた。
するとその穴から「千手の恕」という巨大な手が出現した。その手は勇ましい光を掴んでいる。「千手の恕」の小指がひとつ地面へ抜け落ちると、うねうねと跳ね回っていた。
[ ブ・ラユートバ・テロプス・マ・ヒス ]ドルヂェは第三の眼を開いて詠唱を唱えた。
地面で跳ね回る小指は閃光を放ちながら、人の形へと変形していった。
目の前に現れたのは、金色の髪を持つ青年だ。青年が長いまつ毛を持ち上げると、そこには何処までも広がる青空のような瞳が輝いていた。
辺り一面に涼しく爽やかな風が吹いたようだった。
「アコウよ、お前はあの門にいる女を好いているな。あの女を知っているぞ。この国の王女ラヴィエだ。女を護るために闘おうとしているのだろう? 私はお前と同じような心を持つ魂をここに転生させた。もっとも前世の記憶など持ってはいないがな」
青年はドルチェの前に膝を着き命令を待っていた。
「お前の名はレストだ。今からお前はそこのアコウという男を倒してこい。よいな」
「はっ、我が名はレスト。ドルチェ様の思いのままに」
ラヴィエは膝つくレストに見覚えがあった。それはギプス国のカレンの傍らで護衛をしていた近衛兵であり、カレン調査団の副団長。確か、名前は....
[ ニ・ナチェイアー! ]ドルヂェはさらに詠唱を唱え、第三の眼の銀の光彩を光らせる!
何かおかしい。
急に風が止まり、王都が静まり返った。アコウはラヴィエを見た。何かを叫ぼうとしているラヴィエは口を開けたまま止まってる。
「お前、何しやがった!」
「なに、つい先刻、闘った者が面白い能力を持っていたので、その能力を魔法でまねしてみたのだ。うむ、どうも効力はいまひとつのようだな。わずかに動いているようだが、まぁいいだろう」
ドルヂェはソルケの『不縛の剣』の能力を模倣し「両翼無風破」という魔法を編み出した。
ソルケの絶対零度により空間を凍らせる技とは違い、時間魔法の類だ。時間を極限まで遅くすることで空間をバラバラに破壊することが可能になっているのだ。
「アコウよ。私は今からこの王都に極大の雷を落とそうと思う。雷は空間を裂き、この王都は人も建物も粉微塵になるだろう。だが、お前がそのレストに勝利したならば、この魔法を解いて私たちは手を引こう」
王都フェルナンの上空には超巨大積雷雲が発生していた。
「勝手な事を言いや—」
レストが目の前から消えるとアコウの足をさばいた。アコウが地に背を打つと同時に胸骨を折る膝が落ちて来た。
「はっはっは。既に勝負はついたかな?レストよ。そのアコウに勝ってみよ。勝てばお前の『愛する女』のもとへ返してやろうぞ」
その言葉に一瞬レストの瞳に光が宿った。
「立て、アコウよ。たいして効いていないのはわかっている」
アコウはとっさに「アリアの剣」の鞘で膝の直撃を防いでいた。
「バレてたか。しかし、あぶねー奴だ。仕方がない。レスト、お前から地獄に送り返してやるぜ」
アコウは地面から跳ね起きると「アリアの剣」を構えなおした。
「いいや、私は帰らねばならないのだ、私を待つ者のもとへ。その為に、アコウ、お前を倒す」
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