モリヤの質問
私は「時の加護者」アカネ。
海と謎の結界により外界と遮断されたナンパヒ島。魔人ルカもゆっくり身体を休むことが出来るだろう。幼児化したツグミはトパーズのジェラがあやしている。ここだけは平和な時が進んでいる。しかし、こんなに平和な島においてもひと時も心の安らぎを持てずいる者もいた。
—ナンパヒ島 未完の白浜—
そよ風が吹く浜辺にある大きなキャカの木の下。
ジェラの腕の中でツグミが安らかにお昼寝をしていた。
ツグミを見つめるジェラは大切なものを見守る眼をしている。
ジェラ自信不思議に思いながらもそれが当たり前のような気持だった。ジェラは生まれた時からひとり、家族と呼べるのは唯一、自分に気功の極意を授けてくれた恩師くらいなものだ。それがツグミをまるで我が娘のように愛おしく思っている。ジェラはその理由を知らない。それが消された6年間の記憶の欠片だということを。
ジェラの目は波打ち際を歩いて近づく若者をとらえている。そして考えるのだ、この者がツグミにとって敵か味方かを。
ジェラはその若者に見覚えがあった。カレン調査船の船員だ。だが、その前にも会っている気がした。
「まるで父親気取りだな? 」
「 ..まぁ、そんなものだ」
「大罪を犯した死刑囚のくせに図々しい奴だ」
「なんの用だ? まさか、あんた、俺に皮肉を言うためにここまで来たんじゃないのだろう? 」
「ああ、わかっているじゃないか」
「あっ、待ってくれ。今、この子を診療所のベッドに移すから」
ジェラは診療所のルルにツグミを預けると再び浜へと戻った。
窓から対峙する2人を見てシエラが呟いた。
「アカネ様、あの2人、もめ事ですかね」
「ううん。たぶん、モリヤがジェラに用があるんだと思うよ」
「ふ~ん。でも、僕の心配事は、弱っちい2人の争いなんかじゃないんですよ.. もっと、こう大きなことが起こりそうで.... 」
「うん。この結果次第では何かが起こるかもしれないよ。シエラ、気を緩めないでね」
注目されていることなど露知らずに2人は既に戦闘態勢になっていた。
「あんた、なぜ俺にそんなに敵意をぶつけて来るんだ? 」
そうジェラが言うや否やモリヤは素早く身を低くし足払いにはいった。
辺りの砂が大きく跳ね上がりジェラの視界を遮るが、ジェラは低い体勢のモリヤ目がけ丸太のような脚を振り上げる。
確かに当たったように思えたが、手ごたえなく空を切った。
全ての砂が落ちた時にはモリヤの姿が見えなかった。
だが、瞬間的にジェラは、背後に向けて気を纏う拳を振り上げる。
その振り上げた拳の上に、羽毛のようにフワリとモリヤが立ち降りると、背後に一回転して地に足を付けた。
「さすがに、ロッシとの闘いで学習したようだな」
「ああ、お前の拳筋は以前、ベルの町で体験済みだ。ロッシに似ているお前は身内か? 」
「ああ、俺はロッシの兄のモリヤだ。貴様が弟に負けたことは知っている。貴様、ロッシの行方を知っているだろ! あの人の好い弟の事だ。きっと貴様のようなクズ野郎に騙しうちにされたに違いない。腕ずくで答えてもらうぞ! 」
その瞬間、モリヤの姿が消えた。
また、知らぬ間に背後に周られたと思いジェラは背後に気を取られる。だが、モリヤの姿は真下から現れ、ジェラの顎に痛烈な拳が叩き込まれた。
ジェラの巨体は宙に浮き、背中から地面に落ちた。次の瞬間、モリヤの膝が腹にめり込んだ。
「ぐはっ! いた.. 痛くない」
ジェラは砂を払いながらゆっくり立ち上がる。
「馬鹿な、俺の膝は誰よりも鋭く固い。普通のものなら今の一撃で肝臓が損傷し、悶絶するはずだ」
ジェラの身体の周りにサファイヤのような光の粒がはじけているのが見て取れた。
診療所の窓から見ていたシエラは目を丸くした。
「アカネ様、あのジェラという男の身体が光り始めました。この気配は何ですか?普通じゃないです」
「うん.. そうだね」
私はジェラがシエラと同列のトパーズだと知ったら嫌がると思い、実はまだ話していなかった。
ジェラとモリヤの拳の精度は段違いだった。モリヤの槍のような鋭い拳は人間の急所へ正確にさく裂していく。その拳の質はロッシのような「守るための拳」ではなく「人を殺める拳」だった。
最初は反撃していたジェラだったが、いつの頃からかモリヤに気が済むまで打たせていた。
モリヤも途中からジェラを殺すというよりも、弟を見つける事ができない苛立ちをジェラの身体を借りて晴らしているようだった。
攻撃がまったく効かない。それどころか、モリヤの攻撃が当たる度に、ジェラの周りの光の粒がますます明るくなっていく。
いい加減にモリヤもへばって地に膝を着いた。
「なんなんだ、貴様は.. どんな体の構造だ.. 」
「すまない、俺にもよくわからんのだ.. 俺は、今までいろいろな悪さをしてきた。だけど、お前の弟を殺していないし行方も知らない。俺は.. 俺は.. あの幼きツグミに誓って嘘は言っていない」
「 ..ぷっ ..ははははははは。お前、その熊みたいなおっさんが.. 赤ん坊に誓うかよ。こりゃ傑作だ!! あはははは」
モリヤは尻を砂浜に落とし、涙しながら大笑いした。
「わかった。神や親に誓うなどという奴よりも全然説得力あったぜ。それに直接闘ったとしてもあんたの腕じゃロッシに敵わないだろう。嘘が言えるほど器用じゃなさそうだしな。悪かったな、ジェラ」
「ああ ..モリヤ、ロッシは誰よりも誇り高き男だ。いや、ごめん、たぶん..そんな気がした。見つかるといいな」
「 ..ああ、ありがとよ」
モリヤにすまなそうな顔をしてジェラは診療所へ戻って来た。
別室のベッドから泣き声が聞こえるとジェラは急いでツグミの部屋へ行く。
その肩にはピンクサファイアの煌めきを放つ蝶が数匹止まっていた。
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