おこぼれに生きる
私は「時の加護者」アカネ。
私が魔人ルカをポルミス島の「ルル診療所」に連れて行っている間に、敵の本拠地、シェクタ国では魔人天空のジャクが粛清されていた。いや、魔人ドルヂェに吸収されたのだ。これでまたドルヂェは強くなったかもしれない。もしかして、ゆっくり休んでる場合じゃないかも?
—フェルナン国 運命の祠—
祠の床岩に突然闇色の穴がぽっかり口を開いた。
「ん? なんだ、ローキか? 」
『はい。お話したいことがございますが、あのぉ.. 』
ローキはなかなか姿を現さず闇の穴から手をちらほら出すばかりだった。
「クローズ、威嚇するな。あいつ、いつまでも出てこないぞ 」
シエラの言葉に、クローズは威嚇を解いた。
「さぁ、いい加減出てこい」
『あの..すみません、もうひと方の.. 』
「ええい、面倒くさいな。お前も威嚇するのをやめろ、ソルケ。だいたい、いつまでこの祠にいるつもりなんだ」
ソルケの「不縛の剣」の鳴動が鳴りやむと、ようやく闇の底穴からローキが出てきた。
そのローキの魔人とも思えない姿にソルケは意外な顔をしていた。
「この者は本当に魔人なのですか? ただの奇妙な服を着た老人にしか見えませんが」
ソルケは初めて見る魔人の姿をまじまじと眺めた。
「本当じゃ、こいつは憤怒のローキ。こいつの見た目に騙されるなよ、ソルケ。こいつは今はこの姿でいるだけなのだから。 そうじゃろ、ローキ」
ローキは膝を折り、身を低くして頷いた。
「で、ローキ、何しに来たのだ」
『はい、先ほど大変な事が起きましたので、ご報告します。私たちの5大魔人のひとり天空のジャクの気配が消えました』
「なに!? お前、魔人は死なないと言っていただろ。嘘ばかり.. それは残念だったな」
ローキがあまりにも悲痛な面持ちを見せるのでシャーレは、途中で言葉を飲んだ。
『すいません。我々、魔人はもともと意識ある魔素エネルギー体なのです。今の姿はそれぞれが依り代を手に入れた姿なのです。その為、エネルギーである私たちが死ぬことはないのですが、姿を変えられてしまう事はあるのです』
「どういうことかわからぬ。わかりやすく言ってくれ」
『先ほど起きた事をそのままお伝えします。ジャクがドルヂェに吸収されました』
「なるほど、そういうことか。それで.. ドルヂェは強くなったのか? 」
『はい。失礼を承知で申し上げます。おそらくはトパーズの方々に匹敵するほどの力は得たと思います』
「それはやっかいじゃなぁ.. まぁ、ただ同等の力を得ようとも、まだトパーズに勝てる事はないだろう。クローズに、そこのソルケも魔人とは戦いの経験がまったく違う」
クローズの鼻が少し開いたのをみてソルケは吹き出しそうになる。
『ですが、ドルヂェは今も力を得ています』
「ローキ、前から疑問だったのだが、お前らはなぜドルヂェを抑える事が出来ないのだ」
『これはとてもお恥ずかしい話なのですが、私たちがこの世界で存在を維持しているのはドルヂェのおかげなのです』
「どういうことだ? 」
『私たちは魔界でこそ魔素を作り出すことができるのですが、魔界以外の場所では逆に魔素を消費してしまいます。今、私たちが命を繋ぐために消費している魔素は、ドルヂェからこぼれ落ちている魔素なのです。ドルヂェは魔界以外に居ても「千手の恕」を使う事によって魔界から大量の魔素を掴んで持ってくることが出来ます』
「『千手の恕』とはなんだ?」
『「千手の恕」は次元、空間に穴を開け、その「千手」により物、生物、エネルギー、そして魂でも自由に運ぶことが出来ます。ドルヂェは魔界の魔素を「千手の恕」により喰らっています。私を含め、他の魔人はこぼれた魔素によって存在を維持しているのです』
「なるほど、ならば、お前らは自分の命欲しさにドルヂェを見逃しているという事だな」
シャーレの言い方はきついが、まさに的を射た指摘だった。
『そう言われても仕方がありません。でも私たちの存在は「法魔の加護者」によって創られたものです。その私たちの母ともいえるツグミ様のお役に立てずに消え去るのは、魔人と言えども口惜しいのです』
その言葉に誰より共感していたのはクローズだった。
「私はもうひとつ疑問に思うのだ。お前たちは魔界の場所がわからなくなりこの世界にいる。だが、お前の『三世の眼』やドルヂェの『千手の恕』は魔界を補足しているではないか?補足しているならば帰れるだろう?」
『いいえ、「三世の眼」や「千手の恕」が魔界と通じていても、私たちは魔界に帰れないのです。魔界までの道しるべがなければ、私たちは大海原に投げ出された櫂の無い船のように漂うだけなのです』
— リリリリリリィ —
上空から冷鳥フロアの雄叫びが聞こえると、運命の祠の周辺が凍てつくような寒さとなった。
「奴か? 」
『そのようです。ドルヂェの狙いはおそらく私でしょう。シャーレ様、ここはひとまずお逃げください』
「ふん。魔人などこのソルケが粉砕してやる」
祠からでると岩肌は凍り付き、地面には霜が立っていた。
そして4枚の大きな羽根を広げて、ゆっくり天からドルヂェが姿を現した。
その姿に動揺を隠せなかったのはソルケだった。
なぜならば、地に降り立った魔人は幾千年もの生の中で、唯一、ソルケが肌の接触を許した人間、ブレスの姿をしていたからだ。
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