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魔王様、清掃係がまた増えました  作者: 花束 ねる


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第3話 清掃係の食費が払えません

 魔王城の食料庫が空になった。


 原因は、カスミンだった。


 1,024体のカスミンが、毎日食事をしていた。


「おいしいわね〜」

「そうね〜」

「これもいただきましょうか〜」

「いいわね〜」


 食料庫では、カスミンたちが楽しそうに食事をしていた。


 魔王ゲンゾウは、その光景を見つめていた。


「……バイゾー」

「はい、魔王様!」

「食料がない」

「はい!」

「なぜだ」

「カスミンが増えたためです!」

「わかっている!」


 ゲンゾウは食料庫の帳簿を開いた。


 昨日まであった食料が、すべて消えていた。


「……このままでは兵士の食事までなくなる」

「それは大変ですね!」

「他人事のように言うな!」


 博士は記録板を取り出した。


「では、カスミンの食事を不要にしましょう!」

「……どうやって?」

「光合成です!」

「光合成?」

「はい! 植物のように、太陽の光と水で栄養を作れるようにします!」

「……できるのか?」

「研究してみます!」


 ゲンゾウは少し考えた。


 食費がなくなるなら、悪い話ではない。


「……増やすなよ」

「もちろんです!」


     *


 3日後。


「魔王様! 完成しました!」


 博士が連れてきたのは、頭から葉っぱの生えたカスミンだった。


「あら〜。葉っぱができたわ〜」


 半透明の身体から、小さな緑色の葉が2枚伸びていた。


 ゲンゾウはしばらく眺めた。


「……何をした?」

「光合成能力を付与しました!」

「この1体だけか?」

「いいえ! 《無限分裂》によって、すべてのカスミンに能力が共有されています!」

「……全員か?」

「はい! 1,024体すべてです!」

「本当に食事は不要になるのか?」

「はい! 太陽の光と水があれば、栄養を作れます!」

「素晴らしい!」


 ゲンゾウは久しぶりに笑顔になった。


「これなら食費を減らせる!」

「その通りです!」


 カスミンが窓の外を見た。


「お日様、気持ちよさそうね〜」

「そうですね! 外に出してあげましょう!」


 博士が窓を開けた。


 カスミンは、窓から中庭へ滑り出した。


「あったかいわね〜」

「気持ちいいわ〜」

「ここ、好きだわ〜」


 それを見ていたほかのカスミンたちも、次々と中庭へ集まってきた。


「私も行くわ〜」

「私も〜」

「お日様があるのね〜」

「いいわね〜」


 1,024体のカスミンが、中庭で日光浴を始めた。


 ゲンゾウは満足げにうなずいた。


「これで問題は解決だな」


     *


 翌朝。


 魔王城の中庭から、楽しそうな声が聞こえてきた。


「おはよう〜」

「おはよう〜」

「今日もいいお天気ね〜」

「そうね〜」


 ゲンゾウは窓から中庭を見下ろした。


 カスミンたちが、太陽の光を浴びていた。


 葉っぱをゆらゆらと揺らしながら、気持ちよさそうにしている。


「……平和だな」


 ゲンゾウは久しぶりに安心した。


 ところが、昼になると中庭が少し狭くなっていた。


 夕方には、さらに狭くなっていた。


 翌日。


 中庭が埋まった。


 カスミンで。


「……バイゾー」


 ゲンゾウは低い声で呼んだ。


「はい、魔王様!」

「何体いる?」

「2,048体です!」

「……なぜ増えた?」

「光合成によって、十分なエネルギーを得られるようになったからです!」

「つまり?」

「増殖が活発になりました!」

「食費を減らせと言ったのであって、数を増やせとは言っていない!」


 博士は記録板を確認した。


「ですが魔王様、食費は確実に減少しております!」

「……それはそうだが」

「しかも、清掃要員は倍増しました!」

「……それもそうだが」


 ゲンゾウは中庭を見た。


 カスミンたちが、葉っぱを揺らしていた。


「気持ちいいわね〜」

「そうね〜」

「お日様、大好きだわ〜」

「私も〜」


 ゲンゾウは少し考えた。


「……まあ、食費がかからないならよい」


 博士は満足げにうなずいた。


     *


 1週間後。


 魔王城の中庭は、完全にカスミンで埋まっていた。


 その数、8,192体。


 城壁の上にもいた。


 屋根の上にもいた。


 塔の先端にもいた。


 日当たりのいい場所は、すべてカスミンに占領されていた。


「……バイゾー」

「はい!」

「なぜ屋根の上にいる?」

「日当たりがいいからです!」

「なぜ塔の上にもいる?」

「日当たりがいいからです!」

「なぜ私の寝室の窓にもいる?」

「日当たりがいいからです!」


 ゲンゾウは窓を開けた。


 カスミンが並んでいた。


「おはようございます〜」

「今日もいいお天気ね〜」

「ゲンゾウ様も日光浴する〜?」


「……しない」


 ゲンゾウは窓を閉めた。


 博士が記録板を確認した。


「魔王様、ひとつ問題があります」

「今さら何だ」

「カスミンが日当たりのいい場所へ移動するため、城内の通路が混雑しております」

「……知っている」

「兵士の移動にも支障が出始めています」

「……知っている」

「魔王様の寝室にも入れなくなりそうです」

「それは困る!」


 ゲンゾウは立ち上がった。


「何とかしろ!」

「では、移動しないようにしましょう!」

「……どうやって?」

「根を生やします!」

「根?」

「はい! 植物のように地面に固定すれば、移動しなくなります!」

「……なるほど」


 ゲンゾウは考えた。


 確かに、移動しなければ通路を塞ぐこともない。


「ただし、これ以上増やすなよ」

「もちろんです!」


 博士は魔法陣を展開した。


 中庭のカスミンたちから、細い根が伸び始めた。


「あら〜」

「根っこができたわね〜」

「地面にくっついたわ〜」

「落ち着くわね〜」


 カスミンたちは、次々と地面に根を張った。


 博士は満足げにうなずいた。


「これで勝手に移動しません!」

「……そうか」


 ゲンゾウは中庭を眺めた。


 確かに、カスミンたちは動かなくなった。


 ようやく平穏が訪れた。


 そう思った。


     *


 翌朝。


 中庭から声が聞こえた。


「あら〜」

「何か伸びてきたわね〜」

「そうね〜」

「上の方ね〜」


 ゲンゾウが窓を開けると、カスミンたちの身体から細い茎が伸びていた。


 茎の先には、小さなつぼみがついていた。


「……バイゾー」


 博士が駆けつけた。


「はい、魔王様!」

「これは何だ」

「つぼみですね!」

「見ればわかる! なぜつぼみがある!」

「植物として成長しているようです!」

「成長させるな!」


 カスミンたちは、楽しそうに茎を揺らしていた。


「もうすぐ咲くのかしら〜」

「楽しみね〜」

「何色かしら〜」

「白いといいわね〜」


 ゲンゾウは空を仰いだ。


「……私は魔王なのだぞ」


 その翌朝。


 魔王城の中庭に、最初の白い花が咲いた。

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