第14話 小さき者
3日目の深夜。
残りハヤト176日。カナ179日。
『…ヤト、カナ。』
さっきよりも、言葉がはっきり聞こえるようになって来た。
「こっち。」
「…あぁ。」
冷んやりとした空気が漂う、夜の森を私とコバヤシ君は進む。
お借りしたランタンの灯りは小さく、1人分の足元しか照らせない。そこで気を利かせて、彼に近づくと…何故か一定の距離を取られてしまう。
もしかして避けられているのかと思い振り返えると、彼はキョロキョロ珍しそうに森を見ている。
そんなに夜の森が珍しいのかな?ほんと、男子は子供だ。
「そ、そう言えばさ」
「ん、何?」
「カカナは、学校どこ?」
脈絡の無い質問だなぁと思いながら、お互いの事を話し合う事も無かったし、良い機会かもしれない。
「坂波南高校。コバヤシ君は?」
「俺は下坂高。南かよ…やっぱり頭いいじゃん。」
「やっぱりって何よ。」
確かに県内の高校の中では、偏差値が高めだ。
進学率もかなり高いが、私は別の目的でそこへ行った。
「学年は?私は3年。」
「あぁ…俺は2年なんだ。」
おっと、私の方がお姉さんだったか。
ちょっとだけニヤニヤしてしまう。
「な、なんだよ急に…笑い出して。」
「ふふ、私の方が先輩だったね。」
気に入らないのか、コバヤシ君がソッポを向いてしまう。
なんだよ、可愛くないなー。
ま、先輩風を吹かす気もないのだが。
「それはそうと、カカナさんは…」
「いい、いい。気にしないで。」
「…カ、カカナは、何であそこにいたんだよ。家が近所なのか?」
あそこにいたって…事故のあった日のことか。
「あの日はバイトでね、出勤途中。」
「へぇ、何のバイトしてるんだ?」
離れて歩いていたコバヤシ君が、ちょっと距離を縮めて食いついて来た。バイトに興味があるのかな?
「洋菓子店だよ。接客の方だけどね。」
「近くにあったっけ?」
「ジョリアンジュって言う個人店なんだけど…。」
「あ!分かった!包装紙が天使の柄の!」
そうそう。
包装紙がブルーをバックに、白い天使が羽ばたいている絵のヤツだ。社長の知人がデザインしたとかで、ケーキと一緒に箱も写真に写して、インスタに上げている人を結構見かける。
「あそこのシュークリーム好きだったなぁ。」
「最近は買いに来ないの?」
女子高生の利用はちょこちょこあるが、男子高生はほとんど見ない。それでも、地域密着型の店舗だし、コバヤシ君も近所なら使った事があるのかな?
「…母ちゃんが好きだったんだよ。」
「そうなんだ。じゃ、今度私が店番してる時に一緒に買いに来てよ!」
「あ、…あぁ、そうだね。」
歯切れの悪い返事をして、黙り込むコバヤシ君。
もしかしてお母さんと一緒ってのは、恥ずかしかったか?
この歳になって、親と一緒に知り合いの店に行くのは…そうだよね。
「…水曜と日曜なら大体いるからさ。」
「あ、いや、行くよ。ウチ大人数だから、しっかり買うし!」
「確か兄弟が3人いるんだっけ?良いなぁ兄弟!」
「カカナは一人っ子だもんね。…帰ったらチビ達を紹介するよ。」
「ホント!?楽しみにしてるから!」
兄弟か!昔から兄弟のいる友達は憧れの対象だった。
お兄ちゃんってどんな感じだろう。お姉ちゃんがいたら何を話したかな。弟と上手くやれるかな。妹とどこに遊びに行こうか…考えただけでワクワクする。小さい頃、人形やぬいぐるみを兄弟に見立ててごっこ遊びを一人でよくやった物だ。
そんな私が、クラスメイトを質問攻めする度に、「カナちゃんは一人っ子で良いよね」って羨ましがられた。
欲しい物は買ってもらえるし、お菓子を取られる事もない。親からの愛も全て独り占め出来る……愛ね…。
そこに兄弟の数は関係ないと思う。
ちょっとだけ寂しい気持ちに浸っていると、
「カカナ。」
「…!?」
急に彼の顔が。
月夜に反射した目と私の目が綺麗に合い、心臓が跳ね上がった。いや、私の顔を見ているが、もっと遠くを見ている気もする。
「きゅ、急に何よ!びっくりするじゃ…」
「い、いや、そこに…」
彼が指差す方向を目で確認する。
「…っ!!!」
私の顔の横を飛んでいた光るソレを、声にならない悲鳴を上げながら掴んだ。
□□□
歩いている最中、俺は森の中を何度か見渡した。
カカナがやたら近寄って来たり、笑顔を振りまくもんだから、ニヤける顔を誤魔化す意味もあったけど…森の中から視線を感じたのだ。
そして兄弟の話になった時、それは現れた。
初めは気のせいかと思った。ランタンの灯りが目に残って、闇夜に幻の光が見えているのだと。
しかしそれは確かにそこにいて、カカナの顔の横で手を上げ何かを主張し始めた。
「カカナ。」
「きゅ、急に何よ!びっくりするじゃ…」
「い、いや、そこに…」
指をさした先で腕を組むそれを、驚いたカカナは神速の速さで鷲掴みした。
「い、いやぁ!掴んじゃった!!動いてる!!」
「お、落ち着いて、握り潰さないほうがいい!」
カカナの左手に捕まったソイツは体をくねらせ、手から抜け出て来た!
パタパタと半透明の羽根を懸命に動かしながら、くるくるロールの栗色の髪をくしゃくしゃ手櫛で直す。
落ち着いたのか、空気をお腹いっぱい吸って…
『握り潰すとか、正気か!!』
掌サイズの女の子が、顔を真っ赤にしながら怒っている。
「うそっ!妖精!?」
「でもこの声って…森の」
森の声だ。
結構命令口調で話しかけられていたから、何となく顔のついた樫の木をイメージしていたが…まさかこんな女の子だったとは。
『地球に妖精がいない理由が分かったわ!』
「その、ごめんなさい!びっくりしちゃって…痛かった?」
『痛かったって!?えぇ、そりゃもう!!』
ダメだ完全に怒ってる。
カカナはあわあわしているし、ここは俺がお兄ちゃんスイッチをオンにする。
「大丈夫か?痛かったよな。…どこが痛む?」
『羽根とか。デリケートなんだよここ!』
「今は飛べてるけど、いつもに比べて調子とかどう。違和感とかないか?」
『まぁ、破れてもないし…気にならない程度カナ。』
「それは良かった。でも何かあったら言って欲しい。」
『フン、この位余裕だし!』
よし、ここだ。
「ごめんね。カカナも悪気は無かったんだ…ただ初めて妖精を見たもんだから驚いてしまって。」
『まぁ私も、ちょっと、配慮に欠けた登場の仕方だったし。…今度から気をつけるんだぞ!』
「本当、ごめんなさい。」
畳み掛けるようにカカナがもう一度謝る。
腕を組みながらプイッとするが、さっきと違い怒りのオーラはもうない。
お兄ちゃんの勝利だ。
「…コバヤシ君、ありがとう!」
「…弟達に散々揉まれたからな。」
カカナが左手を縦にしてスマンのポーズ。
俺も妖精から見えないようにVサインを返す。
さて、話が逸れていたが聞きたい事は一杯ある。
妖精が落ち着いたのを見計らって、俺から質問してみる。
「それで、君は一体?」
『私は可愛い妖精に見えるかもしれないが、実は神だ!』
可愛く胸を張る妖精。
しばらく言葉の意味を考えていたが…
「え、神様!?どうしてこんな所に…??」
「待ってよ、もしかしてあの天使が言っていた、仕事しない神様って!」
『おい、人聞きが悪いぞ!』
「ご、ごめんなさい。」
『でも、多分私の事だな。』
「…ちょっと、アンタが仕事しないせいで俺たち死にかけてるって言われたんだ!」
『だからすぐ鷲掴みしようとしない!…まぁ落ち着けって。その話がしたくて、私は君達を呼んだんだ。』
どう言う事だ?
俺たちが何て言えば良いのか迷っていると、俺たちに手頃なサイズの石を指差して、座るように促す。
妖精自身はちょうど良い高さの枝を見つけ、そこに腰掛けた。
『さて、どこから話そうか…』
そう言って、彼女は頬に手を当てながら片肘をついた。
最後までご覧くださりありがとう御座います。
一人っ子の子は、兄弟姉妹に憧れ。
兄弟がいる子は、一人っ子に憧れ…るのでしょうか?
喧嘩も多いですが、いないよりはいた方が楽しいんじゃないかと思います。




