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第15話 小さな神様

3日目の未明。


残りハヤト176日。カナ179日。

腰掛けた石の冷たさが、お尻にじんわり浸透していく。

私達は、栗色の髪を指に巻き付ける自称神様妖精が話し始めるのを待った。



『先に言っておくが、私はこの世界の神じゃない。担当はあっちなんだ。』



この一言で、神様について沢山の疑問が浮かび上がるが、今は頭の隅に追いやる。


『でち天から聞いていると思うけど、私がこっちを気にかけるようになったのは、フェリシアだ。』

「でち天って、あの天使だよね。言い方が、えび天みた…」


慌ててコバヤシ君の口を塞ぐ。気持ちは分かるが、今じゃない。

神様の小さな顔が不審げにこちらを向くが、フルフル顔を横に振って話を促す。


『…話を聞いていると思うけど、この世界に災厄…魔王が生まれ出た。今のまま進めば、この世界は滅びるだろう。私はそれを良しとしたくないんだ。』

「はい、だから魔王を倒せって言われて、勇者と剣としてこの世界に来たんです。平和を取り戻せば、…神様が職務復帰してくださると。」

『大筋はそうなんだが…残念だが、勇者を送り込んで魔王を倒しても、事態は解決しない。この世界はやっぱり滅びる。』




それじゃ私たちは何しにここに来たんだ?

隣のコバヤシ君も固まったままだ。つまり、私たちは不要?


『この世界の神達は、滅びるのもまた運命と静観するらしいが…そのなんだ、私がフェリシアの魂に強く惹かれてね。』

「魂ですか?」

『あぁ、必ずしも信仰の強さでは無いんだけど、波長が合うと言うか…ごく稀にあるんだ。』


そう言う神様の顔は真剣だった。

正直、神様と聞いてお爺さんみたいな…少なくとも男性像を想像していたので、天国でフェリシアのビジョンを見た時、容姿に惚れた下心の神かと考えていたが、それは違うみたいだ。



『きっかけは、彼女が治癒魔法に目覚めた事だ。私も管轄外が滅びても気にしないんだが、フェリシアの魔力と祈りが私に引っ掛かった。』

「それじゃ、フェリシアが魔法に目覚めなかったら、この世界を見捨てたって事ですか?」

『おぉ、言うなハヤト。』



その言葉に、慌てて顔を伏せるコバヤシ君。

しかし神様は気を悪くした素振りはなく、歯を剥き出して笑った。


『ふふ、見捨てたと言うより、ここの神達が見守ると決めた意見を尊重したと考えてくれ。これでも自分のところで手一杯なんだよ。』


まぁ、だから君達に迷惑がかかっているんだけどねと、バツが悪そうに舌をペロっと出しながら、彼女は空中に飛び上がった。



『話の続きだが、彼女の出現で違う運命が動き始めたんだ。そこで私は彼女を見守る事にした。すると、聖女の噂が広がった事で、新しい敵も現れた。今、君達が一緒にいるマラジアル連邦王国の人間だ。』

「それじゃ、フェリシアが言っていた誘拐未遂って…。」

「あれってレザールさん達だったのかしら?」


『彼らでは無いけど、神父が邪魔するもんで最終的に彼らが派遣されたんだ。なかなかやるよね、彼。』


「でも、バレーヌさんは自分達のせいでフェリシアが狙われてるって言ってましたけど?」

『立場が変われば敵味方も変わるだろ?あの日までは、彼らの方がフェリシアにとって良くない陣営だった。』



それじゃどうして今は放置しているのだろうか?

もしかしてここで、レザール達からフェリシアを取り返す為に私たちを呼び出したのだろうか。


『フフン。カナは感の良い子だね。』


神様が私の右肩に腰掛ける。

間近でみる彼女は、本当に人形の様に可愛い。


『君の疑問に答える前に、私が先に見た運命の流れだと、フェリシアはヴァステイト神聖王国に行く筈だったんだ。』


また知らない国の名前が出て来た。

神聖と言う事は宗教国家とかなのだろうか?


『君達が撃退した騎士団は、そこから来ていたんだ。』

「待てよ、アイツらはフェリシアに危害を加えようとしていたぞ。あんな奴らに連れて行かれたら!」


それについては私も同感だ。

もし連れ去られていればどうなっていた事か。


『勿論。予定では本国から使者が来て、神父の手引きで神聖王国に迎えられるはずだった。でも、使者は来ないでアイツらがやって来た。これがどう言う意味か分かるかい?』


「え、何だろ。カカナ分かる?」

「そうね…運命が変わったって事ですか?」

『良いぞ。考えてごらん。』



嬉しそうな笑顔を横目に思考を巡らせてみる。


ここの神様は静観するつもりだから、運命の事かな。

滅ぶ運命を回避させるフェリシアが現れた事で、運命がそれを良しとしなかったとか?

本来のスジに戻る為に、フェリシアを亡き者に…いやそれだとおかしい。


そもそもフェリシアが迎えられる理由は、魔法を授かり聖女になったからだ。

神父様もその話を聞いて来たんだし、神聖王国は初めから聖女を迎え入れるつもりだったんだ。それを変更したって事は…。


右肩の神様は出来の良い生徒を見るような顔で、私に微笑んでいる。


『…カナには分かったかな。』

「運命…予定にない何者かが邪魔してる。って事ですか?」

『あぁ、良いね大好きだよ!』


「誰かって誰なんですか?」

『ハヤト君、それが分かれば私も苦労しないよ。でも運命が変わったから、私はレザール達からフェリシアを取り戻さないんだ。』

「確かに初日は、私達に助言をくれて追わせたけど、昨日は何も無かった。」

『うんうん、そうだ。』



上機嫌に飛び上がる神様。

羽根を動かす度に、小さな光が空中にキラキラ残るのが綺麗だ。

彼女は私達の顔の前で浮遊すると、小さな人差し指をピッとたてた。



『まず第一に、魔王出現により滅ぶ運命の世界に、フェリシアが魔法を授かった事で、破滅を回避する望みが生まれた。』


彼女は運命の悪戯か気紛れで、この世界では珍しい治癒魔法に覚醒する。

その噂が広まり、神聖王国から神父が監視のために派遣された。時期が来たら迎え入れる為に。



『第二に、私が彼女を見守る事にした。』


修道女となった彼女が祈る事により、私達の神様が興味を持った。運命の通りなら、そのまま神聖王国から使者が来るはずだったが…



『第三に、来たのが使者ではなくモラルの低い騎士団が秘密裏にやって来て、運命がまた破滅へ向かう。』


アイツらの事だ。

予定にない騎士団を、何者かが送り込んだと言う事だろう。

もしかしたら、フェリシアはもうこの世にはいなかったかもしれない。



『ただ、予想外は向こうだけでなくこっちにも起こった。…2人がこの世界に来たことだ。』


神様は満面の笑顔でそう言った。

ニカッと見える小さな歯が可愛い。


「そうなんですか?…神様が職場から離れたから、無理やり送り込まれたモノだと。」

『でも君達は、断って天界で私の帰りを待つ選択も出来た。そもそも人間でなく、でち天や他の神族が来ても良かったんだ。私を呼び戻すだけならね!』

「そうかもしれないですけど…」

『私は喜んでいるんだよ?君達の出現は、誰かさんにとっても予想外。良いカウンターになった。』



あまり実感は無いが、そうだと嬉しい。

隣を見ると彼も複雑そうな顔をしていた。

それを見た神様が、しょうがないなぁと言ってから声音を低くして言葉を続けた。


『…君達が来て決定的に変わった事がある。バレーヌだ。』

「え、なんでバレーヌさんが?」

『君達が来た事で、オークとの戦いが長引いてしまった。私の見た運命では…』


神様が知っていた運命の筋書きでは、村に侵入したオークを神父は全て倒さずに教会に籠城。そこで早い段階でフェリシアの誘拐に気が付き、レザール達を神父が追う。


橋の手前で追いついかれた一団は、そこで戦闘。

目が覚めたフェリシアは橋を渡り、バレーヌと共に落下。

彼女はそこでフェリシアを護り死ぬ運命だった。



「うそ…バレーヌさんが?」

『君達が助けたんだ。本来の運命なら彼女はもう存在しない。』

「言いたく無いですけど、それは人の運命を変えた…未来を変えてしまったと言う事でしょうか。」


コバヤシ君の言葉に、私はハッとした。

良かったと思う気持ちと、悪いことをしたのではと言う気持ちが、私の心を引き裂こうとする。


『未来を変えるのは、いつでも今を生きる人だ。何も気に病む事はない。』


それを聞いてほっとするが、コバヤシ君の表情は曇ったままだ。


「大丈夫?」

「あぁ、うん、いやそれなら良かった。」


『君は…そうだったね。難しいかもしれないけど、運命とは変わりやすいモノなんだ。神にだって自由に出来るモノじゃない。だから我々は時折、こうやって人間に関わりを持つんだよ。』


神様はゆっくりコバヤシ君に近づくと、優しく彼の顔を抱きしめた。

彼はすぐ小さな身体を手で包みながら、顔を隠してしまう。



…今、彼から溢れる涙を見た気がした。



2人だけの時間が流れるのを、私は隣で見ている事しか出来ない。


私はこれから知らないといけないんだ。

この世界の事、フェリシアの事、レザールさん達の事、これから出会う人たちの事。


そして…彼の事。


知りたいと思った分だけ、私の事も知って貰いたいと思う。



ほんの束の間だったが、神様が離れるといつものコバヤシ君の表情に戻っていた。

ちょっと目が赤くなってる…。


神様は空中に飛び上がると、小さな身体で大きく背伸びをすると、私の頭に腰掛けてにっこりこう言った。





『と言う訳で、これからヨロシク。』







「「…えぇー!!?」」



私とコバヤシ君の声が森に響いた。



最後までご覧くださりありがとう御座います。


もっとさっぱりとした内容になる予定でした。

でも書くウチに、妖精の口から私の知らない事実が次々に出てきて、…そんな話だったのかと思いました。


しかもついて来るのかこの神様。

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