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04:学校へ①

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。学校に連絡してみたけど、一応、遅刻しても許されるみたいだから」


 彩は顔を上げ、無理な笑顔で笑ってみせた。兄の暗い顔を少しでも明るくするために。


「そうか。当然だな。彩が悪いわけではない。」


 平静を装って京は言葉を吐き出した。もちろん、内心はそんなに穏やかでは居られていない。だが、愛しい妹の心を無下にするわけにもいかないのだ。少し元気のない笑顔でも天使の笑顔には変わらない。

 京は怒りに震えていた。


 なんて事だ!どこのバス会社だ?企業を組織的に根っこから教育しなおしてやる必要がある。彩にこんな顔をさせるのなら、それだけで万死に値するという事を基礎からみっちり教えてやる必要がある。例えどんな理由であろうと、他のラインは遅れても彩が乗るこのラインだけは休む事も遅れる事も許さない!


 もちろん彩は悪くない。バスがなければ彩が一人で学校へ登校するなどできない。できるわけがない。あまりにも危険だからだ。そしてそのバスが遅れているのだから、今日の遅刻は仕方のない事だ。それに、すでに彩は学校へも連絡を入れている。寝坊だとかそんな事ではないと証明されている。

 だが、そんな事はどうでも良い事だ。

 例え学校が、教師が、クラスメイトが、彩の遅刻を許しても、彩自身がそれを許せないだろう。

 それがどんな理由であっても、それに対応できなかったのが悪い。それが我が家の教えの一つだからだ。


 ならば、兄として京に出来る事は一つ。


 京は決意した。

 覚悟を決め、目の前の淹れたてアツアツのコーヒーを、一気にグイと飲み干す。


「ちょ、ちょっと!?……お兄ちゃん!?」


 熱い。ものすごく熱い。

 ついでに京は猫舌である。それは彩も心配するだろう。

 だが、それでも京は何ともない表情を顔に貼り付け「ふぅ」と一息つく。静かに立ち上がり、カップをキッチンへ。


「彩、準備は出来てるんだよな?」


 振り向かずに聞いた。

 柔らかなスポンジに洗剤をつけ、泡立たせる。素早く優しく的確にカップを洗い、水を切る。


「え?」


 振り向かずともキョトンとした顔をしているのが分かる。唐突な行動も、質問にも混乱しているのだろう。京は気にしず言葉を続けた。


「学校に行く準備だ」


 水を切ったカップを手際よく拭き終えると、そのままシンクも綺麗に片付けていく。水垢は一度ついたら落とすのが大変だ。水回りを綺麗に保つにはこまめな掃除が必要不可欠。


「うん。もう出来てるけど……」


 だったら、後は行動するだけだ。

 綺麗になったシンクを確認し、京はリビングに戻った。


「よし。いくぞ」


 やっぱり彩はキョトンとした顔をしていた。けれど気にしない。気を使わせることもしてはならない。


「行くって……」


 今、行くべき所など一つしかない。

 ただそれを行動にするだけ。


「決まってるだろ」


 ならば、そこヘ行くまでだ。それだけの事だ。


「登校だ」

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