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05:学校へ②

「お兄ちゃん、本気なの!?」


 京の登校宣言に彩は本気で驚いていた。まるでありえないセリフを聞いたみたいに驚いていた。


「本気だ」


 無論である。

 彩がこの時間からバスを使わずに一人で登校時間に間に合うように学校へ登校する事は不可能だ。そしてバスが来るという連絡はまだ来ていない。

 だったら、彩が一人で登校しなければ良いだけの事。


「俺が学校まで、彩を送る」


 だったら、京が彩と一緒に登校すれば良いだけの事ではないか。


「で、でも!そんな事したらお兄ちゃんが……!」

「行くぞ。時間はあまり無いからな」


 心配する彩の言葉を京は遮った。本当ならば最後まで聞いていたいその美しい声。吐息の一つ一つすら至高のバラード。だが今は、悲しい曲は聞きたくない。

 普段の京はそんな事しない。だからこそ、彩は兄の決意をその一言で理解した。

 京には彩を学校まで送るだけの力があると知っている。そして、その兄の力を、兄自身を信じている。

 だから彩はそれだけを口にした。


「ありがとう。お兄ちゃん」


 爆発したかと思った。

 その言葉を聞いた京の心臓は、興奮で爆発したかと思うくらいに高鳴っていた。もちろん、そんな様子を彩に気づかせるような事はしない。ギリギリの所で抑えきった。


「気にする必要はないさ。俺は彩の、兄だからな」


 腕時計をハメながら、背中で京は答える。

 本当に危なかった。きっと彩は少しだけ照れてピンク色に上記した肌と、背の高い京を見上げるような目線でその言葉を口にしただろう。想像しただけでも心臓は爆発するほどの愛らしさだ。引き出しから腕時計を取り出すタイミングで良かった。正面から向き合う状態で言われたのなら、この愛を抑え切れた自信などまるでない。京の心臓は本当に爆発した事だろう。


 タキシードに合わせたエナメルの靴を履き、玄関に置かれた姿見の鏡の前に立つ。心音を落ち着かせ、そっと紅潮の引いた自分の顔の肌に触れる。大丈夫。もう顔の火照りも完璧に消えている。彩の前でのいつものクールな兄だ。彩に近づかれても平気だろう。

 それにしても恐ろしい破壊力だった。彩の「ありがとう」は本当にヤバい。


 京に遅れて、学校の鞄を持って彩も玄関に来る。京はさり気なく、ローファーの靴紐を結ぶ彩の鞄を持ってやり、鏡の前のスペースを開けてやる。

 小さく「ありがとう」と言って、彩は鏡の前で髪や服を簡単にチェックしだしす。

 当然、京はその後ろで自然に鏡に映らない場所へポジショニングし、再び心音を落ち着かせる作業に入っていた。

 服のシワや寝癖を確認するだけのちょっとした動きも、まるでバレエダンスか何かの洗練された動きに見えてしまう。


「うん、大丈夫。お兄ちゃん、おまたせ」


 言って彩が京から自分の鞄を受け取る。彩の服のチェックが終わるタイミングには京も作業を間に合わせ、鞄をスムーズに返してやる。


「忘れ物はないな?」

「うん、大丈夫だよ」


 最終確認を終えて、後は登校を始めるだけだ。

 京は特に気負った様子もなく、ごく自然に玄関の扉を開ける。


 時刻は08時50分。登校時間まで、後40分。


 いざ、学校へ。

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