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決戦前夜

シレンの書物群より、セラーナとエルフ族は神々の失われた武器に関する記述を見つけた。

それをもとに、世界中で失われた遺物の捜索が始まった。

失われた古代文明の遺跡や、普段は立ち寄ることのない魔境など、世界中の者たちの決死の捜索もあり、五つの武器は無事、ハンノ=イヴリスに向けて送り出された。


クロヴェイル、リクター、ゼル、ミランダ、ユグルタは届けられた、懐かしき自分たちの武器を見る。


クロヴェイルは強い輝きを放つ、黄金色の神剣を見る。その名はガラティン。あらゆる闇を照らし、焼き払う最強の剣。

リクターが握るのは、半透明の大槍。先端は三つ又になっている。名をミトスハイアー。

ゼルが握るのは、装飾がされた反りのある剣。エノラの持つ刀とも似ているそれは、宝剣カルサイト。

ミランダが構えるのは、長い柄の槍斧。ミランダ以外には重くてとても持てないそれをミランダは軽々と操る。名をヴァルキューラ。

ユグルタが構えるのは、二本一組のサーベル。柄の部分で連結することも可能である。クラウデッド、と言う名で知られる気候の神の武器である。


それぞれ懐かしき自分たちの武器を握り、感触を確かめるように振る。

長らく触っていないと言っても、魂が憶えているのだろう。彼らはまるで自分の身体のようにそれを熟知していて、使いこなした。


「問題は、なさそうだな」


タムズの問いに、ユグルタは頷く。


「タムズ、あとで少しばかり付き合ってくれないか。腕がなまっていないか、確認したい」


「いいだろう。お相手する」


ニヤリと笑うユグルタにそう返したタムズは自身の背中に背負った大鎌を撫で、自信を持っていう。

ミランダとリクターは早速、近くにある訓練場で手合わせをしているらしい。

ゼルも先ほどから感触を確かめるように剣を振っている。


「お前はいいのか、クロヴェイル」


アンセルムスはじっと剣を持ったままのクロヴェイルを見て言う。


「なんだ、お前が相手してくれるのか?」


そう言うクロヴェイルに、アンセルムスは冗談言うな、とため息をつく。

神であった頃は互角の腕であったが、アンセルムスとクロヴェイルの今の状態では話にならない。神殺しの刃による補助があったとしても、クロヴェイルには敵いはしないことをアンセルムスはよくわかっていた。

クロヴェイルはそうだな、と寂しげに笑う。


「それよりも、決戦の用意はだいぶ進んでいる。近々、決断の時が来るぞ」


「そうだな」


次第に戦いの準備は進んでいる。

『神』の軍勢が蠢くのを、クローリエやセラーナたちは感じており、日々それが強まっている、とも言っている。

早急に決着をつけなければ、手遅れになる。

武器がそろい、人も資材もそろった今こそ、敵を討つ最大の好機である。


「結構は、一週間後だ。それ以上は待てない」


アンセルムスが言うと、クロヴェイルは真剣な顔でうなずく。


「わかった。各国にも伝えよう。魔神たちにも連絡を」


「それは俺の方でさせよう」


アンセルムスはそう言い、背を向ける。


「どこへ行く?」


「俺にも、準備は必要なのさ、クロヴェイル。いろいろとな」


そう言い、手をひらひら振ってアンセルムスは歩き去っていった。





ミアベルは訪れていたダラス少将の屋敷から出て、イスカンブールの街々を歩いていた。

街の中には人間のほかにも魔族もちらほらといる。

世界が少しずつ動いているのを実感する。

今はまだ、『神』という存在のせいで武器を持たざるを得ないし、それ以外はおろそかになりがちだが、全てが終われば、世界は少しずつ、互いを理解し優しい世界に向かっていけるだろう。

それは、難しいことだし、完全に理解しあえることはないだろう。

それでも、そう言う世界になっていってほしい、と思う。

そのためにも、ミアベルは持てる力をすべて出して、偽りの神を討つ覚悟をしていた。

そんなミアベルがふとある人物を見つけた。


「アンセルムス」


その人物の名を呟くと、そちらも気づいたのか、少女を見る。相変わらず不愛想な顔であり、普通にしていれば放っておく女子はいないのに、と思わせる。

アンセルムスは虹色の髪の少女を見ると、そちらに歩いていく。


「何をしている、こんなところで」


「少し、ダラス少将のところに」


世話になったダラスの名を出され、なるほどな、とアンセルムスは頷く。


「そうか」


「そう言うアンセルムスこそ、何しているのさ」


アンセルムスは一部の物からは未だ信用されていないし、その人相の悪さで人々からもいい印象を持たれていない。それを自身も知っているからか、街にはそうそう出ることはないはず、なのだが。



「別に。ただ、戦いの前に、世界を見ておこうと思ってな」


イスカンブールを皮切りに、一週間で見て回れる場所は回りたいのだと青年は言う。

自分がもたらした混乱。それがもたらした破壊と、その中で再生のために動く人々の姿を刻み込むために、と。

いくら神によって踊らされたとはいえ、これをもたらしたのはアンセルムスなのだ。彼は、普段は顔に出さないが、そのことを悔いていたし、贖罪の意識にさいなまれていた。

ミアベルも、仲間の神々もそれは知っていた。けれど、その心を完全に理解することはできない。


「アンセルムス」


「すべてが終わったら、俺もけじめをつけなければな」


「まさか、死ぬつもり?」


その言葉に不穏な雰囲気を感じ、ミアベルが問うと、いいや、と首を振るアンセルムス。


「死んで赦される、なんて甘い考えは持っちゃいないさ」


そう言った黒曜の瞳は、言いえぬ悲しみを湛えていた。


「それでも、俺は・・・・・・・・・・・・・・・・」


そう言ったアンセルムスは、続くはずの言葉を飲み込むと、何でもない、と首を振り、ミアベルに背を向けて歩き出した。

孤独な13番目の神の心境を、ミアベルが理解できることはなかった。




アンセルムスはそれから一週間、世界を巡って旅をした。

リナリーによって作り出された黒い巨鳥。それにアンセルムスはシャンクシーションクの身を伴い、世界を見て回った。

イヴリス大陸では魔族と人間、またはエルフたちが共同で村や町の再興を行っていた。いがみ合いもまだあるようだが、すぐに争いなどには発展してはいないようだった。

閉鎖的だったパラメスも、同大陸の国家群と交流するようになったようだ。一部の魔族がパラメスに移り住み、パラメスの守護をしているらしい。

ファムファート大陸。

指導者ゼルはイスカンブール滞在中でも水晶玉による通信でいろいろと政策を実施しているようで、国の体制づくりで国内は大忙し、と言う様子である。

バラル帝国とも関係は良好であるらしい。

バラル帝国は長年の敵であるアクスウォード、セアノと現在停戦協議中である。本格的な停戦は決戦後になるだろうが、これで長きにわたるいがみ合いも終わるのであろう。

ラカークン大陸では、滅びた魔族国の者たちが再び国を再興するために戻ってきている。その中にはイヴリス大陸からきた魔族や復興のために送り出されたグラウキエの人間やセアノ、アクスウォードの人間たちもいた。

荒廃した大地は、再び国を作れるのか、と言うありさまだが、そこにヒトと希望があるのなら、いつか復興もできるであろう。

グラウキエ大宗主国は、大宗主不在の現在、アルミオン大宗主代行により治められている。

反逆の罪にあったレグナも、先の戦いでの功績が認められ、条件付きの釈放をされている。さすがの彼ももうそう言ったことは考えていないようで、決戦に向けた準備に汗水たらしていた。


大まかにだが、世界を見て回ったアンセルムスは、希望というものを改めて実感した。

人は愚かだ。異なるものを恐れ、迫害し、差別し、時には滅ぼしてしまう醜さがある。

それでも、他者を理解し、助け合う心も持っているのだ。

それを、彼は忘れていたのかもしれない。

憎しみにだけ囚われていたアンセルムスは、そういった人の強さから、目を背けていた。


「世界は、美しいな」


空の上より見た夕日。アンセルムスの言葉に、シャンクシーションクは同意するように頷いた。

あれほど光のない、絶望にだけ染まっていたはずの世界は、こんなにも明るく希望に満ちていた。

壊そうとした世界を、守りたい、と思った。


巨鳥は飛んでいく。決戦の地に向かって。



世界中が、おそらくこの世界で最後になるであろう戦争に備え、動き始める。

中央大陸オリュン山。

果てしなき輪廻の終末をもたらす為に。

それぞれが決意を胸に、朝日を見る。




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