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魔神たち

リナリーは大宗主の滞在するイスカンブールのレアレス教会に向かった。

女神レアの魂を持つ娘を大宗主は出迎える。

その隣には、かつては魔神であったルルベリアーが静かに微笑んでいる。彼女もリナリーがどういう存在家は聞いていたために、変な勘繰りや嫉妬はせずに少女と大宗主が抱擁するのを見ていた。


「それでロイ、改めて話したいこと、って?」


「ええ」


そう言い、大宗主はルルベリア―を見る。そして、ルルーは口を開く。


「世界の危機に際して、私たちにも協力させてください」


ルルーの言葉に、リナリーは口を開く。


「・・・・・・・・・・ええ、そうね。あなたたちの助けが必要だわ。本当は、そのことも話そうと思ってきたのよ」


せっかく通じ合えた二人にこういう話をするのは気がひけて、今まで言えなかった。それを二人の法から言わせてしまうとは、とリナリーは顔を曇らせる。


「そんな顔をしないでください」


大宗主はそう言い、リナリーを見る。


「これも、私たちで選んだことです」


ロイとルルーはを討言い、笑って見せた。


「ありがとう」


水色の髪の少女はそう言い、静かに頭を下げた。






魔神ハーイアはかつて失った自身の翼を得て、オリュン山の前に広がる霧の山脈のかつて転生の魔女が暮らしていた家で静養をしていた。

その二人のもとには、ユグルタがいた。

ユグルタがこの場にいるのは、迫る最終決戦における協力を頼むためであった。

妻を寝台で休ませると、ハーイアはユグルタを見て、その頼みを了承した。


「『神』には借りがある。それを返させてもらう」


そう言った魔神ハーイアの瞳の輝きに、思わずユグルタは腰が引けた。


「我が翼を奪ったことを、後悔させてやろう」


そう言い、八対の翼を広げた魔神。天を睨む魔神は、寝台に眠る妻の様子を見に、ユグルタの前を辞した。




イヴリス大陸の地中深く。

巨大なその空間には大きな玉座がポツンとあり、そこには獅子頭の魔神がどっしりと構えて自身の居城にやってきた魚人族の青年を見る。


「まったく、キュレイアもハーイアも急に腑抜けおったし、あの低級魔神どもも運動にもなりはせん。で、何用だ?」


リクターを見る獅子頭の魔神の視線を受けて、微動だにせずリクターは口を開く。


「『神』との戦いに、力を貸してほしい」


「ふん。我に助力を請う、か。神々と言えども、所詮は我らとは変わらぬ、ということか」


ハウシュマリアはそう言い、獰猛に笑う。


「我がおぬしらに力を貸す義理も義務もないというのに、手を貸すと思うか」


戦闘狂であるハウシュマリアにとって、大事なものは戦いのみ。それ以外のことは、興味はない。


「『神』が死んだあとの世界で、果たして我が望む闘争はあるのか?」


「望みならば、我らが相手をしてやるぞ、『凶星』」


そう言った魚人族の青年をじろりと見て、不吉な笑みを浮かべるハウシュマリア。


「その言葉、忘れるなよ?」


その言葉は了承した、と言うことであろう。リクターは踵を返し、ハウシュマリアの居城を去る。魚人族の青年の背中を、ニヤニヤ笑いハウシュマリアは静かに近くにあった黄金の盃を掴むと、中に入っていた酒ごと盃を口に放り込んだ。






ラカークン大陸。

深い森の中をミアベルは彷徨う。

剣聖剣を腰に差し、バイザーで目を覆った彼女は、額の汗をぬぐい、周囲を見る。


「確か、この辺のはず」


そう思い、バイザーを取り周囲を見る。

そして、見つける。


「・・・・・・・・・・・・・・ここだ」


一つの大樹の根元にしゃがみ込み、ミアベルはそこをつぅ、となぞる。すると、そこのわずかな時空の切れ目が広がり、人一人はいれるだけの空間の歪が現れる。

変わっていない、か。

ミアベルはそう息をつくと、その空間の中に入っていく。


時空の歪の中は時間が止まり、何もかもが静止している世界であった。

生命は存在せず、時が止まったそこには大きな城が一つ、存在していた。

かつて、ラカークン大陸に存在したアノガイール王国。

そのアノガイール王国の王都に存在した、悠然とした城は、ところどころ壊れてはいたが、未だその輝きを失ってはいない。

ミアベルは城門を超え、中に入る。

中には人は独りもいなければ、時が止まったままになっている。永遠の時の城。

その中を歩き回るミアベル。彼女が捜す人物がいるとすれば、それは城の玉座はない。

城を歩き回り、城の中央にある庭園を見たミアベルは目的の人物を見つける。

そして、ミアベルは走り出した。

階段を下りて、急ぎ足で走り、庭園にやってきたミアベル。そんな彼女の前に、探し人はいた。


「レヴィア=ツィリア・・・・・・・・・・・!」


個々とは違う世界ではミアベルの師であり、もう一人の母であった魔神。

騎士の礼服に身を包み、剣聖剣を腰に下げた金髪の女性。庭園に咲き誇り、時の止まった噴水に腰掛けていた女性はミアベルを見ると立ち上がる。

剣聖と呼ばれた魔神は、そうして静かに虹色の輝きを放つ髪の少女を見る。そして、その目がミアベルの持つ剣聖剣に映る。


「ようこそ、ミアベル=ツィリア。『剣聖』を名乗る少女よ。待っていた」


そう言い、レヴィア=ツィリアはミアベルを見る。


「なるほど、確かにそれは剣聖剣に間違いないようだ。唯一無二の剣聖剣が二つある、そしてツィリアを名乗る。この二つの結び付ける真実は、一つ、か」


「レヴィア=ツィリア」


口を開くミアベルを制するレヴィア。


「あなたにとって、私が何であったのか。それは言わなくていい。ただ、見極めさせてくれ」


剣を抜き、レヴィア=ツィリアは強い輝きを放つ目で少女を見る。


「お前が剣聖を名乗るにふさわしいか、私の力を貸すにふさわしい人物であるかどうか、を」


そう言った魔神を見て、レヴィアは剣聖剣を抜く。こうなる気はしていた。

剣と剣を交えれば、全てわかる。そう言っている気がした。


「わかりました」


剣を構え、レヴィアをまっすぐに見るミアベル。

僅かににらみ合った後、二人の剣聖は動き出す。

二人の振り下ろした剣聖剣がぶつかり合い、火花を散らす。

ミアベルとレヴィアが同じタイミングで離れ、再び剣を構えたかと思うと、地を蹴って切りかかる。

ミアベルはフェイントを入れ、わずかに剣の軌道を変える。普通ならば気付かないそれを、レヴィアは目ざとく察知し剣をくい、と構えて剣先を弾いた。

力強くはじかれたミアベルは、体勢を立て直す。が、それを赦さずレヴィアは追撃をする。

次々と襲い掛かる剣戟を受け止めるミアベル。


「なるほど、私の動きを熟知している。そればかりか、ツィリア流の剣技をよく身に着けている」


剣聖レヴィアはそう言い、笑う。


「ここまで私と剣を交えた相手となると、ここ百年余りはいなかった」


「そりゃあ、毎日のように鍛えられましたからね、あなたに!」


そう言い、ミアベルは押し迫ったレヴィアの剣を受け流し、剣聖剣を振り上げる。剣がレヴィアの前髪を少し切り落とした。

レヴィアは右手だけで持っていた剣を両手で持つと、ミアベルに切りかかる。受け止めたミアベルを、剣の衝撃が襲い掛かる。魔力のこもった一撃で、全身がしびれあがる。


「・・・・・・・・・・・つぅ!」


ミアベルに教えていたころとは違い、レヴィアは容赦なく切りかかってくる。本気で手合わせをしたことがなかったミアベルは、改めて師の、最強の剣聖の強さを思い知る。

それでも。


「はぁ!」


「く、ぅ・・・・・・・・・・?!」


ミアベルの振るった剣を受け止めたレヴィア。だが、力で押し負ける。

よろめいたレヴィアを、ミアベルの剣が降りかかる。

それを受け止めるレヴィアだが、次第に速さを増していくその剣を受け止めることに精いっぱいで、攻めに転じることができない。

レヴィアはバイザーの奥で光る瞳を見る。強い輝き、意志の強さ。それが、ミアベルを突き動かしている。


「・・・・・・・・・・・・・・・!」


そして。


ミアベルの剣聖剣の、渾身の一撃が魔神レヴィアの剣聖剣を突き飛ばし、地に突き刺さる。

剣を失ったレヴィア=ツィリアの首元に剣聖剣を突き立てるミアベル。肩で息をしながらも、魔神を見つめる少女の目の輝きは、さらに強さを増している。

魔神は自身が負けた、と言うことを悟ると、フ、と笑い、少女を見る。


「見事だ、ミアベル=ツィリア」


ミアベルは剣聖剣を下ろし、師を見る。

その死の顔を見ていると、不思議と涙がこみ上げてくる。

彼女はミアベルの知る師ではない。それでも。

ミアベルは母親に甘えるように魔神の胸元に抱きついた。魔神はなく少女の髪を静かに撫でた。


「ミアベル、あなたのような立派な騎士を育て上げたのは、ここにいる私ではないが、きっと、『私』はあなたのことを誇りに思っているだろう」


魔神はそう言い、ミアベルを見る。彼女の持つ剣聖剣を撫でる。激しい戦いで、レヴィアの持つ剣聖剣よりも幾分汚れているそれは、壮絶な戦いを想像させる。


「切り開きなさい、未来を、あなたが望む明日を。そのために、微力ながら私も力を貸そう」


レヴィア=ツィリアはそう言い、その顔に笑みを浮かべた。

そんな顔を見て、またミアベルの目から涙が零れた。


「騎士たるもの、そうそう泣くんじゃありません。泣くのは、全てが終わってからにしなさい」


そう言う優しい声音は、ミアベルの聞いてきた師の物と変わらない。

彼女の知るレヴィア=ツィリアでなくとも、彼女は間違いなくレヴィア=ツィリアなのだ。


「はい・・・・・・・・・・・・・・・!」


「さ、ミアベル=ツィリア。次なる剣聖よ、行きなさい。あなたには、するべきことがまだあるでしょう?」


安心しなさい、とレヴィアは笑う。最後の戦いには、必ず駆けつけます、と。


「戦場で会いましょう、ミアベル」


そう言い、ミアベルを送り出したレヴィアは、少女の背が見えなくなり、この次元からいなくなったことを確認すると、呟いた。


「そこに、いるんだろう、ジャヒーリア」


そう言い、後ろを振り返る。時の止まった庭園の、薔薇の咲き誇る底には、紅いドレスの女が一人、立っていた。


「あら、気づいた?」


「勿論。ここは、私の世界だからな」


「そう、ね」


そう言ったジャヒーリアを見て、レヴィアは言う。


「あなたには、感謝している。もう一度、あの娘に遭わせてくれて」


そう言うレヴィアの頭に浮かぶのは、ミアベルとの幸せの記憶。

滅びゆく世界で、目を閉じたレヴィアが目覚めた時、彼女はもう一度、同じ時を繰り返していた。

そして、また、ミアベルを見た。

それをもたらしてくれた、『絶界』のジャヒーリア。


「あなたの目的は、なんなの、ジャヒーリア」


「別に。私はただ、終わらせたいだけ。それだけよ」


「・・・・・・・・・・・」


「長く観察者なんてやっていると、飽きてくるものなのよ。この世界に干渉しない。そう言われても、手を出さずにはいられない。そう思ってしまったの」


だから、あなたやミアベルに力を貸すのよ。そう言った紅い髪の女は、レヴィアを見る。


「でも、私の干渉もここまでね。ここにいるのは、ジャヒーリアという観察者の残滓。本体はもう、『神』によって滅せられたからね」


「ジャヒーリア」


哀しげな顔をしたレヴィアに、女は妖艶な笑みを浮かべる。


「哀しい顔をしないで。私は死ぬわけではないの、還るだけ。自分の元いた世界へ」


そう言い、ジャヒーリアはレヴィアの頬を撫でる。


「私にできることはもうない。けれど、あなたたちの世界の未来が幸福であることを、祈っているわ」


あら、と魔神ジャヒーリアが自分の身体を見る。だんだん色を失い、空気に溶けていく魔神の身体。魔力の輝きに消え、足元から消えていく。


「・・・・・・・・・・・・・フフ、思えば、いろいろな思い出がこの世界にはある。名残惜しさすら、感じてしまう。ああ、まったく」


「ジャヒーリア!」


「レヴィア、あなたも戦いが終わったらいい加減、女の幸せを見つけていいんじゃないかしら?キュレイアや、ハーイアが愛に生きるように」


最期にそう言い、じゃあね、と手を振った女魔神。その姿が、一瞬で消え去り、周囲の魔力と同化する。

還っていった女魔神。

レヴィアはふと、ジャヒーリアのいた場所に何かが落ちているのを見つけた。

それは、一輪の薔薇であった。

いつか、女魔神が好きな花だ、と言っていたそれを拾い上げ、レヴィアは彼女がいた場所に膝をつき、しばらく動かなかった。

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