表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
追い求めるは理想と未来、捨て去るは過去と宿命
79/88

そして、神は夢を見る

光に包まれ、ミアベルが目を開けると、そこにはただ暗闇があり、その中央にはぽつんと一つの玉座があった。孤独な王の座るそこにいるのは、黒髪黒目の青年。


「アンセルムス・・・・・・・・・・・・」


その人物の名を呟き、バイザーの少女は呟いた。彼女の伯父であり、この世界に混乱をもたらそうとしたものであり、そしてかつては神であった男。神のころの記憶も、何もかもを奪われ、この理不尽な輪廻、神の手に縛られ続ける、哀れなひと。

ミアベルはこの世界に来た当初持っていた憎しみだけではない、別の感情で彼を見ていた。

孤独な彼の姿は、ひどく寂しげに見えた。

自分たちで作り出した世界を、己の手で壊し、そしてそうなってから気づく。何度も死を選び、懺悔を繰り返し、そして再び憎しみとともに世界を壊す。

そんな悲しい輪廻を断ち切る。それが、ミアベルの役目。

手に持った剣聖剣を強く握りしめる。


「ついに、ここまで来たか、イレギュラー・・・・・・・・・・・ミアベル・ツィリア」


アンセルムスが口を開く。静かな声には、隠し切れない苛立ちが見える。それもそうだろう、ミアベルの登場で彼のシナリオは破たんしたのだから。


「アンセルムス、あなたを止めに来ました」


「ふん、俺を止める、か。なるほどな」


アンセルムスはそう言うと、ミアベルを見る。


「何が貴様をそうまでさせる?そんなにも死ぬ気になって守りたいと思うほど、この世界は立派なものか?」


アンセルムスが虹色の輝きを放つ少女を見て語りかける。だが、彼の目は彼女を見てはいない。

遥か、遥か虚空を見ていた。


「夢は儚く散っていき、希望は絶望に変わる。持たざる者は、力なき弱者は虐げられ、一部の強者が世界を支配する。だが、それすらも、時の流れには敵わない。世界は残酷だ」


「だから、あなたがそれを壊す、と」


「そうだ。この世界の絶望を、理不尽を知る者にこそ、この世界を壊す権利が与えられる。俺が、あらゆる救われなかった魂のために、このクソッタレな世界を壊す。そう、決めた。そして、多くの命を踏みにじり、俺はここまでやってきた」


そう言い、アンセルムスは立ち上がり、自身の腰にあった『魔神殺しの刃』、否、『神殺しの刃』を抜いた。


「全てを捨てた。見捨てた」


右手の中の、冷たい指輪。色あせてなお、輝く幸福の記憶。それが、アンセルムスを突き動かす。


「俺は、俺を受け入れてくれた人のためにも、この世界を壊し、死んでいった彼女たちが生まれ変わった時、再び苦しむことのない楽園を作る」


「そんなこと、不可能だ」


ミアベルが言う。アンセルムスはクツクツと笑う。


「だろうな。俺もそう思うさ。だが、それでも、何もしないでいるよりも行動を起こした方がいい。世界は停滞したまま、緩やかに荒廃していく。それならば、いっそ、おれが壊してやる」


「それすらも、あなたの憎む『神』の思うままだと、なぜ気づかない!」


「神、だと?たとえ神であろうとも、この俺を止めることはできない」


「その髪に操られて、あなたが何度、世界を壊し、そして悔いてきたのかを、あなたは忘れてしまっているんだ!」


叫ぶミアベル。そんな少女の言葉を戯言と一笑に付し、アンセルムスは神殺しの刃を構える。


「剣を抜け、ミアベル=ツィリア。剣でもって決着をつけるべきだ」


「・・・・・・・・・・・・」


ミアベルは剣聖剣を構える。


「あなたは、哀しい人だ」


「ふん。哀しい、か。憐れんでいるのか、小娘」


アンセルムスが剣を振り、ミアベルに向かう。そして、刃を振り上げる。ミアベルはそれを難なく受け止める。

アンセルムスに才能はない。どれだけの努力を積み重ねたところで、彼には才能がなかったのだ。

事実、彼の剣戟は悉くミアベルの前に防がれている。

圧倒的な壁。それが、いつだって彼の前に立ちはだかり、拒絶する。

子どもの頃の絶望。逃げ出しても、逃げ出せない現実。

あの記憶は、忘れることはできない。


「お前には、わかるまい。俺のこの想いを!」


つばぜり合いをし、押し負け、後ろにふらつくアンセルムスが言う。

ミアベルは剣を構え、そこから動かない。


「貴様のその目は、その自信は、思いは!すべて貴様が愛された記憶があるからだ!」


「・・・・・・・・・・・アンセルムス」


「誰も、おれに手を差し伸べない!俺は、世界に拒まれた!愛されることも赦されない、祝福されぬ者!」


神殺しの刃を振り上げるアンセルムス。がむしゃらにただただ、攻撃する彼の目には、絶望だけが浮かんでいた。

絶望。それに囚われた哀れなひと。

その絶望を、終わらせよう。

ミアベルは剣聖剣を持つ手に力を込める。

そして、アンセルムスの手から神殺しの刃を弾き飛ばした。

宙に浮きあがり、剣は床に突き刺さる。

何も手に持たないアンセルムスは、諦めたように笑う。


「ふ、ふはははあははあはああはははは・・・・・・・・・・・これが、俺の最期か」


なるほど、俺にふさわしい最期だ。そう笑うアンセルムス。両手を広げ、挑発するようにミアベルを見る。


「殺せ。俺は、敗者だ。生き恥をさらすつもりなどない。俺は、俺の意志を変えない」


「・・・・・・・・・・・・」


ミアベルは黙って、剣聖剣を構え、アンセルムスに向かう。

このまま、彼の命を絶つことで、何が変わるというのだろうか。

そして、彼は救われるのだろうか。

違う。

そしてまた、繰り返すだけだ。哀しみを、絶望を。

彼の絶望を終わらせるのは、剣でもなければ、彼の命でもない。


「そう、もっと早く、こうするべきだった」


剣を振り上げたミアベルを見て、アンセルムスは静かに訪れる死を待つ。両目を閉じ、今にも来る最後の痛みを受け止めようと。

だが。


「・・・・・・・・・・・・・・・!!」


剣聖剣は、床に突き刺さり。

虹色の神の少女の腕は、アンセルムスをそっと包み込んだ。

彼女は、青年の胸に顔をうずめるように、強く、強く彼を抱きしめる。


「何の、つもりだ・・・・・・・・・・?」


アンセルムスが怒りを込めた声で言う。


「憐れみなど、いらぬ!俺は・・・・・・・・・・・・・」


そう言いながらも、アンセルムスの目には涙が浮かんでいた。

その温もりを、確かに感じていた。

冷たい男の身体を、ミアベルは抱きしめる。


「もう、終わりにしましょう。アンセルムス」


そして彼女はスキルを発動する。

アンセルムスの心臓のあたりを触れる。


「なにを・・・・・・・・・・・・・・」


「魂に施されし、封印を解き放て」


ミアベルの目が輝き、スキルが発動する。

ミアベルのスキル『万華鏡カレイドスコープ』。それまで触れた人物のスキルを、最大七つまでストック可能なスキル。一度使用したスキルは失われ、次のストックが可能になる。

ここに向かう前に、セラーナのスキルを得ていたミアベル。何かの役に立つ、とリナリーが言っていたために、これをストックしていた。

その意味が、やっとわかった。

リナリーにもわかっていたのだ。彼が、全ての現況ではないことを。


「思い出して、アンセルムス」


そして、この絶望を終わらせよう。

まばゆい光の中、アンセルムスは見る。



遠い、遠い約束の記憶を。







幾千、幾万という星の海で。

彼ら十三人は、そこにいた。

いつからそこにいるか、よくはわからない。けれど、いつだって彼らは仲間であった。

13人は、ただただ笑いあえる世界がほしかった。

だから、そんな世界を作ろうとした。

記憶のない自分たちの中にある、微かな幸福の記憶。

争いのない、苦しみのない、優しい世界。

きっと、前に自分たちがいた世界はそうではなかったのだろう。

絶望に溢れた世界。そこが、自分たちの本来いた世界。

でも、そんな世界は、間違っている。

だから。


「俺たちがそんな世界を作ろう」


言い出したのは、アンセルムスであった。

親友たちは、そんな彼の提案に賛成し。

星の海に誓った。


そうやって、世界を作り出してからも、度々、野に寝転がり星を見た。


どうして、忘れていたのだろうか。


こんなにも、こんなにも大事で。

暖かい記憶を。



思い浮かぶのは、『神』を名乗る異物の記憶。

彼の登場で、世界の均衡は崩れた。

そして、その中で彼は反逆者となり、仲間たちと戦った。


そして敗れたアンセルムスと神々は、影によって呪われた輪廻、繰り返される悲劇に叩き込まれ。


何千、何万もの過ちと、悲劇と、死を繰り返した。





『ナターシャ』


『エノラ、君だけは俺のことを・・・・・・・・・・・いや、なんでもない』


『最期までともにいると言ったのにな、結局お前もいくのか』


『そうさ、尻尾を巻いて逃げろ、英雄サマ!いつかその首を俺が獲る日まで、精々首を洗っていろ』


『そうか、俺は』




『遅かったな、クロヴェイル』


『アンセルムスゥ――――――――――!!』



死。

繰り返す、世界。



ああ、

全てを思い出した。






「俺は・・・・・・・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・・・・・・」


13番目の神は、静かに頬を濡らす。


「アンセルムス、あなたは独りじゃないんだ」


ミアベルが言う。


「終わらせよう、この戦いを。これ以上、もう繰り返さないために」


そして、作ろう。

あなたが目指した、本当の世界を。

取り戻そう、私たちの世界を。あるべき姿を。


「できるだろうか、俺に。俺にはもう、そう願うことすら許されないのでは?」


そんな男の言葉に、ミアベルは笑う。

そして、ある言葉を彼に送る。


「生きている限り、遅いなんてことはないよ。あなたがあきらめない限り・・・・・・・・・・・・もう、あなたは独りじゃないんだから」


「・・・・・・・・・・・・ああ、そうだな」


多くの想いがあった。

絶望と同じだけの、希望があった。

気付かなかっただけで、アンセルムスを愛してくれる人はいたのだ。

もう、絶望は終わりにしよう。

過去も、クソッタレな宿命も、捨て去ろう。

この手から零れてしまった光を、今こそ。


この悪意も、そして真実も受け止めよう。

そして、星空に誓った約束を果たそう。




追い求めるは理想と未来あす

宿命も、過去も、もう、いらない。






『アンセルムスよ』


二人の耳に響く声。それは、ミアベルも聞いたあの、『神』を名乗る者の声。


「『神』か」


虚空を睨むアンセルムス。その目に宿るのは、悲しみでも憎しみでも絶望でもない。

取り戻した希望で、その黒曜の瞳は強く強く輝いていた。


「もう、俺は貴様の手で踊りはしない。俺は、俺たちの世界を取り戻す。今度こそな」


『できるものか、穢れた13番目よ。だが、いいだろう。我に刃向い、そして、次こそは永遠に逃げることのできない絶望に叩き落としてやろう。そこの小娘ともども』


ミアベルが虚空を睨む。


『まさか、神々が輪廻を終わらせるために、このようなことをするとは想定外であった。だが、それも今回のみ』


「お前に、私の想いを、皆の願いを壊させはしない!」


『哀れな虫けらよ、その希望を絶望に変えてやろう。近いうちにな』


精々足掻くがいい、愚かな虫けらよ。

そう言い、『神』の気配は消えていった。


ミアベルはアンセルムスを見る。


「アンセルムス、戦いを」


「そうだな、もう、この戦いに、意味はない」


アンセルムスはそう言うと、玉座に向かい、言う。


『全軍、停止せよ』


その瞬間、世界中の帝王の軍勢が動きを止めた。

そしてアンセルムスは神殺しの刃を持つと、玉座を斬った。

玉座の裏にあった空間には、魔神トラキアの脳があった。

トラキアの脳とつながった世界蛇。それによって動く軍勢。

それが、トラキアの脳を斬ったことで、崩壊し始める。


「すまなかったな、トラキア。安らかに、オケアノスで眠れ」


そう言い、アンセルムスはミアベルを見る。


「行こう」


そう言い、ミアベルの腰を掴むと、神殺しの刃を振る。

空間が歪む。

そして、二人はそこをくぐった。



ハンノ=イヴリス首都イスカンブール。

そこの郊外に出てきたアンセルムスとミアベル。


「これから、どうするの?」


ミアベルの言葉に、アンセルムスは空を見る。


「偽りの神を討ち、世界を取り戻す」



こんな残酷な現実を作り出した神を、認めるわけにはいかない。


贖罪の神は、朝日を見ながら言った。




明けない夜はない。

暗闇の中には、常に光がある。

手を伸ばせば、それはそこにある。



アンセルムスの手を、ミアベルが握る。

その手を、強く握り返すアンセルムス。




(第二部・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ