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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
追い求めるは理想と未来、捨て去るは過去と宿命
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神々の戦い

翼をもつ女魔神は、ろくに攻撃らしい攻撃はせず、三人の攻撃を避ける。笑みを浮かべ、時折細い声が不気味な笑い声を上げる。

クロヴェイルとミランダ、それにユグルタの連携もこの魔神は軽々と避けて、何事もなかったかのようにそこに立っている。

体力の消費を感じている三人に対し、余裕の笑みともとれる口元の魔神。


「・・・・・・・・・厄介ですね、まさか、これほどとは」


クロヴェイルが剣を手に汗を拭き、言う。彼の両隣のユグルタもミランダも汗を垂らしており、荒い息で武器を構えている。とはいえ、その武器は知らぬうちに刃こぼれしていた。避けているようで、気づかぬうちに魔神の攻撃を受けていたのかもしれない。


「どうする、このままでは・・・・・・・・・・・・・」


埒が明かない、そう言いかけたユグルタに頷いくクロヴェイル。クロヴェイルとて、それはわかっている。だが、こいつを放っておくことはできない。

アンセルムスの差し金か、それとも神のいたずらか。どちらにせよ、厄介な存在だ。

そんな風にクロヴェイルらが武器を構えにらみ合っていると、ふと空で何かが光った、様な気がした。

そして、何かがこちらに向かって落ちてくる。


「避けろ!」


クロヴェイルが横のミランダを抱えて避ける。ユグルタもすぐに横に避ける。

閃光が女魔神を襲う。

衝撃波が三人を襲う。土埃が舞い、視界を土が覆う。

クロヴェイルは魔力で視界を覆う霧を払い、落ちて来たものを見る。


「・・・・・・・・・・・・魔神、ハーイア・・・・・・・・・・・・・・」


最強の魔神『堕天』のハーイアがそこに立っていた。

八対の剣のような翼に身を包んでいた。ハーイアが両腕を広げると、背中の翼も一斉に開き、その巨大な翼が光り輝き、その存在を誇示する。

なぜ、ハーイアがそこに、とクロヴェイルが思っていると、ハーイアの眼前にいて、翼で身を護っていた女魔神の様子が先ほどとは変わっていることに気づく。


(笑っていない・・・・・・・・・・)


口元から笑みは消え、ヴェールの奥の瞳は言いえぬ光を放っていた。


「まさか、再びこのような形で君に逢おうとはな。アミテリア」


「・・・・・・・・・・・・・」


ハーイアの言葉に答えない女魔神。


「言葉も、私のことすらも忘れた、か。なるほど」


ハーイアは一人納得すると、鋭い視線を天に向ける。


「『神』め」


「!!!」


女魔神が叫び、その翼を広げハーイアに向かう。

瞬時にハーイアの目前まで現れた魔神は、その鋭い血の付いた剣のように鋭い翼をハーイアに叩きつける。だが、ハーイアの翼がそれを阻む。そして、ハーイアもまた自身の翼をアミテリアに向ける。

魔力の障壁が数十枚展開し、ハーイアの翼を受け止め、その勢いを殺す。

そして、後ろに飛びのくと魔神アミテリアはハーイアに自身の羽を飛ばす。鋭いナイフのように鋭利なそれを八対の翼で叩き落しながら、ハーイアは接近していく。


「アミテリア」


「ハ、ァ、イ、アぁぁぁ」


呪詛を呟くように魔神は呟き、ハーイアの顔に向かって六枚の翼を叩き込む。そして、肩から生える六枚の翼とは別に、また六枚の翼が背中から生えだす。

それが鋭い剣となり、ハーイアの翼を貫く。


「アミテリアァ!!」


「あ、あ、あ・・・・・・・・・・・・・」


ニヤリと笑う魔神の被るヴェールをはぎ取るハーイア。その下にある女の顔は、確かに彼が愛し、失ったはずの女のものであった。猫のようなその瞳に敵意を宿らせ、ハーイアを睨む。

アミテリアの脚部から生えてきた腕のようなものがハーイアの無防備な脇腹に突き刺さる。

そして、その腕は無慈悲に彼の体内をかき回す。


「く、おぉ・・・・・・・・・・・・・」


ハーイアは呻きながらも、八対の翼計16枚の翼に力を込める。そして、拘束するアミテリアの12枚の翼を半ばから切り落とす。

血と羽が舞う中、ハーイアはアミテリアから逃れる。

だが、瞬時に再生した翼でハーイアを包み込もうとするアミテリア。

さらに、六枚の翼が彼女の背中の皮膚を突き破り生えてくる。そして、その身体はいびつに変化し始める。

下半身はまるで猫科の獣のように変化する。鋭い爪を持ち、脚は鳥類のそれ。最終的に72枚にまで増えた巨大な赤と白の翼、そして人間の顔と猫の目、竜の角のようなもの。尾は蛇になっており、毒の液を吐き出す。

異形の化け物と化したアミテリアを見て、ハーイアは呟く。


「我が妻を、よくもここまで・・・・・・・・・・・・・」


怒りを込めた瞳のハーイア。そんなハーイアは八対の翼を広げ、飛翔する。

そして、巨大なアミテリアに挑むが、そんな最強の魔神を蝿を落とすようにその手で叩きつける。大地に埋もれるハーイア。


「・・・・・・・・・・・・・!」


その戦いを、クロヴェイル達はただ見ているほかなかった。あまりにも次元の違いすぎる戦い。これは、人の身では戦えるものではない。

ハーイアは味方とは言えないが、敵でもない。もし、彼が負けることがあれば。

その時、クロヴェイルらが果たしてこの巨大な魔神に勝てるだろうか。

無理だろう。

そんなクロヴェイルの見る中、ハーイアは立ち上がる。八対の翼による斬撃を繰り出すも、その攻撃によるダメージは微々たるもの。魔神アミテリアの巨大な肉体には、その程度の傷なんともないものであるのだ。

アミテリアが大きな声で叫ぶ。すると、大地に転がる無数の敵の残骸が浮き上がり、それが魔力を帯びる。


「なんだ・・・・・・・・・・!?」


クロヴェイルらの前で、アミテリアの魔力によって力を得、強力な敵となって甦る軍勢。

ちぐはぐな姿の魔物。形容しがたきその姿を持つ者たちは、起き上がると人間と魔族、いやこの世界の行けるすべてを敵とみなし、攻撃を開始する。

クロヴェイルらも剣を構え、敵を迎え撃つ。だが。


「なんだ、この強さは・・・・・・・・・・!」


先ほどまで戦っていた雑魚とは桁外れであり、一体一体がまるで低級魔神並みの強さである。

並大抵の兵士では、ひとたまりもない。

そんな敵が何千といるのだ。


「冗談だろ?」


ユグルタが笑えない、と言う顔で言う。髪のないその頭の汗は冷や汗となり、顔は引きつっている。

ミランダは何も言わないが、ショックを隠しきれていない。

絶望的な状況だ。


「どういうことだ、これは」


「クィル・アルゲサス・・・・・・・・・・」


駆けつけて来たクィル一行を見て、クロヴェイルは魔神を指す。なお、魔神セウスは先の戦闘の傷もあり、今は戦闘域を離脱している。


「おそらく、アレの力だろう。おそらくだが、あれ一体一体が低級魔神並みの力を持つ」


「なんだと」


忌々しげにハーイアと戦う魔神アミテリアを見て、リクターはその顔を歪める。


「化け物、か。まさか神があんなもの隠していたとはな」


「なんだ、あれは」


そんなクロヴェイルらの話す中、新たな二人組が現れる。

紅い髪の少女と、彼女を抱える黒い鎧、二本の大鎌の少年。

その姿を見て、目を見開くクロヴェイル、リナリー、リクター、セラーナ。


「アテンシャ、ゲシュトゥ!?」


自分たちの名を呼ぶ四人を意味深に見る二人組。


「お前ら、誰だ?」


「・・・・・・・・・・・・そう、まだ、そこまでは思い出していないのね」


リナリーが呟く。セラーナが周囲を見る。この話を理解できないクィル、エノラ、ミランダ、ユグルタを。


「ちょうどいい機会だわ。セラーナ」


リナリーはそう言い、セラーナを見る。

セラーナは自身のスキルを発動させる。


「魂に施されし、封印されし記憶を今、呼び起さん・・・・・・・・・・・・・・!!」


自信を取り戻したセラーナのスキルは、その真の力を発揮する。

彼女の願いに答え、スキルが発動する。

戸惑うクィルら。

流れ込むのは、膨大な情報。


「なんだ、これは・・・・・・・・・・」


呟くクィル。

平等と夢の神、ゼレファフとしての記憶。妻である女神ニドラ。その転生体であるエノラとの間に子を授かった、と仲間たちと喜ぶ姿。記憶にないはずなのに、まるで体験したように。


「いや、体験したんだ、何度も」


同じことを経験しているのか、エノラもその黒い目に驚きを浮かべている。


「ミアベル・・・・・・・・・・・・・そう、あの子が・・・・・・・・・・・・・・・」


失われた魂の記憶。『前回』の記憶。それがエノラに舞い込む。


ユグルタ、ミアベル、タムズ、クローリエも、神としての記憶と何度も繰り返される輪廻の記憶を取り戻す。

そして、落ち着きを取り戻した彼らを見て、クロヴェイルは言う。


「大丈夫か?」


「あ、ああ」


代表してクィルは頷く。そして、き、と敵を見る。


「なるほどな。そう言うことだったんだな」


「釈然としねえな、まだ」


納得した様子のクィルとは違い、ユグルタはまだ何が何だかを理解できていないらしい。


「難しく考えるな、サノス。次第に慣れる」


「慣れたくねえなァ」


気候の神の転生体である男はそう言い、頭を掻く。


「・・・・・・・・・・・・・・・まさか、前回まであなたに殺されていたとは」


怨みがましく夫である太陽神ヴォ―ヴンを睨む女神ゼレチアの転生体。


「その話は後だ、ミランダ。それよりも」


「この状況を、どうするか、だな」


落ち着いた様子のタムズが言う。


「ああ。アレをどうするか、だ」


魔神の群れを指さすクロヴェイル。

神としての記憶を取り戻させたことで、一人一人の力は上がっている。それでも、彼らはまだ完全ではない。そして、敵はあまりにも多い。


「どうするか」


ハーイアと戦うアミテリアにまでたどり着くことすら難しそうだ。


「隕石でも降ってきて、あいつらだけでも巻き添えにしてはくれぬものか」


ユグルタがそう言った時。


「それは、我のことを言っているのかな」


その声は、神々の上から響いてきた。上を見上げた彼らの目に、月明かりに照らされた獅子の頭を持つ魔神が映る。

『凶星』ハウシュマリア。


どん、と舞い降りた魔神は、面白そうに顔を歪めて神々と魔神の群れを見る。


「ふん、久々面白そうな気配を感じて出て見れば、まったく・・・・・・・・・・・・・神の魂を持つ者に、ハーイア、それによくわからん魔神までいる」


クツクツと笑う魔神ハウシュマリア。


「これは、久々楽しめそうだ」


「ハウシュマリア、お前が勝手に戦うのは構わんが、俺らの邪魔はするな」


クロヴェイルの言葉に、心外だな、という顔をするハウシュマリア。


「我とて、ただ戦いに来たわけではない。その証拠に、ほれ」


空を指し示すハウシュマリア。

神々がそれを見ると、そこにはかの魔神が『凶星』と呼ばれる由縁が浮かんでいた。

巨大な質量の塊。宇宙から降り注ぐ、無慈悲なそれを、人は隕石と呼ぶ。

ハウシュマリアのスキル『星落とし』。隕石を召喚するスキルであり、広範囲に隕石を落とすことができる。召喚できる隕石は数、大きさを指定できる。帝王トラキアの軍勢を、一夜にして倒した、恐らく魔神の中でも最強最悪の性能を持つスキル。


「我は好き勝手にさせてもらうぞ。久々だからなあ、あの有象無象ども相手に腕試しさせてもらおう。その間に、別に貴様らが何をしようとも構わん。あの巨大なのを倒すなり、逃げるなり、な」


ニヤリと凶暴な笑みを浮かべる魔神。

クロヴェイルらは黙ってハウシュマリアを見る。答えは、決まっている。


「いい目だ。この戦いの後は、貴様らを相手にするのもまた、面白いかもな」


「冗談きついぜ」


ユグルタが呟いた。

頭上の隕石が分裂し、魔神たちの頭上に降り注ぐ。

巨大で、避けようもないその攻撃に、低級魔神たちは叩き潰される。

クロヴェイルらの前にいた数百の魔神が、一気に灰と化した。

その瞬間、走り出す神々。

それを見送ると、ハウシュマリアは鋭い爪で近くの低級魔神を引き裂く。


「はははあはははあははあはっ!!我は血に飢えておる、なにせ、何百年ぶりの戦ゆえな・・・・・・・・・・・・来るがいい、そして我が渇きを満たせぃ!!」





アミテリアに地に叩きつけられたハーイア。追撃を繰り出すアミテリアの前脚。

それを間に入り、ユグルタが二本の剣を構える。

そして、その攻撃を受け止めた。


「・・・・・・・・・・・・・・何の真似だ、神の魂を持つものよ」


「別に。ただ、お前に死なれてはこちらもきついのでな。こいつを追い払うためにも、共闘を、ってね」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


ハーイアは黙って立ち上がり、ユグルタの隣に飛ぶと彼の受け止めるアミテリアの皮膚を切り裂く。

アミテリアが奇声を上げる。


「よかろう。ともに戦うべきは同じと見た。ならば、少なくとも奴を倒し、我が妻を手にする時までは、協力してやろう」


「・・・・・・・・・・・だとよ」


ユグルタは今の会話を仲間たちに聞かせるとそう言う。


「なら、さっさとこいつを追い払うか」


「どうするつもりだ、神々よ」


ハーイアの問いに答えるのは、セラーナであった。


「いくら魔神といえども、限界はある。この魔神も例外ではない。これほどの膨大な魔力を、いつまでも供給はできない。ならば、その魔力を突き刺せるだけの一撃を浴びせかければいい」


つまり、セラーナはこう言っているのだ。

各自の最強武器を出し惜しみするな、と。


「よかろう」


ハーイアはそう言うと、それまでの時間稼ぎは任せる、と言い空中に浮かび上がる。

ハーイアと同時に、魔術の詠唱に入るセラーナとリナリー、クローリエ。

刀を構え、精神統一し始めるエノラ。

戦いながら、必殺への一撃をためるクロヴェイルら。

クィルは竜化を完全に開放する。神として目覚めた彼は、今では完全にスキルをコントロールできた。皮膚を紫色の鱗が覆いだし、身体が巨大化する。

そして。


『よいぞ』


ハーイアの声が、響いた。


「全員、放てぇ!!」


クロヴェイルの声が、合図となった。



「天の雷よ!魔を払い、光を導け!」


三人の女神の力が合わさり、星々の光が降り注ぐ。巨大なアミテリアの72の翼を焼き払い、他の物の攻撃を阻む翼を破壊する。


「はああああああああああああああああああっ!!!」


月の光を受けた二本の鎌は、巨大化しその二振りで、アミテリアの前脚を切断する。


「むぅん、むうん、はあ、たあ、やあぁあああああ!!!」


二本の剣を舞うように切り付け、拳、脚を叩き込むユグルタ。拳から放たれる闘気がアミテリアの肉体の神経を破壊する。


「!!!」


リクターの渾身の突進。一時的に光速をも超えた一撃が、尾についた蛇の頭を消し飛ばす。


「は!」


ミランダが高く跳びあがり、アミテリアの両目を細見で潰す。そして、その後ろからクロヴェイルが現れる。

光の魔力で包まれた剣を振り下ろし、アミテリアの首元から胸を切り裂く。

そして、竜化したクィルの容赦ない連続攻撃が、傷ついたアミテリアに叩きこまれる。

血しぶきを上げ、地に伏すアミテリア。

そして、そこにかの魔神の餞別なのか、隕石の破片が降りかかり、アミテリアの再生しようとした傷を防ぐ。


そして。


宇宙より高速で落ちた魔神ハーイアの八対の翼が、アミテリアの胸を貫いた。



魔神アミテリアは悲鳴を上げ、その巨大な肉体は消えた。

その消滅により、低級魔神の増殖が止まる。


土煙の中から、裸の女性を抱きかかえたハーイアが出てくる。頭に羽が生え、その腕には羽毛のようなものがついていた。

その顔には、狂気は浮かんでいない。


「アミテリア・・・・・・・・・・・・・・」


「あれはもう大丈夫、ってことか」


「おそらくな」


クィルの問いに、クロヴェイルが頷く。

神々とハーイアの攻撃で魔力を使い果たしたアミテリア。その瞬間に、ハーイアが彼女に宿る『神』のクロ魔力と彼女をうまく分離させたのだ。



残った低級魔神も、次々と魔神ハウシュマリアに殺されていく。



月が浮かんでいたはずの空は、いつの間にかなくなり、青々しい空が覗き始めていた。


「とりあえず、これで攻撃はひとまず、終わったな」


クィルはそう言うと、世界蛇のある方向を見る。


「あとは、ミアベルか」


「そうだな」


クロヴェイルは頷く。


「アンセルムス・・・・・・・・・・・・・・」



かつての友人の名を呼び、太陽の神は憂いを秘めた顔で遠くを眺めた。





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