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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
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灰塵の王国

アクスウォード王国。

第一王子、カッシートをはじめとした王族は、長年の宿敵バラルとの戦争において前線で指揮を執り、その勝利に貢献していた。

セアノとの合同軍は、バラルの軍隊を押していた。

帝国最大の剣であり盾であるラトナ騎士団は、ファムファート大陸の内戦で手が離せず、一方のアクスウォード・セアノは後ろを気にする必要がない。

これにより、総力戦を行っても、バラルのように後ろを気にする必要はない。魔族国なき今、愁いはない、とばかりにアクスウォードは戦争に集中していた。


第二王子ナウプリアモス、第四王子クラウシアスなど、優れた王族たちの活躍もあり、アクスウォードの快進撃は続く。

そんな中、カッシートを司令官とする王国軍にある報がもたらされる。


「なに、陛下が・・・・・・・・・・・?!」


カッシートの絶句が陣中に響く。

その報をもたらした兵士は、カッシートに頭を下げて出ていく。

絶句するカッシートに弟王子らが問う。


「兄上?」


「父上が、倒れられた」


兄王子の言葉に、弟王子らは絶句した。


「なんですと!?」


「この一大事に・・・・・・・・・・・」


国王も悲願であった対バラルとの戦争中にまさか、と陣中の将兵たちも思う。

このままの勢いならば、帝都オーフェンを討つこととて、可能になるはずだ。

にも拘らず、今、国王が倒れるとなれば。


「兄上、どうなさいます?」


父に代わり、今は国に残った王女や弟王子らが対処しているというが、所詮国王となるための教育を受けていないものばかり。

王の倒れた今、国政を司る者はいない。戦争にかまけ、国を乱すわけにもいかない。


「しかし・・・・・・・・・・」


ここでカッシート、またはほかの王子が抜けてしまっては、せっかくの優位を覆される。セアノのほうも、戦費の出費はこちらと同等以上。余力などない。


「しかし、あれほどお元気だった父上が、なぜ?」


カッシートはそのことを不可解に思いながらも、悩む。

このままでは、しかし。

カッシートは苦悩の表情で告げる。


「このまま、戦線を維持する。父上も、この戦争のことを優先せよと、おっしゃるはず」


「兄上」


「父上のためにも、早く終わらせるぞ」


カッシートの言葉に弟王子らと将は頷く。



しかし、優位とみられた戦況は覆る。

王国の導入した魔道兵器を無効化する兵器を帝国が投入し、それによりアクスウォード・セアノ軍は多大な被害を被った。

逆にバラル帝国軍に国内に攻め込まれたアクスウォード軍は一時時刻に撤退、セアノとの足踏みが崩れ、戦況は大きく混戦模様を描く。

また、これと時期を同時にして、ラカークン大陸において大規模な暴動が発生。

数か月にわたる戦争への支援の名目で搾取と圧制を敷かれていた他の国の農民の大規模反乱が起きた。

これにより、それまでアクスウォード・セアノへの支援をしていた国々も自国の防衛・鎮圧に躍起になった。

また、アクスウォード国王が戦争途中で逝去したこともあり、王宮内は荒れた。

王の遺言もなく、次の国王の指名もなかった。

普通ならばカッシートは王となるが、そのカッシート王子は王都に戻る際、何者かの襲撃を受け、重傷を負い、意識を失っていた。

第二王子ナウプリアモスも、同盟国セアノへの応援として向かった先でバラル帝国兵の剣の前に死亡。

第三王子アレスターはすでに死亡しており、第四王子クラウシアスや第一王女モルガンなどが後に続く。

しかし、ほかの王子王女は、いずれも拮抗した者たちであり、王宮内でも意見は割れた。

アクスウォードの混乱もあり、帝国への優位は完全になくなっていた。


一方の帝国も、優勢に立ったとはいえ、憂いがないわけではない。

むしろ、戦線が伸びたことにより、補給の問題が浮き出てしまった。穀倉地帯がなくなったことも大きく影響しており、現地での略奪によって何とか補給をしていた。

とはいえ、これにより、兵士の風紀も乱れてしまっていた。

略奪地での婦女に対する暴力は、バラル帝国のイメージを大きく傷つけた。

長引く戦乱により、精神を錯乱させる兵士も多数現れていた。

また、帝国南部のほうでは不作が続き、また病魔が広がっていた。

帝国では近年まれに見る大災害が立て続けに起こっていた。


「いったい、これは」


長年、帝国で国土の記録をつけていた魔術師はそう呟いたという。

後に判明することだが、これはある者が長年にわたり仕組んだ細工によるものであったことが判明した。

不作も病魔も、何者かによって数年にわたり計画されていたものである、と言うのだ。

何はともあれ、帝国内部もがたがたであり、戦争など正直進めている余裕はなかった。

それでも、一度投げられた賽は、もう止められない。

泥沼の戦争に陥ることとなった。







アクスウォード王国。

王宮内部では今日も次の後継者についての議論がされている。

戦争について、反乱について、国税について。話すべきことは多々あるが、王失くしてそれは進まない。

第一王子カッシートは意識は戻らず、医者の話ではこのまま意識を取り戻さない可能性もあるという。

カッシートの眼ざめを待つわけにはいかない。


「ええい、どうしろと言うのだ・・・・・・・・・」


家臣たちは嘆く。

国王のあまりに呆気ない死。バラルを下し、これからと言うところで志半ばで死んだ王。

王位継承権のある者の多くには、問題がある。能力や性格など、それは多々ある。

カッシートやナウプリアモスほどの能力のある者ならば任せられるのだが。

もちろん、アクスウォード王族はみな優秀ではあるのだが、第一王子らが優秀すぎたのだ。


「・・・・・・・・・・・」


奮闘する議会に、一人の男が入り込む。

その不審者の姿を認め、衛兵が駆け寄るが、その男の後ろから現れた傭兵たちにより、切り殺される。


「何者だ!?」


大臣の一人が、侵入してきた男に叫ぶ。

男は黒髪黒目で、アクスウォードかその周辺国の出身であることがうかがえた。

家臣は彼の姿を見て、息を吞んだ。

その顔、その目。それは、ずっと忘れていたある人物の顔に重なった。

十数年前、消えたはずの「あの」王子に。


「久しぶりの故郷なのに、歓迎してくれないのかね、エぇ!?」


「・・・・・・・・・・・」


絶句する家臣たち。

何故、彼がここにいる。なぜ、なぜ。

議会に入り込んでくる傭兵たちが、王国の兵士を殺害し、議会を占拠する。


「貴様、何者だ・・・・・・・・・・」


「何者、わかってるはずだぜ、大臣様」


昔はだいぶかわいがってくれたよな、え、と彼は言い、大臣の赤い花を殴りつける。

血を垂らし、地に伏せった大臣の首を左手に持った剣で切り飛ばす。

ボトリと落ちた首を拾い、それを議会の中心の円卓に放り投げる。

円卓の上に絶句した首が落ち、血で染める。


「アンセルムス様、王族は全員拘束いたしました」


男の後ろから来た傭兵の報告にアンセルムスは頷く。


「ご苦労。・・・・・・・・さて、大臣様方、俺から一つ皆様に言っておきたいことがある」


そう言うと、アンセルムスは大臣一人一人の顔を見る。その狂気に染まった笑みを向ける。その不気味で、温度を感じさせぬ顔に、恐怖を抱く大臣たち。

無能力者。そう呼び、馬鹿にし、嘲り笑っていたはずのあの、王子がこうしているなど、何の悪夢か。


「国王が死んだことも、この大陸で反乱がおきたのも、カッシートが重傷を負ったのも、そもそも戦争がおこったのも、すべて俺の仕組んだことだ」


アンセルムスの言葉を理解できず、顔を顰める大臣たち。


「貴様が仕組んだ、だと!」


「そうさ、あんたらも国王もほかの連中も、俺の掌の上で踊っていただけなンだよ!」


馬鹿にしたように嗤うアンセルムス。ギャハハハ、と大声で両手を上げる。


「まったく、滑稽だぜ。お前らが馬鹿にして、認めなかった男によって、破滅を迎えるんだからなァ!」


「破滅、だ?アクスウォード王国は終わりなどしない」


大臣の一人がアンセルムスに指を指して言う。


「貴様のような邪悪、神が赦しはせぬぞ!」


「神!?神だと、クソッタレな神を信じているのか、あんたは!笑えるなあ、え?!」


アンセルムスはそう言うと、忌々しい、とばかりに顔を歪め、唾を吐き捨てる。

神聖な議会も、もはや格式もなにもない、ただの惨劇の場となっていた。


「神がいるならば、なぜ、俺のような存在がいる!!この理不尽な世界が存在する!!神などいない!!」


「それは、貴様がの人間以下のゴミ、魔物にも魔族にも劣る存在だからだ!哀れな無能者め」


そう言い、激昂した大臣がスキルでアンセルムスを攻撃しようとした瞬間、彼の身体は消し炭になる。

アンセルムスの側に控えていた魔術師による攻撃だった。


「ならばなおさら、この世界は壊さなくてはならない」


そう言い、アンセルムスは憎しみに顔を歪ませる。


「だから俺は、この国を滅ぼす」


かつてアクスウォードに生まれた王子は、故国の地でそう宣言する。

狂気。何者も理解できぬそれを、大臣たちは蒼い顔で見る。


「化け物め、いかれている」


「どうとでもいえ・・・・・・・・・・・・さあて、そろそろ飽きたな」


そう言い、アンセルムスは右手から火を出す。彼のわずかな魔力でともされた火が床に落ちる。

瞬時に燃え広がることはない。


「奴らをここから出すな。じわじわと苦しませてやれ」


そう言い、アンセルムスは議会を後にする。

傭兵たちは頷き、議会全体に魔術封じの決壊を張り巡らせ、四方の扉から出て固く錠を閉める。

外部からの攻撃に対する防御を考えた議会。それゆえにその扉は強固。抜け出すことは不可能。

また、唯一存在する抜け道も、アンセルムスにすでに塞がれていた。

大臣たちは、じわじわ迫る火に怯える。

魔力も何もかも封じられていた。スキルを使おうにも、意識を紛らわせる何かが空気中に存在して、旨く使用できない。

苦しみながら、生きながら火に焼かれていく大臣たち。




王宮に軟禁された王族たちは、信じられない光景に目を疑う。


「・・・・・・・・・・・き、貴様・・・・・・・!!」


「これは姉上、お久しぶりです」


モルガン王女はその美貌をゆがませ、かつての弟を見る。


「自分が何をしたか、わかっているの!?」


唯一この場にいなかった王妃。その王妃の首を持って現れたアンセルムスに、第一王女は厳しい糾弾の声を上げる。


「もちろん。クソッタレなくそ女を殺したのですよ・・・・・・・・」


「母上を、なんて汚い言葉で・・・・・・・・・・!!」


クラウシアスが弟を睨んでいう。


「母?母などと思ったことは一度もない。息子に愛情も抱きもしなければ、人扱いもしなかった貴様らも、俺は家族などと思ったことはない」


まあ、貴様らもそうだろうな、と吐き捨てる。

そして、手にしていた母親の首を床にたたきつける。何度も、何度も。

眼球が飛び散り、脳漿が飛び散り、原形がなくなるまで。

血に染まった顔を向け、頬についた血をなめとる。


「貴様、このような悪行!いつか、報いが・・・・・・・・」


ぐは、とクラウシアスが呻く。腹に打ち据えられたアンセルムスの脚。


「そんなもの、恐れてなどいない!それよりも、自分の心配をしたらどうだ、えぇ?」


「く、ぅ」


神を掴みあげられ、床に組み伏せられたクラウシアスの手を掴みあげ、その親指の爪と肉の間に、何かを挟み込む。


「な、なにをする」


「・・・・・・・・・・」


無言でアンセルムスは手をひねる。

第四王子が激痛に叫び、泣き喚く。

アンセルムスは血に染まった手を離し、剥ぎ取った指の爪をぽい、と投げ捨てる。


「さて、姉上には何をしていただこうか」


モルガン王女を見て、アンセルムスは嗤う。


「ああ、そうだな。そこにいる傭兵たちの相手をしていただきましょうか。そうすれば、命だけはお助けしましょう」


ニヤリと笑うアンセルムス。その後ろでは傭兵たちも下卑た笑みを浮かべてじろじろとモルガン王女を見ていた。


「・・・・・・・・・・血も涙もない、人間じゃないわ、お前は」


「そうしたのは、誰だ」


アンセルムスはそう言い、美貌の王女の顔を持ち上げる。


「せいぜい、助けを求めて腰を振るといい」


アンセルムスは傭兵たちを見て言う。


「男たちは牢獄につないでおけ。女どもは好きにしろ」


そう言い、アンセルムスが出ていく。


後ろの部屋での悲鳴を聞きながら、アンセルムスは邪悪な笑みを浮かべて王宮を歩く。



アクスウォード王国の王都は、炎に包まれた。

混乱した市民は、急に発生した火災により、多くが逃げ遅れた。

逃げ延びた市民も、最近の騒ぎで碌に退治されなかった魔物や治安の悪化に伴い発生した野盗や奴隷商の餌食となった。

アクスウォード王国の王族は、カッシート以下すべての王子の死亡が確認された。

首だけとなった王子たちの首が、セアノの王宮にもたらされたのだ。

また、残りの王女たちの行方は不明。

国の要人や貴族も大半がこの事件で死亡。

アクスウォード王国は、滅亡した。

アクスウォードと言う砦がなくなり、また正気を失った帝国兵がラカークン大陸に入り込んでいき、大陸の混乱はより混沌を深めた。



故国を去り、アンセルムスはバーティマへと戻る。

燃え盛り、滅びを迎えたアクスウォードをもはや振り向きもしない。



「そういえば、王族の中にあいつを見なかったな」


アンセルムスが思い出すのは、かつて自分に心開いた唯一の家族ともいえる少女。

彼女はどうしたのだろうか。


「・・・・・・・・・・・」


しかし、すぐにその考えを吹き払う。

それがどうしたというのだ。俺には、関係ない。


変色した指輪を手に、アンセルムスは空を仰ぎ見る。





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