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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
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大宗主国の者たち

大宗主の意向で魔族国の亡命者を受け入れられることとなった。

グラウキエ大宗主国の人々の不安もあったが、大宗主と言う存在と、神の説く愛の前に種族は関係ない、と言う考えもあり、さほど抵抗は見られなかった。

とはいえ、全く抵抗がないわけではなかった。

人間至上主義というのはどうしても存在したし、アクスウォードやセアノとの関係を気にする者もいた。

魔族を庇うような形であり、この二国や、魔族に攻撃されるイヴリス大陸の国々もいい思いはしないのではないか。

そういうこともあり、魔族国の人々への風当たりは決して良いものばかりではなかった。

興味の視線や侮蔑の視線にさらされながらも、ラカークン大陸での扱いに比べたらまだましであった。


「ふん、所詮、この国でも我らは異端か」


鱗に覆われた肌の若木魚人族の青年リクターはじろりと周囲を見て言う。

隣に立つクィルとは違い、彼の外見は人間族からかけ離れた、どちらかと言えば魔物に近い外見。恐れられるのも、仕方がない。

人は、外見でそのものを判断する。愚かな種族と思わないでもないが、それでもリクターは人間やた種族との共存を信じていた。

いや、正確にはその理想に突き進む友人を信じていた、と言った方が正しいか。

クィルとエノラという二人の男女。互いに信じ合うその姿が、クィルの目指す理想。

クィルのもっとも古く、もっとも信頼できる友人である、という誇りがリクターにはあった。

こうして、多くのきずなと命が奪われてなお、理想に生きようとする親友。それを信じてやらず、何が友であろうか。

過去や今も大事であるが、未来を見る必要もある。

復讐や遺恨で、魔族を絶やすわけにはいかないのだ。


「・・・・・・・・」


リクターは周囲の好機、または悪意のこもった目にき、と睨み返し、悠然と歩き去る。

魚人族という種族故に、リクターは悪目立ちしていた。



人間の街を歩き回っていたリクターだが、深い理由はなく、ただ安穏と一か所にいられなかっただけだ。

リクターはクィルとは違い、魔術の才能はないし、勉学もできない。

だから、彼の理想に力を貸せることはない。戦うことでしか、彼の支えとなることしかできない。

リクターはふと、グラウキエの街の小高い丘から遥か彼方の外海に思いを馳せる。

彼も、いつかはその海へ行きたい、と思っていた。

彼ら魚人族は、かつては外海を泳ぎ渡っていたという。かつて、まだ国家や法がなかった時代。魔族と言う隔たりもなく、全てが平等であった時代。

その海を、その先を、見てみたいと彼は思っていた。

オケアノス、と古代の人々は言った。世界の果て。


「ふん」


自分も、クィルのことを言えんな、と自嘲したリクターは踵を返す。





大宗主の住むコンクード内の部屋に招かれたクィルら。

大宗主国内に置いては客人である彼らは大宗主の招きでここに滞在することになったのだ。

クィル、エノラ、セラーナに向かって挨拶するのは、彼らより一、二歳年下の少女であった。

水色の髪の、活発そうな少女は三人に挨拶した。


「リナリー・アルミオンです」


よろしくお願いします、と少女は言う。

エノラやセラーナはすぐにこの少女と打ち明けたようで、さっそくいろいろと話し込んでいるようであった。

その様子を見ていたクィルに向かってセウスが言う。


「エノラを取られて悔しいか?」


「別に。あんたこそ、いいのか」


セラーナを見てクィルが言う。


「構わんさ。セラーナはあれでなかなか友人が少ない。人が良すぎるからな、こういった世界で生きていくには優しすぎる。あの子に友人ができるのを嬉しく思いはするがね」


「・・・・・・・・・・」


クィルも、エノラの友人が増えるのは嬉しい。

彼女は王族故に、どこかその付き合いも歪であった。学院にいた時も、それを感じていた。

魔族国での生活で、エノラも普通の暮らしができるか、と思った矢先であの事件だ。


とはいうものの、やはり思い人がとられる、ということにわずかばかりの嫉妬を抱いてしまう。

そう言った少年の心理を知ってか、セウスは穏やかに、子どもを見守るような眼で見る。


「悩め、少年」


「・・・・・・・・・・大人ぶりやがって」


セウスに向かって悪態をつくクィル。見た目だけならば、自分より十歳も年の離れていない青年の外見なのだから。

とはいえ、目の前の砂色の髪の青年は、少なくとも数百年は生きている存在で、クィルの遥か先輩にあたる人物である。

セウスは静かに笑う。

孤高の王は思い出していた。

かつて、自分にもこういう思いを抱いた時期があったものだ、と。

バルドバラス、セリーヌ、アノガル、ツェツィーリエ、リケン。

若き理想を抱き、ともに未来を目指した仲間たち。

しかし、その仲間も時とともに、離れてしまった。

目の前の少年たちに、そのような悲しき自分の体験をさせたくはなかった。





魔族、とはいっても案外普通の人間と変わらないな、と目の前の少年を見てリナリーは思った。

クィルと言う青年は見た目では人間と大差ないようであった。

リナリーの持つイメージとは違い、穏やかな顔であり、暴力的とは思えない。

なお、彼のほかにいた少女二人は人間であるらしい。魔族とかかわりを持っている人間族は、珍しい、とリナリーは思った。

自分より少し年上の二人。

黒髪のエノラは、上品で美しく、強い女性と言った感じだ。

オレンジ色の髪のセラーナは、人のよさそうな女性で、その笑みは同姓でもかわいらしい、と思える。

二人とすぐに意気投合したリナリーは、その後、二人の部屋にお邪魔した。

リナリーが世話をする、と言っても、大宗主も、新しい住人も彼女に使用人としての役割は期待していないようで、むしろこういう話し相手、としての役目を望んでいるようであった。


二人と話をしていくうちに、話はどうして魔族国に行ったのか、と言うことにいたる。

エノラのクィルとの話は、まるでどこかの話のようであるが、なるほどエノラらしい、とも思える。

出会ったばかりではあるが、エノラのまっすぐな性格をリナリーは感じ取っていた。

セラーナの話もなかなかに面白く、セウスとの出会いや彼との冒険、そして魔族国に至った理由など、彼女もいろいろと経験しているようだ。

リナリーは生まれてこの方、国を出たことはなく、そう言う話に興味がないわけがなかった。

むしろ、旅を慕い、とさえ思うこともある。教えにだけに生きる生活を軽蔑するわけではないが、それだけでは面白くない、とリナリーは思っていた。


「いいなあ、私もそういうの、経験したかったなあ」


などと呟いて、だがリナリーの顔はすぐにそのことへの興味を失くして、にやりと笑い、二人の少女を見る。


「それより、今は二人の思い人について興味あるかなあ?」


「思い人?」


首を傾げる二人に、徒っぽく笑いかけるリナリー。


「クィルとセウスって人のことだよ。エノラはまあ、彼のこと好きなのはもうバレバレだしね。それに、もう思いっきり告白してるようなものだしね」


まっすぐなエノラのことだから、まったくそんな考えはないんだろうけど、とリナリーが言うと、エノラは少し赤くなる。


「セラーナも、セウスって人のこと、嫌いじゃないでしょ」


「ま、まあね」


セラーナがもじもじと言う。

エノラもセラーナも、面と向かってそう言われると、返す言葉はなくて、リナリーに好きにいじられていた。


それから数時間後、リナリーが去った部屋の中で身悶える二人の少女の姿があったとか。





コンクードから出て、自宅に帰ろうとしたリナリーは、その入り口近くで一人の魔族を見かけた。

青銀の鱗に包まれた、異形の人物。

のっぺりとした鼻に、顎付近にある鰓のようなもの。

彼は、魔族の一つである魚人族であった。

精悍な顔で、伸びる金髪を結わえて邪魔にならないようにしている。

彼が、クィルの友人であるというリクターと言う人物なのだろう、とリナリーは悟る。

リナリーはこれから関わることもあるだろうと思い、魚人族の青年に声をかける。


「あ、あの!」


「・・・・・・・・・・」


魚人族の青年は少女を見て、そのまま通り過ぎようとした。


「あの、リクターさんですよね?」


少女の言葉に、リクターは足を止め、振り返る。


「だとしたら、なんだ?」


「私はリナリー・アルミオンです。あなた方のお世話を大宗主様から仰せつかっています」


「・・・・・・・・そうか。だが、俺には関係ない」


リクターはそう言いい、少女に背を向けて去っていく。


「・・・・・・・・・・・なにあれ」


リナリーは、そのぶっきらぼうで無頼そうな物言いに、わずかに口をとがらせ不満をこぼす。

クィルの友人だとか、何とかと聞いていたが、あまりいい感情を抱いているようではないようだ。

まあ、人間のしてきたことを考えると、仕方がないか、とも思う。

どちらにしろ、彼とリナリーが顔を合わせたとしても、これ以上の関係になれるとは思えなかった。


(ま、別にいいか)


リナリーはそう思うと、家への帰路を急いだ。





「また、ずいぶんと思い切ったことをしたのね、ロイ」


少女の言葉に、大宗主は言葉を返さずただじっと無の空間に座っていた。

少女はその様子を面白そうに見る。


「今まで諦めしか浮かべていなかったあなたが、どうしてかしら、生き生きとしているようだわ」


ふふふ、と怪しく笑う少女。


「黙れ、キュレイア」


「さては、昔の自分のように、理想を抱く若者とでも出会ったのかしら?」


「・・・・・・・・・・・」


「私を捨てて、神に走ったあなた。愚かで、でも愛おしくてたまらない」


少女の細い指が、大宗主の頬を撫で、その白い髪を撫でる。

ゾワリ、と背筋に走る悪寒を感じ、大宗主は魔神をはねのける。


「キュレイア、辞めろ。私を惑わそうとするな」


「ロイ、いい加減、受け入れなさい」


少女の言葉に、強い拒絶を示す大宗主。


「ルルー・・・・・・・・・!!」


「まったく、いつになっても、あなたは私を拒絶する」


どうすれば、あなたは私を受け入れてくれるのかしら、と少女は狂気の瞳で見る。

魔神、と呼ばれる存在の放つ独特の威圧感。それを受けて、どうにか立ち上がる大宗主。


「こんな世界も、あなたも大っ嫌い」


いっそ、滅びてしまえばいいのに。

少女はそう言い、大宗主の前から消える。


「・・・・・・・・・・・ルルー」


大宗主は一人、静かにかつての幼なじみの名を呟いた。




「嫌い、ロイも、世界も、みぃんな、嫌い」


少女はそう呟き、暗闇の中で横たわる。


「だあれ、そいにいるのは?」


少女はそう言い、腕を掲げる。

明りが一転に集まり、黒装束の男を照らす。


「さすが、魔神キュレイアさま。私ごとき、すぐにお見つけになるとは・・・・・・・・・・・」


「あなただあれ?迷い込んだ蟲かしら、なら」


殺さなくちゃ、と言い、残酷な笑みを浮かべたキュレイアに、黒装束の男、シャンクシーションクは言う。


「キュレイアさま、もしあなたの意中の男が手に入る、と言ったら、どうなさいます?」


「・・・・・・・・・・どういうことかしら?」


「大宗主を、ロイフォル・オーギュナントを、あなた様のものにしたいとは思いませんか?」


黒装束の囁く言葉に、魔神は耳を傾ける。


「・・・・・・・・・・詳しく、聞かせてもらおうかしら?」


魔神を前に、冷や汗すらかいているシャンクシーションクは、御意、と言いキュレイアに取引を持ちかける。魔神は、その言葉に耳を傾け、そしてその取引を受け入れた。


「面白いわ、人間。お前が何を考えているかは知らないけど、乗ってあげるわ」


そして、ふいに殺意を放ち、シャンクシーションクを威圧する。


「でも、約束を違えたら、どうなるか、わかるわね」


「・・・・・・・・・・はい」


震えながらシャンクシーションクは言う。



キュレイアのもとを辞してシャンクシーションクは光の下に這い出た。

アンセルムスの命とはいえ、流石に魔神の前は二度とごめんだ。


「とりあえず、これで『慟哭』は我らの手中に墜ちたも同然」


シャンクシーションクはそう言い、そびえたつレス=グラウキエ=コンクードを見上げた。



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