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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
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大宗主と魔族

グラウキエ大宗主国に迫る巨大なそれに、大宗主国の人々はレア女神に祈り声を上げる。

大質量の魔族の要塞が落ちたとすれば、その衝撃はとてつもないものとなるだろう。

大宗主国に張られた結界は、飽くまでこのような大質量の物を対象としたものではないため、簡単に砕け散った。

せまりくるそれに、人々は狼狽えるばかり。

そんな中、レス=グラウキエ=コンクードの中層のテラスから、一人の人物が現れる。

その人物はきらびやかな大宗主のみが赦された司祭の服に身を包んでいた。

長い白髪とローブを引きずる彼の後ろには少女が一人付き従っていた。


「あれは」


「大宗主様!」


人々が彼の姿を認め、驚きに声を上げる。

その存在を見せない大宗主。実在こそは知っているが、その姿を見たものは少ない。

伝え聞くその姿に人々の目が向く。

大宗主はいかめしい顔で落ちるそれを見る。

片手を翳し、大宗主はただ一言言った。


「止まれ」


その一言で、落ち行く要塞はピタリと止まる。




「!!」


要塞の落下が止まった、とクィルは感じた。だが、地上に落ちたわけではないし、ましてコントロールが帰ったわけでもないようだ。

何か巨大な力で無理やり止めている、と言った状況か。


「とにかく今のうちに・・・・・・・・・・」


両腕を変化させ、クィルは前に立ちふさがる魔族を切り伏せる。

死んではいないが、戦闘の続行は不可能だろう。


「エノラ!」


エノラはその刀で魔族を切り伏せると、クィルに目くばせをする。

コントロールルームは、もう目前だ。


二人は突撃し、中に閉じこもっていた魔族に刃を向ける。


「もう終わりだ!」


「くそ、クィル!この、裏切り者めぇ!」


叫び剣を向ける魔族に、クィルの対応が遅れる。

明確な殺意を向け、その剣はクィルの心臓を狙っていた。

エノラが咄嗟に動き、その魔族の腕を斬り飛ばし、続けて首を落とす。

返り血を浴び、少女の顔が赤く染まる。

クィルは悲しげに目を伏せる。そして、ほかの魔族を見る。


「頼む、降伏してくれ。これ以上、無駄な血は、見たくないんだ・・・・・・・・・・っ」


その言葉と、血に染まったエノラの姿に、立てこもっていた魔族たちは戦意を失い降服した。



リクター率いる鎮圧部隊の手で要塞内部の反乱軍は鎮圧された。

この戦いでの死者は多く、負傷者も多かった。

問題はそればかりではない。

要塞はグラウキエ大宗主国に侵入したとして、グラウキエ大宗主国の山岳地帯に置かれ、周囲には大宗主国の聖堂騎士団が囲んでいる。

監督者であるレグナは自身の髭を撫でながら、要塞を見る。


「中の魔族どもは?」


「呼びかけに答えていません」


隣の騎士に聞いて、レグナはふん、と息巻く。


「忌々しい。神の国に攻め込んできたか、魔族どもめ。今すぐ殺してくれようか」


息巻くレグナ。その背後に、一人の人物が現れ、周囲の騎士は礼を取る。

レグナ以外のものが頭を下げる中、レグナは鼻息荒く要塞を見る。


「レグナ」


レグナはその声に、我に返る。そして慌てて振り返る。

自分を呼び捨てで呼ぶものなど、今の世に一人しか存在しない。

レグナはその人物を見て、汗を吹き出し、慌てて頭を下げる。


「だ、大宗主様・・・・・・・・」


「彼らにも事情があるでしょう。幸い、こちらに被害はありません。こう騎士団が囲んでいれば、警戒もしましょう。私に任せてはもらえないかな?」


「そんな、大宗主様のお手を煩わせるなど・・・・・・・・・」


レグナが渋ると、大宗主は静かに笑う。


「たまには、国のために働くのも悪くはないからね」


そう言い、一人ふらりと要塞に近づく。

周囲の騎士たちが「大宗主様!」と叫び、近寄ろうとするのを手を挙げて制すると大宗主は言う。


「魔族国の方々、私はこの大宗主ロイフォル・オーギュナント。あなたがたのことは、風の噂で聞いています。そちら側が、侵略の糸で我が国に来た、とはこちらも考えてはいません。どうか、話し合いをしたいと思うのですが」


穏やかな、よく通る声で大宗主は言う。

先ほどの、圧倒的な力で要塞を空中で止め、この地まで押し寄せたとは思えない彼の姿に、騎士たちは尊敬の念を向ける。

レグナもその力は認めてはいたが、飽くまで魔族と話し合いをしようとする大宗主にいら立ちを隠せない。


やがて、要塞の下部から羊頭の魔族と数人の人間らしき者たちと魚人が現れ、大宗主に近づいていく。

周囲のものは警戒しながらそれを見守る。大宗主がそう簡単にやられはしないだろが、いざとなれば魔族を殺してやる、という意思が感じられた。

その中にありながら、魔族国の使者は堂々としていた。


「はじめまして、大宗主閣下。我が名はハズメット。魔族国の長老です」


後ろは私の信頼できる仲間です、と老魔族は言い、大宗主を見る。

穏やかにハズメットを見る大宗主。浮世離れした印象の大宗主に、クィルやエノラ、セラーナは圧倒されていた。


「ほう、人間の方もいるのですね」


「はい、彼女たちは我らの恩人であります。我らも、人間すべてを恨んでいるわけではありません」


ハズメットの言葉に、大宗主は頷く。


「それで、あなた方を見ていると、侵略などをするとは思えません。事情を、お話していただいても?」


大宗主を見て頷いたハズメットは話し始めた。


魔族国の生き残りの中での意見対立。

それを煽った謎の勢力の存在。

そして、自分たちが目指すのは飽くまでも復讐ではなく、共存、最低でも再び安住の地を作ることである、と言うこと。

そしてそのためにクライシュ大陸に行ってみないか、と話していたこと。


「こういう形ではありますが、グラウキエまで我々は来てしまった次第です」


「なるほど、それは大変でしたね」


大宗主はそう言い、クィルらを見る。


「わかりました。あなた方を受け入れましょう」


「大宗主様?!」


レグナが叫ぶが、大宗主は彼を見ずにハズメットらに言う。


「いかにレア女神の教えにあるこの大陸と言えど、魔族国の方々に対する風当たりは強いでしょう。しかし、私個人としても、魔族だ人間だ、とこだわることはおろかなことと思います」


そしてクィルやエノラを見る。


「そして、そんな理不尽な世界を変えようとする若者を見ると、かつての自分を思い出します。微力ではありますが、力をお貸ししましょう」


「ありがとうございます、大宗主様」


ハズメットたちは頭を下げる。

大宗主は苦笑する。


「それでは、負傷者に治療を。ハズメット様方は、ご足労ですがグラウキエ=コンクードまでお越しいただきましょうか。いろいろと、話し合いも必要でしょう」


レグナ、と呼び、大宗主は言う。


「移動の手段を」


「大宗主様・・・・・・・・」


「レグナ、いつも言っているでしょう。広い視野と、あらゆるものへの慈しみの心を、と」


行きなさい、と言い、レグナは渋渋走り去る。

彼のようなものも多いのです、と大宗主は嘆く。


「なにはともあれ、大変でしたでしょう。あまり豪華ともいえませんが、お食事も用意しましょう」





魔族の中にも、人間に頼るなど、と言う意見のものがいた。

そう言ったものは、グラウキエ大宗主国を去り、北のイヴリスに去った。

大宗主の好意を素直に受け入れられないものは全体の半数近くであり、そういった者たちにハズメットは要塞を与えた。

要塞はもうほとんどその機能がなく、アウラ海を航行する程度の能力しかなかった。

それ以上、軍事的に利用することもできないであろうとのことから、ハズメットがそれを与えた。

去り行く同族を見ながら、クィルは呟く。


「どうして、分かり合えないんだろうな。今まで、ずっと共に生きて来たのに」


隣に立つリクターは去っていく影を同じように見て、友の肩を叩く。


「クィル、いつか彼らもわかるだろう。お前の言ったことがな」


イヴリス大陸では、戦火が広がっているという。その血で果たして彼らが生き延びれるかは、わからない。

再び、同じ国、同じように笑いあえる日が来るのだろうか。




レス=グラウキエ=コンクード中層『平静なる回廊』。

ここには大宗主とハズメットらがいた。

大宗主が前を歩き、その後ろにハズメット、セウス、クィル、エノラ、セラーナが続く。


「ここはこの先にあるカウンシルに続く回廊です」


「カウンシル?」


クィルが言うと、大宗主は頷く。


「ええ、かつて教皇の選出や、枢機卿の選挙などが行われた場所です。もっとも、今ではたまにあるこういった話し合いのための場でしかないですが」


「大宗主様がそう言った制度を廃止したのですよね?」


セラーナが聞くと、大宗主は首肯する。


「権力は腐敗を招く。教皇や枢機卿と言うものもまた、然り。私自身、教皇になった身ではありますが、そうなったのも教会の腐敗を改革するため。終わった後は、そのまま隠棲するつもりが、何の因果か大宗主と崇められてしまいましてね」


笑う大宗主。若い姿であるが、かれこれ何百年は生きているという。

彼は信奉するレア女神から神格を与えられたために、永遠ともいえる生を確約されている。

神格は誰にでも与えられるものではなく、歴史上大宗主以外に三人いる。が、いずれも現在では死亡している。神格者と言えど、死なないわけではなく、権力争いなどの犠牲になって殺されることもある。

大宗主は今なお生きていることから、彼の行った改革は意味があったのだろう。


「とはいえ、全ての人々が安らげる世界を作り上げるまでには至りませんでした」


大宗主は自嘲する。


「所詮、大宗主だ神格者だと言っても、所詮私はその程度」


そう言い、クィルを見る。


「クィル・アルゲサス。君のような立派な志を持つ若者を見ると、自分の愚かさを痛感する」


「そんな・・・・・・・・・・恐れ多い、ことです」


クィルはしどろもどろにいう。

大宗主の発する独特の雰囲気に、少年たちは気圧されていた。ハズメットやセウスは慣れているためか、あまり動じてはいない。


「ああ、つきました」


そう言い、大宗主が手をかざすと、目の前の扉が開く。

クィルらはその先の光景を見て驚きの声を上げる。


「すごい」


一面に輝くステンドグラス。この世界の神々が描かれ、中央にはレア女神の可憐な姿が描かれていた。

レス=グラウキエ=コンクード内で最も美しいとまで言われる芸術がそこには広がっていた。


「改めて、ようこそグラウキエ大宗主国へ」






「ええい、忌々しい魔族め!」


レグナは喚き、叫ぶ。

魔族を受け入れるなど、大宗主は正気なのか。

北での出来事を知らぬわけでもあるまい。魔族などと言う下等な種に、レア女神の教えなど理解できるわけはない。

身体に理解させてやるのが、一番。それこそが、神の愛だ。

レグナはそう信じてやまない。


「シャンクシーションク!」


どこからともなく、黒装束が現れる。


「・・・・・・・・・・」


「大宗主の殺害と、あの忌々しい魔族どもを殺せ」


「お言葉ですが、私の人は飽くまで大宗主の殺害のみ、です」


レグナが顔を歪める。そして口を開こうとしたのを、シャンクシーションクは遮る。


「しかし、旨くやれば、大宗主殺害の罪を魔族に着せることができます。それをどうご利用なさるかは、レグナ様次第です」


大宗主殺害の罪をあの魔族に着せることで、魔族排斥に動かせる。そう言っているのだ、とレグナは悟る。

そして、その式をレグナが執ることで、このグラウキエを手中に収めることができるのではないか。


「なるほどな、できるのか、シャンクシーションク?」


「無論」


「ふふ、そうか」


レグナは笑うと黒装束に言う。


「よい、ある程度時間がかかっても構わん。確実に大宗主を殺し、その罪を奴らに被せられればな」


「御意」


そして黒装束を下がらせると、レグナは独り忍び笑いをする。


「そうだ、私こそがレア女神の教えを最も理解し、人々を導く存在なのだ」


大宗主、という存在は必要ない。

自分こそが、この国の指導者となるのだ。

レグナは妄想に浸り、不気味に笑う。

彼の中では、もう自分がこの国の、レアレス教の支配者なのだ。


「くくく、はははは・・・・・・・・・・・・・・」





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