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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
39/88

内部分裂

要塞の修復は何とか動ける程度には進んでいた。

そこで再び、今後についての議論が行われた。

グラウキエへの亡命と共存の模索を訴えるクィルら。イヴリスでの魔族反乱への参加を唱える一派。そして、どちらにも属さぬ者、と三つに分かれていた。

クィルの言う理想は絵空事であるし、過去何度も人間に裏切られ虐げられた魔族にとって人間の所業は許されるものではない。


「この要塞に武装を積めば、強力な手札となる。人間の世界は今、混乱にある。今こそ、我らの怨みを示すとき」


「それでは今までと変わらない。やがて再び人間が力をつけた時、我々に返ってくる。連鎖するだけだ」


好戦派に向かい、クィルは言う。


「臆病者め、ヨトゥンフェイム様の息子とは思えんな!」


「人間の娘にほだされ、誇りすら捨てたか」


嘲笑する者たちをクィルは睨む。


「今の発言は許しがたい侮辱だ」


「ふん、クィル。理想だけで世界は動かないんだよ」


拳を握るクィル。その隣にいたリクターは、クィルを笑う青年を見る。

強い眼光に青年はひるむ。


「お前の気持ちも理解している。だが、クィルの心情も察してやれ。こいつとて、父や同族を失った。同じ痛みを我らは抱いているのだ。そんな我らがいがみ合ってどうなるというのか?」


リクターの言葉に、嘲笑を浮かべていたものは顔を引き締め、沈黙する。


「俺とて、人間は憎い。だが、クィルの言うように、いつまでも戦いの連鎖の中にいるわけにはいかぬ。それだけは、理解してほしい」


リクターはそう言うと、口を閉じる。




協議の様子を見ていたセウスとハズメットは、重い溜息をつく。


「このような状況下で、意見が一致しないとはな」


ハズメットの言葉に、セウスは口を開く。


「しかし、ここまで好戦派が台頭してきたのも、不自然ですな。まるで、誰かが人間への怒りをたきつけているとしか」


「・・・・・・・・・何が目的で?」


ハズメットはセウスをちらりと見て言う。セウスは確信こそないが、と前置きした。


「今、世界中で起きている戦乱。これは悪意のある誰かによって仕組まれたもの、と思えてならない。一連の事件はすべて同じものの策によって動いているのではないか、と」


「まさか」


ハズメットは信じられない、と言う顔でつぶやく。

いくらなんでも、三大陸で戦乱を招くなど、とてもではないが容易なことではない。

仮にそのようなものがいたとして、一体何が目的だというのか。


「そのようなものがいたならば、仲間内で争わせる、などと言うのは容易にできるでしょう」


「・・・・・・・・・・この要塞内に、そのものの手のものがいる、と?」


「信じたくはないですし、仮定に過ぎませんが」


おそらく、と返すセウス。

ハズメットは、唸り声を上げ、目を閉じる。


「そのものを見つけ出すのは、難しいだろうな」


「でしょうな。それに、もし敵の目的が仲間割れだけではなかったら」


「まさか、この要塞を?」


「・・・・・・・・・・・・」


古代の遺跡であるこの要塞。それこそが敵の目的かもしれない。もちろん、魔族国滅亡なども、敵の目的ではあるのだろう。

飽くまで仮定の話とはいえ、そのようなことを考えつく者とは一体どんなものなのか。そして、今も自分たちはその手の中で踊っているだけなのではないか。

そんな不安がよぎる。





セウスの話を聞いたクィルら。

エノラやセラーナは信じられない、と言う顔であった。クィルはセウスほどではないが、今の世界の情勢に疑問を抱いていたから、驚きは少なかった。


「許せないな」


エノラは力強く言う。たとえどんな目的であろうとも、これほど多くの無実の人々を殺し虐げるなど、赦されることではない。黒髪の少女の目は強く光っている。

セラーナも、きつく唇を引き締めていた。


「好戦派の動きに、注意する必要があるな」


リクターは腕を組んでそう言う。もし、その話が本当ならば、この要塞を乗っ取ろうとするかもしれない。情報操作など、お手の物かもしれない。

もしかしたら、もう事態は動き出しているかもしれない。


「同族を疑いたくはないが、状況が状況だ。注意するに越したことはあるまい」


リクターの言葉に、クィルは悔しげに頷く。

分け隔てなく生活してきた魔族たちが、あの日以来、壁を感じるようになっていた。

憎しみの前に、人は変わる。

憎しみを乗り越えることは容易ではない。

クィル自身、父を死に追いやった人間を許すことはできない。

それでも、誰かが道を示さなければならない。いつか、憎しみも差別もない世界を築くために。

若き少年の苦悩を理解しているかのように、黒髪の少女はその手を握る。




魔族国侵攻の際、要塞への避難中紛れ込んだものは、血気盛んな魔族たちに人間の所業を語った。

女子供を犯し、殺す悪鬼の如き人間の所業。たやすいことに、魔族たちはすぐ激昂した。

また彼はハズメットやクィルが自分たちの身可愛さから人間の庇護下につこうとしている、と噂を流した。グラウキエの大宗主の脚をなめるのだ、と。

それの効果は大きく、好戦派の魔族たちは危惧を覚えたようだった。

このままでは種族としての誇りすら失う、と。

そして、彼の言うとおりに動いてくれた。

このままハズメットやクィルをのさばらせておくのは危険だ。彼らを捕えるのだ。

その悪魔のささやきに、好戦派は耳を貸してしまった。

後はこのまま、状況に任せればいい。

どう転んでも、この要塞は我々のものとなるし、戦火は広がる。うまくいけばグラウキエ大宗主国へも。


「アンセルムス様、お待ちください」


醜い顔の魔族はそう言うと、ローブに包まれた身体をずるずると引きずる。





要塞内に響き渡る警報音。

何事か、と警戒するクィルは、突如彼のいた部屋に入り込んできた武装した魔族に取り囲まれる。


「!?何の真似だっ」


「クィル・アルゲサス。あなたにはいろいろな容疑がかけられている。大人しく、同行していただこう」


「馬鹿な、何を言っている・・・・・・・・・」


クィルは心中で嘆く。

まさか、敵の行動がこうまで早いとは思っていなかった。

エノラやリクター、セラーナは先の話を受け、いろいろと準備をしている最中であった。

好戦派は焚きつけられて、このような行動に出たというのか。


「身に覚えがないな。俺が何をした、と?」


「ふざけるな、貴様が人間に肩入れしているのは周知の事実!人間に尻尾を振る、魔族の恥さらしめ」


蔑む男たちを見て、クィルは静かに言う。


「操られていることも知らずに・・・・・・・・・・同族とはいえ、加減はせぬぞ」


「抵抗する気か、ならば仕方ない」


剣を抜く魔族たち。一方のクィルは丸腰であった。

だが、クィルの両腕はどんどん太くなり、鋭い爪が現れていた。


「おおおぉぉぉぉぉっ!!!」


叫び、突進するクィル。振り上げられた剣がクィルの腕を切り落とそうとするも、鱗がそれを阻む。

クィルは剣を叩き折ると、目の前の魔族を弾き飛ばす。


「ぐあ」


「調子に乗るなぁあ!」


誰かのスキルだろうか、部屋の中の備品が浮かび上がり、それがクィルに向いて振ってくる。

腕以外は生身だろうとのことでそれを放ったのだろう。

クィルは両脚も竜化させると降り注ぐそれらを撃ち落とす。そして、天井に張り付き、そのまま一気に部屋の出口に跳躍する。


「逃がすな!」


強化された脚力を持つクィル。その姿を見失うまいと、必死で追いかけてくるが、突如閃光が彼らの目を襲った。


「うばぁ!!!!」


そして、目がくらんでいる瞬間に、彼らの前に黒髪を結った少女が現れた。

鞘に入ったままの刀で魔族たちの腹を打ち、その意識を刈り取っていく。


「エノラ」


「クィル、大丈夫?」


「ああ」


エノラは気絶した魔族たちを見てクィルを見る。

クィルは首を振ると、彼らの持っていた拘束用の縄で彼らを縛り上げる。

自分を攻撃してきたとはいえ、同じ仲間。話し合えば、誤解は解けるはずだ。

クィルの気持ちを察したエノラは黙って彼らを縛り上げる。


「これからどうする?」


「ほかの場所も、似たことが起きているんだろうな」


「たぶん」


セラーナとセウスはハズメットの下へと向かったという。リクターは非戦闘民の保護と、好戦派への対応に走り回っているらしい。

とはいえ、思った以上に好戦派は多く、すでに要塞の半分は彼らの手に落ちているという。


「厄介だな」


クィルはそう呟くと、走り出す。

ひとまず、ハズメットらと合流したほうがいいだろう。




「現在、この要塞はグラウキエ大宗主国の東の外海上にある」


ハズメットはそう言い、セウスを見る。


「当初はこのままの場所で動くことはないはずだったが、要塞の要所を押さえられ、要塞は動き出してしまった」


ハズメットのいるコントロールルームでも、そのすべてを抑えることは不可能らしく、要塞はグラウキエへと向かい始めているという。

このまま大宗主国に飛び込み、そのまま戦いに、という流れにもなりかねない。

さすがにその状況はまずいとは、セウスもセラーナもわかる。

人間の中では魔族への理解があると思われる大宗主国を敵に回してしまっては、もはや魔族と人間の共存は望めない。


「早急に、この争いを治めなければ」


とはいえ、長老の言葉に好戦派は耳を傾けはしない。あろうことかハズメットを「恥知らず」と罵る。

あれほど信頼された魔族の最長老への疑心をここまで植えつけた敵のやり口に、舌を巻く。


「クィルは、どうした?」


「エノラが様子を見に行きました」


ハズメットの問いにセラーナが答えた。


「そうか」


ハズメットは息をついて状況を考える。

その時、ズン、と大きな音が響く。


「なんだ、この音は?!」


爆発の音のように思えた。

ハズメットらの下に、魔族の少女がやってきて報告する。


「要塞の高度が、下がってきています・・・・・・・・・・!恐らく、今の爆発でコントロールルームの一つが・・・・・・・・・・」


「このままでは・・・・・・・・・」


グラウキエ大宗主国に墜ちる。

ハズメットはその顔に焦りを浮かべる。

これも、敵のシナリオ通りなのか。


「やむを得まい。こちらも力を行使するしかない。みすみす、ほかのものにまで被害をもたらすわけにはいかん」


最悪、好戦派を殺しても構わない、と苦い顔でハズメットは言う。

彼らを庇護するはずの自分が殺して言い、などと言うのは間違っている。だが、多くを救うために、犠牲が必要だとすれば迷ってはいられない。




要塞内部で、血塗られた戦闘が繰り広げられた。

魔族対魔族。それまで手を取り合って生きてきた者たちは、主義主張の違いから争っていた。

狂気に駆られ、正気を保てるものなどいなかった。

異様なまでに駆り立てられる戦闘意欲。

争う魔族の様子を見ているのは、この状況を引き起こしたローブの魔族。


「ククク・・・・・・・・・・・・・」


彼のスキルは特有のフェロモンのようなものを身体から出し、相手に強い幻覚や認識を与える能力。

深い怒りや不満など、負の感情を持つ者には強い効果を示す。

とはいえ、このスキルの効果があるのは人間以外である。だからこそ、彼はここに送られてきたのだ。

同じ魔族とはいえ、彼には何の感慨もなかった。

魔族国の生まれではなく、イヴリスの出身であった彼にとって魔族国の面々など他人。それに、六に苦労もせずのうのうと生きてきた彼らに共感など抱けるはずはない。

彼は醜い自分を差別することなく使ってくれる者のために戦うだけであった。

たとえ、ただの道具としてしか見られていなくともいい。

それまで蔑まれてきた自分が必要とされるならば。


「おい」


そんな彼の背後に、一人の男が立っていた。

銀色の鱗を持つ、魚人族。まだ若いものの、その身体からにじみ出る雰囲気は、まさに歴戦の戦士のそれである。


「・・・・・・・・・・!?」


ローブの魔族は驚き、振り向く。その際、隠し持っていたナイフを構えて襲い掛かるが、その前にローブの魔族は切り裂かれた。

魚人族の両腕に装着されたカタールにはその魔族の鮮血がついていた。


「この異様なにおいの元は絶った。だが」


争いは治まらない。このスキルは、所持者を殺した程度では解除はされないらしい。

がくん、と床が斜めになる。リクターは近くの手すりに摑まる。


「まずいな」


要塞は落ちていた。要塞そのものが斜めに傾いている。

早くコントロールルームを取り戻さねば、とリクターは立ち上がるが、そんな戦士を見つけ、好戦派が襲い掛かる。


「あああ――――っ!!」


「邪魔だ!!」


躊躇することなく、リクターは好戦派の魔族を切り殺すと、わずかに目を閉じ、彼らの死を悼むと走り出す。







大宗主国、レス=グラウキエ=コンクード。

天に近い庭園で茶を飲んでいた大宗主。そしてそんな彼に従うリナリー。

ふと、大宗主は空を見た。


「どうかなさいましたか?」


リナリーの問いに、僅かに顔を顰める大宗主。


「城が」


「え?」


「城が、堕ちてきますね」


そう言うと、大宗主は椅子から立ち上がる。


「大宗主様?」


「魔族国のものですね。中で何があったのか・・・・・・・・・・いずれにせよ、このままではまずいですね」


大宗主はそう言うと、リナリーに自身の法衣を取ってくるように頼む。

流石に、このまま放っておくわけにはいかない。

仮にも大宗主と呼ばれる自分には、この国の人々を守る義務があるのだから。

大宗主、ロイフォル・オーギュナントは空を睨んだ。

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