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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
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次なる動き

霧の山脈の中にある一つの家。

かつて、ゲシュトゥとアテンシャが住んでいたというこの家は、今なおそこにあった。

千年以上の時を経ても普通に使えるのは、アテンシャのかけた魔術の効果もあるのだろう。

それに、ずっとここに住んでいたクローリエの手入れも行き届いていたことも大きいだろう。


二人とネフェリエは、その後この家で一晩を明かした。




「それで、二人はこれからどうするのだ?」


同じ部屋で一夜を過ごした二人を見て、ネフェリエは問う。

少年の目的は果たされた。ならば、彼はどうするのだろうか。


「そのことなんですが、ネフェリエさん」


記憶を取り戻した後でも、タムズは驕ることなく、ネフェリエを師のように敬っていた。


「実は、ある魔神がエルフの女性を連れていた、と言う記憶を、そのダウクが持っていて」


統合された魔神とタムズ。そのことにより、魔神ダウクの記憶を取り込んだタムズは、魔神の見聞きしたことを自分のものとしていた。


「何?」


その言葉を聞き、ネフェリエの顔が引き締まる。

タムズはこの女性の探すものが、何かを聞いていた。だから、彼女の探す娘とそれをさらった魔神。それと関係しているのではないか、と思った。


「誰だ、その魔神、というのは」


「魔神ハザです。ダウクの記憶の中で、ハザと言う魔神はどうやらある人間と協力してあらゆる大陸に戦乱をもたらそうとしているようです」


「あらゆる大陸に戦乱・・・・・・・・・・?何が目的で」


クローリエは恋人に寄り添いながら聞く。灰色の髪を撫でるクローリエをやさしい瞳で見て、タムズは言う。


「目的はわからない。だが、このハザ、という魔神は自分の楽しみのためならば、どんなこともするらしい。序列八位。能力は不明。二つ名は『狂笑』」


「・・・・・・・・・・そいつが、エルフの女性を連れていた、と?」


「ええ、詳しくはわからないのですが」


すみません、と謝るタムズを制するネフェリエ。


「構わない。やっと掴めた手がかりだ。君に礼こそいえど、責めることはない」


それを聞くと、ネフェリエは立ち上がる。


「ネフェリエさん?」


クローリエの言葉を受け、顔を向けるエルフの女性。


「そいつはどこにいる?」


「まさか、闘うつもりで?」


「そうだ、タムズ。奴がそうであるならば、なおさらだ」


「待ってください!」


背を向け、去ろうとするネフェリエを止めるタムズ。

ピタリと足を止め、振り向くネフェリエ。


「止めるな、タムズ。お前ならわかるだろう?自分の大事なものを求める、この魂の衝動を」


「はい」


返事をし、立ち上がったタムズはネフェリエの前に回り込む。


「ネフェリエさんは、俺を助けてくれた。次は俺の番だ」


「タムズ」


「今更水臭いじゃないですか、ネフェリエさん。約束したでしょ、手伝うって」


「だが、君は彼女と・・・・・・・・・・・・」


そう言い、クローリエを見るエルフ。クローリエは美しく笑っている。


「ネフェリエさん、彼は頑固ですよ。それに、私たちも自分たちだけ平穏に暮らそうなんて、思っていません」


すく、と立ち上がり、タムズの隣に行く少女。


「今、世界を覆っている暗黒。それを切り払うためにも、その魔神と戦う必要があります。この世界は、確かに醜い。けれど、美しい。そんな世界を守りたいのです」


クローリエの手は、タムズの手を強く握っている。

強く握られた手。決意は固く、ネフェリエと言えど、その決意を翻すことはできない。


「・・・・・・・・・・・後悔しても知らんぞ」


ぶっきらぼうに言うネフェリエ。

笑うタムズとクローリエ。


「俺たち、こう見えても昔は鬼だ悪魔だと恐れられていたんですよ?」


そう言い、二人は準備をすると言い、家の奥に走っていった。

その姿を見ながら、ネフェリエは何とも言えない気持ちになっていた。

今まで、娘を探してきたネフェリエは孤独だった。

一人だけの戦い。それで、平気だった。

なのに、あの二人の気遣いが、無性にうれしく感じる。

人とのふれあいから長く離れていたエルフの女性は、その暖かさを思い出す。

愛した男。種族の壁を超えて愛し合った男のことを、思い出しほろり、と涙が流れた。

それを拭い、エルフはその手の漆黒の棒を握る。



三人の旅人は、魔神ハザとその協力者についての情報を求めて旅立った。







ハンノ=イヴリス連邦の軍人ユグルタ・ヌマンティウスは密命を受け、単身ファムファート大陸のバーティマへと向かった。

その目的は、アンセルムスと言う男を探るためであった。

パラメスとの交易船に紛れ込み、バーティマへの侵入を果たしたユグルタ。

持っているものは、粗末な服とわずかな金のみ。身元を特定できるものは持っていない。

万が一、敵に見つかったとしても、祖国に関する情報は一切見つかりはしない。

ユグルタはバーティマ市民権を偽証で得ると、すぐさま義勇軍に加わった。

噂ではこの義勇軍、というのはアンセルムスの私設傭兵団が元であるという。

つまり、ここに所属すれば、接近できる可能性も上がるということだ。

とはいえ、焦ってしまっては、アンセルムスと言う男に感づかれる可能性もある。

慎重にやらねばな、とユグルタは息をつく。




「ネズミが侵入したな」


アンセルムスはそう言うと、ゼルを見る。


「ネズミ?」


ゼルは執務机で書類を読みながら問う。

先日の戦いで得た勝利により、バーティマへの期待は高まっていた。

反帝国の旗本に集まる者は多い。

アクスウォードやセアノ、といった他の大陸の国々よりも同じ大陸の国に、というものは多い。

数の上では劣勢、とまで言われたバーティマも、現状ならば帝国と十分に戦争ができる。

先日の戦いで受けたダメージを回復しきれないラトナ騎士団は、帝都オーフェンで立て直しを図っている。

当分、こちらを相手にする余裕はない。

ここぞとばかりにバーティマは帝国領への侵入と略奪を繰り返していた。

アクスウォード・セアノの進軍にも対応しないといけない帝国にとって、頭の痛い問題であった。


「ああ、ハンノ=イヴリスのネズミが、な」


「楽しそうだな、アンセルムス」


笑う傭兵を見てゼルはそう言う。


「ふん、帝国を倒したら、次はイヴリスも攻めるか?」


その言葉に、ゼルは息をつく。


「俺はファムファートに国を作る。理想の国家をな。ほかの大陸など、知ったことか」


そう言い、書類に目を向けるゼル。

アンセルムスはそうかい、と言い、ソファによりかかる。


(まあいいさ。お前は精々、帝国と戦ってくれればいい。キアラやハザに任せておけば、どうにでもなるさ)


アンセルムスはそうほくそ笑むと、ユグルタの似顔絵を見る。

いかにも忠実な軍人、と言った顔だ。

その顔を歪ませられるかと思うと、愉悦で顔が歪む。





ユグルタ・ヌマンティウスは数度の戦闘に参加し、そこでの功績を評価されたとしてアンセルムスの特殊工作部隊に抜擢された。

功績といっても、目だった戦果もあげていないユグルタは、なぜ、と思う。

まさか、自分のことがばれたのか。

いや、あり得ない。

いかにかの傭兵が策略の達人と言えど、それは不可能だろう。

ハンノ=イヴリスの軍部の結束は固い。

傭兵如きが、崩せるようなことはない。

ユグルタはそう信じ切っていた。


特殊工作部隊に配属されたユグルタの最初の任務は、手に入れた穀倉地帯より西の帝国領への侵入であった。

ユグルタはこの際、アンセルムスの信用を得て接近できればいい、と思っていた。

たとえ罠だとしても、立ち向かってみせる。





レス=グラウキエ=コンクード。

聖職者たちが毎朝の勤めを終え、それぞれの職務に向かう中、一人の男がグラウキエ=コンクード内の大聖堂内にいた。

彼の名はレグナ。彼を知る者は、レグナを狩人と呼ぶ。

グラウキエ大宗主国に軍はない。だが、それに当たる武力はある。

魔物や異端を狩る「退魔局」や「聖堂騎士団」である。

そしてそれらを統括する者がレグナである。

上下のないグラウキエの聖職者と言えども、この人物と大宗主には頭が上がらない。

そのレグナの顔は忌々しげに顰められている。

大宗主はこの状況でも、静観を決め込んでいる。

魔族の件や、ベレフォールの魔神など、問題はたくさんある。

にも拘らず、大宗主は問題を解決はしようとはしない。

大宗主という神の如き人物をこの大陸の人間は崇めているが、果たしてそうなのか?

レグナにはそうは思えない。

大宗主など、所詮は飾に過ぎない。あれは、もう長くその座に座りすぎた。

そろそろ、この世から去っていただきたい、そう思っていた。

レグナにとっての神はレア女神のみ。大宗主と言う偶像は必要ない。

あのようなものがグラウキエの王のように思われていることが不快ですらあった。

とはいえ、レグナの周りの物も皆、大宗主を盲信している。

下手にこのことを話し、異端として裁かれるわけにはいかない。

せっかく築いた地位を、失うわけにはいかない。

とはいえ、急ぎこの国の現状を変えねば、他の大陸の信仰を受けるやもしれない。

住む土地を失くした魔族や、イヴリスの魔族ども、それに魔神。

長年、そう言った脅威から戦ってきたレグナには、その恐ろしさがよくわかる。


「早く、どうにかせねば」


そう呟くレグナの背後に現れる影。

レグナは振り返り、それを見る。


「貴様が・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


レグナの視線を受け、膝をつく黒装束の男。

レグナが大宗主を排除するために雇った傭兵。


「大宗主の殺害。それがおぬしの任務だ、やれるな?」


「報酬分は働かせていただきます」


「・・・・・・・・ふん。まあいい」


行け、とレグナが言うと、黒装束は静かに去る。

足音もさせずに去った男。

レグナは忌々しい目でそれを見て、息をつく。


(異教徒め、金に目をくらませた愚か者め。だが、それだけに御しやすい)


レグナは静かに息をつき、聖堂の上にある女神像を見る。


「我らがレア女神よ、あなたの威光を全世界に」


そして、汚らわしき異教徒や魔族を打ち払い、この大地に祝福を。

女神の信奉者は、その狂信を胸に秘め、静かに歩き出す。




レグナの下を訪れた黒装束の男は、懐から通信用の水晶を取り出す。


『シャンクシーションクか』


「はい、アンセルムス様」


水晶に映った自身の主を見て、平伏する黒装束。


『大宗主国に入り込んだか』


「はい」


『・・・・・・・・・魔族国の残党、奴らの方にも動きがあるようだ。機を見計らって大宗主を殺せ』


「御意」


頭を下げるシャンクシーションク。

黒装束に唯一隠されていない瞳は、アンセルムスへの信頼であふれていた。


「必ずや、アンセルムス様のためにも、我が一族のためにも成功させてみせましょう」


『期待しているぞ』


そう言い、通信は切られた。

シャンクシーションクは懐に水晶玉を入れると、立ち上がる。

アンセルムスの真の望みなど、シャンクシーションクにはわからない。

それでも、アンセルムスが何の目的を持っていたとしても、彼ら一族を救ったのは確かだった。

その恩を返すためにも、彼はここにいる。

一度は死んだ命。今更何を惜しむだろうか。

シャンクシーションクは大宗主国の影深き場所に紛れ込み、消えた。




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