↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/8

約束の続きを

# 第七章「約束の続きを」


「リノ……?」


ロコはゆっくりと身体を起こした。


さっきまで全身を襲っていた痛みが、嘘のように消えている。


「ぼ、僕……」


自分の身体を見る。


傷一つない。


服に残った血だけが、先ほどの事故が夢ではなかったと教えていた。


「……助かったの?」


「……うん」


リノは小さく頷いた。


「よかった……」


「リノが、助けてくれたの?」


「……」


答えない。


答えなくても、ロコには分かっていた。


周りの大人たちの視線。


ざわめき。


向けられたスマートフォン。


そして――


小さな背中から伸びる、美しい羽。


「……そっか」


ロコは微笑んだ。


「やっぱり、リノは普通の子じゃなかったんだね」


「……ごめん」


「え?」


「ごめんなさい」


リノは俯いた。


「ずっと……黙ってて」


「私、人間じゃないの」


「妖精なの」


「本当は……人間のこと、ずっと怖かった」


震える声。


「私の国は、人間に滅ぼされた」


「父様も、母様も……みんな……」


ロコは何も言わない。


ただ、黙って聞いていた。


「だから……最初、ロコのことも怖かった」


「うん」


「嫌いになろうとした」


「うん」


「でも……」


リノの目から、涙がこぼれる。


「ロコは違った」


「……」


「初めて会った時、泣いている私を心配してくれた」


「一緒に遊んでくれた」


「友達だって言ってくれた」


「優しい人間もいるってことを教えてくれた」


「だから……」


顔を上げる。


「ありがとう」


その笑顔は、出会った頃とは違う。


もう、恐怖に怯えるだけの少女ではなかった。


---


しかし。


周囲のざわめきは、消えない。


「妖精だ……」


「本当にいたんだ……」


「動画撮った?」


「ニュースに送れるんじゃないか?」


その言葉を聞いた瞬間。


リノの身体が強張った。


あの日。


故郷を襲ったハンターの笑顔が脳裏に浮かぶ。


『高く売れそうだ』


全く同じ台詞だった。


「……っ」


「リノ?」


「……行かなきゃ」


「え?」


「ここにいたら……また誰かに見つかる」


「待って」


ロコは慌てて手を伸ばした。


「待ってよ!」


その声に、リノの動きが止まる。


「また、明日……」


その言葉。


毎日交わしてきた、何気ない約束。


一番大好きな言葉。


だからこそ。


リノは、少しだけ笑った。


そして。


首にかけていた羽のペンダントを外す。


「……え?」


「これ、預かってて」


「大事なものじゃ……」


「うん」


リノは頷く。


「お父様とお母様がくれた、私の宝物」


「だったら!」


「だから、ロコに持っていてほしい」


ロコの手の中に、そっと置く。


「また会えるって……信じたいから」


「リノ……」


涙が溢れる。


嫌だ。


また、大切な人がいなくなる。


「じゃあ、いつ来るの?」


子供らしい問いだった。


明日。


来週。


来年。


そんな答えを期待した。


だけど。


リノは困ったように笑う。


「わからない」


「そんな……」


「……」


空を見上げる。


夕日が、二人を赤く照らしていた。


「今日の約束は……」


一度、言葉が詰まる。


喉が痛い。


言いたくない。


本当は、明日も遊びたい。


明後日も。


ずっと。


「ごめん、ロコ」


涙を流しながら笑った。


「今日の約束……守れそうにないや」


「……っ」


ロコは声を失った。


「でも」


リノは続ける。


「“また明日”って言葉、私、大好きになったの」


「……」


「だから、いつか」


羽を広げる。


「本当に明日が来たみたいに、また遊ぼうね」


そして。


ふわりと空へ舞い上がる。


「待って!!」


ロコが叫ぶ。


「リノ!!」


振り返る。


涙で滲んだ視界の向こう。


小さな友達が、必死に手を伸ばしていた。


「忘れないから!!」


「……!」


「絶対に忘れない!!」


「……うん」


リノは、笑った。


「私も」


その姿は、夕焼けの中へ消えていった。


---


ロコは、ずっと空を見ていた。


手の中の、羽のペンダントを握り締めながら。


「また明日」


その約束の続きを。


信じ続けながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。