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また明日

# 第八章「また明日」


それから、長い時間が流れた。


季節は何度も巡った。


街は変わった。


古い建物は姿を消し、新しいものが増えた。


昔、ロコと遊んだ公園も、少し形を変えていた。


そして――


リノは、ひとりだった。


あの日からずっと。


人間に見つからないように。


誰にも知られないように。


森の奥や、誰も来ない場所で暮らしていた。


何十年もの時間を。


ひとりで。


---


「……変わっちゃったな」」


久しぶりに訪れた街。


「あの駄菓子屋…もう無くなっちゃったんだ…」


昔とは違う景色。


「ロコも……もう忘れちゃったかな」


小さく笑う。


責める気持ちはない。


むしろ、忘れていてほしかった。


人間にとって数十年は長い。


子供の頃の、不思議な友達。


そんな思い出は、いつか昔話になる。


新しい友達の記憶で埋め尽くされる。


それでいい。


それが、普通なのだから。


むしろ、忘れていてくれた方が---


なんて、考えた時、


---


「なぁロコ」


不意に。


聞き覚えのある名前が、耳に届いた。


「ん?」


「なんでお前、いまだにそのペンダントつけてんの?」


「またそれかよ」


青年の声。


少し大人びている。


でも。


どこか懐かしい。


「だって変だろ。何十年も前に会った、女の子の形見みたいに持ってるなんて」


「形見じゃねぇよ」


その声だけで分かった。


「預かってるだけだ」


リノの目が、大きく開いた。


---


木の陰から、そっと覗く。


そこには三人の男子高校生がいた。


真ん中にいる少年。


少し背が伸びて。


声も変わって。


でも。


首にかけているものだけは変わっていなかった。


羽のペンダント。


父と母がくれた。


世界で一つだけの宝物。


ずっとつけてくれていたのだろうか。


錆び付いてしまっている。


「……ロコ」


声には出せない。


出したら、全部壊れてしまいそうだった。


---


「いつ返すんだよ」


友人が笑う。


「決まってんだろ」


ロコは答える。


「本人が取りに来た時だ」


「まだ信じてんの?」


「当たり前だろ」


迷いのない声だった。


「だってその子、言ったんだ」


ペンダントを握る。


「あの日、″今日の″約束は守れないって」


「……」


「じゃあ、いつかまた明日が来るってことだろ」


---


リノの瞳から、涙がこぼれた。


忘れていなかった。


忘れられていなかった。


自分だけが、あの日を宝物にしていたわけじゃない。


ロコも。


同じだった。


---


「重症だなぁw」


「完全に夢見てるよなw」


友人たちは笑う。


「うるせぇ!w」


ロコも笑った。


「お前らには分かんねぇよ…w」


その顔は。


昔、ドーム型の遊具で。


泣いている自分に手を差し伸べてくれた、あの少年のままだった。


---


「……ありがとう」


リノは小さく呟いた。


届かなくていい。


届いてしまったら、きっとまた別れが辛くなる。


だから。


今はこれでいい。


---


くるりと背を向ける。


その時。


「……ん?」


ロコがふと、後ろを振り返った。


「どうした?」


「いや…」


風が吹く。


木々が揺れる。


まるで、誰かがそこにいたように。


ロコは少しだけ笑った。


「妖精かもな…」


「は?」


「また始まったよ」


友人たちの呆れた、笑い声が響く。


---


リノも、笑った。


涙を流しながら。


「ふふ……」


空を見上げる。


青い空。


あの日と同じ。


「……″今日″じゃないだけ」


小さく、呟く。


「きっといつか」


羽を広げる。


「また明日、だよね」


---


小さな妖精は、空へ飛び立つ。


誰にも見えない。


誰にも知られない。


けれど。


確かにそこにいた。


少年が信じ続けた、たった一人の親友が。

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