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今日の約束

# 第六章「今日の約束」


「また明日!」


「うん! 絶対だよ!」


それが、いつもの別れの言葉だった。


今日も。


昨日も。


その前の日も。


リノは毎日、夕方になると公園へ向かった。


人間の世界のことをたくさん知った。


お菓子の味を知った。


遊び方を知った。


笑うことを思い出した。


そして——


「友達」


という言葉の意味を知った。


---


次の日。


いつもの時間。


いつもの公園。


リノは少し早めに来ていた。


「ふふ……今日は私が一番最初♪」


ベンチに座り、足をばたつかせながら小さく笑う。


最近、ロコたちは「リノはいつも時間ぴったりだ」とからかってくる。


だから今日は少し驚かせてやろうと思ったのだ。


「ニシシ……まだかな」


五分。


十分。


三十分。


空は少しずつ赤く染まっていく。


「遅いな……」


リノは首を傾げた。


ロコは、約束を破る子ではない。


少なくとも、一言もなく来ないなんて今まで一度もなかった。


胸の奥が、ざわついた。


嫌な予感。


それは、あの日と同じ。


国が襲われた日と。


同じ感覚だった。


「……ロコ」


立ち上がる。


「何か……あったの?」


---


認識阻害の魔法を使い、空へ飛ぶ。


人間には見えない。


生命エネルギーによる妖精だけの力。


街の上から探した。


ロコ。


ロコ。


ロコ。


お願い。


無事でいて。


もう——


大切な人を失いたくない。


---


その時。


遠くに、人だかりが見えた。


赤く点滅する光。


大きな白い車。


ざわめく声。


「……!」


それが何か知らなくても、何かの危機を示していることだけは、なんとなくわかった。


心臓が、嫌な音を立てる。


「嘘……」


近づく。


近づいてはいけない。


そう思っているのに、身体は止まらない。


人混みの中心。


そこにいたのは。


血に染まった、小さな少年だった。


いつもの赤い半袖シャツ。


泥や土で汚れた白い靴。


見間違いなんかじゃない。


ロコだ…


---


「……ロコ」


声が出なかった。


信じたくなかった。


昨日まで、笑っていた。


昨日まで、隣で遊んでいた。


昨日まで。


「また明日」


って言っていた。


なのに。


「ロコ……」


足が震える。


「ロコ!!」


リノは認識阻害を解いた。


周囲の人間がざわつく。


「危ない!」


「お嬢ちゃん、近づいちゃ——」


聞こえない。


そんなもの。


聞いている余裕なんてなかった。


リノは小さな身体を利用し、大人たちの間をすり抜け、ロコの元へ駆け寄る。


「ロコ!!」


手を握る。


冷たい。


弱い。


生命の光が、消えかけている。


妖精だから分かる。


あと少しで。


ロコは——


「いや……」


涙が落ちる。


「嫌だ……」


またなの?


また、大切な人を。


父も。


母も。


国のみんなも。


そしてロコまで。


「嫌……!」


---


手をかざす。


淡い緑色の光。


生命エネルギー。


妖精だけが持つ奇跡。


だが。


リノの手は止まる。


「……」


頭の中に、あの日の光景がフラッシュバックする。


笑うハンター。


泣き叫ぶ仲間。


倒れた両親。


人間。


人間は——敵。


「どうして……」


震える。


「どうして私が……」


彼らを助けるの?


人間は、私から全部奪ったのに。


この間までそこにあった″日常″を。


あんなにも簡単に。


優しい人間もいる。


ロコが教えてくれた。


そんなの分かっている。


分かっているのに。


怖かった。


ここで力を使えば。


自分は人間じゃないと知られる。


また、追われるかもしれない。


捕まるかもしれない。


あの日と同じように。


「……怖い」


小さく呟く。


「私、怖いよ……」


---


その時。


微かに。


ロコの手が動いた。


「……リ……ノ……」


「!」


聞き間違いかもしれない。


それでも。


その声だけで十分だった。


---


なにを迷っていたのだろう…


涙が落ちる。


目の前にいるのは---


笑った。


泣きながら。


大切な友達だ…!


---


リノは決心した。


もうなにも、迷わない。


生命エネルギーが溢れる。


暖かな光が、ロコを包んだ。


傷が消えていく。


流れた血が止まる。


折れた骨が繋がる。


周囲の人間は息を呑んだ。


「な……」


「何だ……あれ……」


「人間じゃない……」


「妖精だ……!」


スマートフォンが向けられる。


驚愕と恐怖。


ざわめき。


しかし。


リノはもう気にしなかった。


目の前にいる。


たった一人の友達。


その命だけを見ていた。


---


「……ん」


ロコの瞼が震える。


「ロコ!!」


ゆっくり目が開く。


ぼやけた視界の中。


最初に映ったのは。


涙を流して笑う少女だった。


「……リノ?」


「……よかった」


リノは泣いた。


子供みたいに。


声を上げて。


「本当に……よかった……」

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