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小さな約束

# 第五章「小さな約束」


「えー! じゃあ次はリノが鬼ね!」


「お、おに……?」


公園に響く、子供たちの笑い声。


リノは首を傾げる。


ロコは思わず笑った。


「はは! リノって知らないこと多いよね!」


「だ、だって……!」


少し頬を膨らませる。


その仕草に、周りの子供たちも笑った。


「なんか、リノちゃんって、お姫様みたいだよねー!」


その一言に、リノの身体がピクリと止まる。


姫。


その言葉は、故郷を思い出させた。


父の優しい声。


母の温かな手。


自分を守ってくれた国民たち。


胸が少しだけ痛んだ。


「リノ?」


ロコが心配そうに覗き込む。


「……ううん!」


リノは慌てて笑った。


「なんでもない!」


——大丈夫。


もう泣かない。


みんなが、私を生かしてくれたんだから。


無駄にはしない。


---


それから数日。


リノは毎日、公園へ通うようになった。


最初は少し離れて座って、みんなが遊ぶ姿を見ているだけだった。


でもロコは、毎回そんなリノの手を引いた。


「ほら! リノも!」


「え、でも……」


「大丈夫!」


その言葉が、いつからだろう。


怖くなくなっていた。


---


ある日、ロコたちは駄菓子屋に来ていた。


世界を何も知らないリノのためにロコが連れてきてくれた。


「いただきます!」


「いただき……?」


「ご飯を食べる前に言うんだよ!」


ロコは得意げに説明する。


「感謝の言葉!」


「感謝……」


リノは小さく呟いた。


人間は欲深くて、残酷で、自分たちを利用するだけだと思っていた。


でも目の前の少年は違う。


食べ物にも感謝する。


友達の悲しみに気づく。


笑って、一緒に遊ぶ。


「どうしたの?」


「……なんでもない」


リノは小さく笑った。


「いただきます…!」


「おー! 言えた!」


「そ、そんなに褒めることじゃないよ!」


「いや、リノっていつも難しい顔してるからさ」


「むっ」


「今の顔の方がかわいい!」


「……!」


リノは一瞬固まる。


「な、ななな……!」


顔が真っ赤になる。


「何言ってるの! バカ!」


「痛っ!」


リノは慌てて小さな拳でロコの肩を叩く。


周りの子供たちは大笑いした。


その笑い声を聞いて。


リノも——


笑った。


心の底から。


久しぶりに。


---


その日の帰り道。


夕焼けに染まった公園。


「ねえ、ロコ」


「ん?」


「どうして……私に優しくするの?」


ロコは首を傾げる。


「変な質問だね」


「……」


「友達だからだよ」


その一言だった。


ただ、それだけだった。


でも。


両親を失い。


国を失い。


自分の存在する意味すら分からなくなっていた少女には。


その言葉が、何よりも温かかった。


「……ともだち」


リノは小さく繰り返す。


「うん!」


ロコは笑う。


「僕とリノは友達!」


その笑顔が、眩しかった。


まるで——


昔、絵本の中で見た英雄みたいだった。


いや、リノにとってロコはそれ以上だった。


「……ロコ」


「ん?」


「人間って……」


「?」


「優しい人もいるんだね」


ロコは少し不思議そうな顔をした。


「そりゃそうだよ」


「え?」


「悪い人もいるけど、いい人もいる」


当たり前のように言った。


「妖精もそうなのかな…」


ロコは予想外の質問に不思議な顔をした。


なぜ急に妖精の話が出てくるのかわからなかった。


でも、ロコは迷わず言った。


「そうだと思うよ!」


「……!」


リノは目を見開いた。


その言葉は、ずっと自分が欲しかった答えだった。


父が言っていたこと。


母が教えてくれたこと。


そして、ロコと出会って知ったこと。


全部が繋がった気がした。


「……うん」


リノは笑った。


「そうだね」


---


「じゃあまた明日!」


夕日を背に、ロコは手を振る。


「うん!」


リノも大きく手を振った。


「絶対、また明日!」


その時は。


この何気ない約束が。


これから訪れる出来事によって、二人の人生で最も大切な言葉になるなんて--


まだ誰も知らなかった。

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