最初の人間
# 第三章「最初の人間」
「これは大当たりだ」
ハンターの笑い声が、洞窟の中に響いた。
リノの身体は凍りつく。
怖い。
目の前の存在が、怖い。
もう絵本の英雄ではない。
優しい人間ではない。
仲間を奪い、父と母を奪った怪物だ。
「姫様、下がって!」
使用人の妖精たちが、リノの前に立ちはだかった。
小さな身体で。
大きな人間を前にして。
震えながらも。
「ほう」
ハンターは笑う。
「姫様を守るってか?」
「あなたのような者に、姫様を渡すものか……!」
「はっ」
次の瞬間。
男は腕を振り払った。
妖精たちの小さな身体は、地面へと叩きつけられる。
「やめて!!」
リノは叫んだ。
「お願い……! もう誰も傷つけないで……!」
「黙れ」
男は近づいてくる。
「お前は高く売れるんだ」
その言葉が、リノの心をえぐった。
人間は。
怖い。
人間は。
醜い。
お父様たちは、正しかった。
「姫様……!」
傷だらけになった妖精が叫ぶ。
「行って……ください……!」
「でも……!」
「姫様!!」
その声に、リノの身体が震える。
「生きて……!」
その言葉は、父と母が最後に残したものと同じだった。
″生きて″
その願いだけが、皆を動かしていた。
「いや……」
涙が零れる。
「嫌だよ……」
また、大切なものを失う。
もう嫌だ。
もう、誰もいなくならないで。
「お願いだから……」
「姫様!」
妖精たちは最後の力を振り絞る。
「今です!!」
ドンッ。
背中を押された。
「みんな……!!」
リノの身体が、光のゲートへ吸い込まれる。
伸ばした手は、誰にも届かない。
「みんなぁぁぁ!!」
最後に見えたのは。
涙を流しながら、心配をかけないよう、笑う使用人たちの顔だった。
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気がつくと。
冷たい石畳の上に倒れていた。
「……ここは」
ゆっくり身体を起こす。
空が広い。
建物が高い。
見たこともない景色。
「どこ……?」
ふらふらと歩く。
暗い路地を抜ける。
そして——
眩しい光の中へ出た。
「……!」
そこには。
たくさんの人間がいた。
笑っている。
話している。
買い物をしている。
子供が走っている。
「に、人間……!」
トラウマが蘇る。
身体が震える。
羽が小さく縮こまる。
逃げなきゃ。
捕まる。
殺される。
売られる。
「……っ」
リノは後ずさる。
すると、近くにいた人間たちが声を上げた。
「わぁ、見てあの子」
「かわいい服〜!」
「外国の子かな?」
「小さいね」
「……!」
リノは目を見開いた。
おかしい。
どうして。
捕まえないの?
どうして、笑っているの?
「(嘘だ……)」
きっと、騙している。
油断させて捕まえる気なんだ。
「(人間は怖い……!)」
リノは逃げ出した。
人々の間をすり抜ける。
知らない街を走る。
走って。
走って。
気づけば、公園の小さなドーム型遊具の中に身を隠していた。
「はぁ……はぁ……」
身体を丸める。
羽を抱える。
「怖い……」
震える声。
「お父様……お母様……」
もう返事をしてくれる人はいない。
目覚めた時、気づいた。
父と母の生命エネルギーはとうに尽きていたことを。
他の仲間たちも何人かは尽きている。
遠くからでもわかる。
売られた先で尽きたのか。
あるいは、価値がないとされて---
それ以上は考えたくはなかった。
いつかまた会えるという期待を、失いたくなかった。
「みんな……」
ひとりぼっち。
何もない。
帰る場所もない。
その時。
カサッ。
遊具の入り口から、音がした。
「……!」
リノは息を止める。
人間だ。
また、人間だ。
「いや……」
逃げなきゃ。
でも、身体が動かない。
足音が近づいてくる。
そして——
「え?」
聞こえたのは、幼い男の子の声だった。
「君……泣いてるの?」




