希望の羽
# 第二章「希望の羽」
「人間って……怖い……」
リノは震える声で呟いた。
ついさっきまで。
絵本の中の英雄に憧れていた。
いつか会ってみたいと思っていた。
優しい笑顔で話しかけてくれると信じていた。
なのに。
目の前にいる人間たちは違った。
「逃げろ!」
「子供たちを先に!」
「姫様をお守りしろ!」
生の国は一瞬にして混乱に包まれる。
小さな妖精たちは必死に空を飛び、森の奥へ逃げていく。
しかし、人間の手はあまりにも大きかった。
「いたぞ!」
大きな網が空を覆う。
「きゃあっ!」
何人もの妖精が捕らえられる。
「やめて……!」
リノは叫ぶ。
「お願い……! みんなを傷つけないで……!」
しかし、その声は届かない。
「おっ、この国、本当に宝の山だな」
「こんな珍しい生き物、貴族どもが高く買うぞ」
笑っていた。
まるで命を扱っているとは思えない笑顔で。
リノの胸が締め付けられる。
「どうして……」
涙が零れる。
「人間は……優しいんじゃなかったの……?」
「姫様!」
突然、誰かに抱えられる。
忠臣の妖精たちだった。
「離して!」
リノは暴れる。
「みんなが……!」
「姫様だけは、生きてください」
「嫌!」
「姫様!」
その時だった。
遠くから、聞き慣れた声が響いた。
「リノ!」
「……お父様!」
国王だった。
大きな人間の前に立ちはだかり、生命エネルギーで形作った光の槍を構えている。
「お父様……!」
「泣くな、リノ」
王は言う。
その声は、驚くほど穏やかだった。
「お前は、生の国の希望だ」
「嫌だ……!」
「生きろ」
「嫌……!」
「どんな姿になっても、何を失っても――」
国王は微笑んだ。
「お前の優しい心だけは、失うな」
「……!」
リノの目から、大粒の涙が溢れる。
その言葉は、あまりにも残酷だった。
だって。
今まさに、その優しさを踏みにじったのはずっと憧れていた、人間なのだから。
「お父様……!」
その瞬間。
「おっと、見つけたぜ」
一人の男が現れる。
刃物を持ったハンター。
「そいつ、随分立派な格好してるな」
リノを見る。
「他の奴とは違う。高く売れそうだ」
「下がれ」
国王が前に出る。
「この子には、指一本触れさせん」
「へぇ?」
男は笑った。
「じゃあ、その命と引き換えにするか?」
「お父様!!」
次の瞬間。
眩しい光が弾けた。
国王の生命エネルギーだった。
リノを逃がすため、目くらましとして使ったのだ。
「今だお前たち! 連れて行け!」
「はっ!」
忠臣達がリノを連れて行く。
「お父様……!」
リノは手を伸ばす。
届かない。
小さな腕では、何も掴めない。
「お、お母様は……!?」
「ここよ、リノ」
後ろから優しい声がした。
王妃だった。
涙を流していた。
それでも、笑っていた。
「お母様……!」
「あなたにこのペンダントを渡した日のこと、覚えている?」
リノは首元の羽のペンダントを握る。
「……うん」
「これはね」
王妃はそっと頬に触れる。
「どんな時でも、あなたを愛しているという証」
「やだ……」
「リノ」
「置いていかないで……!」
「ごめんなさい」
王妃の声が震える。
初めてだった。
母の弱さを見たのは。
「本当は、ずっとあなたと一緒にいたかった」
「お母様……!」
「でも、あなたには未来がある」
王妃は優しく笑った。
「だから、生きて」
---
その後、忠臣たちはリノを森の奥深くへと連れていった。
そこにあったのは、古い石のゲート。
生の国に代々伝わる、最後の逃走手段。
一度だけ。
たった一人だけ。
世界のどこかへ飛ばすことができる。
「さあ、姫様」
「……嫌」
「姫様」
「嫌だ!」
リノは叫ぶ。
「みんなを置いていけない!」
「お願いです」
老いた妖精が膝をついた。
「姫様は…我々の最後の希望です」
「……!」
「生きてください」
「……っ」
その時。
ガサッ。
草むらが揺れる。
「こんなところにいたのか」
ハンターだった。
「ちょうどいい」
その目が、リノを見る。
「姫様か?」
背筋が凍る。
「へぇ……」
男は笑う。
「これは大当たりだ」




