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羽のペンダント

# 『羽に託した、あの日の約束』

- 第一章「羽のペンダント」


生の国。


人間の目には決して映らない、命を司る小さな妖精たちの国。


彼らの役目は二つ。


死んだ魂を天へ導くこと。


そして、生まれる命を生物の世界へ送り出すこと。


それは動物かもしれないし、人間かもしれない。


人間たちが知らない場所で、今日も静かに命の循環を支えている。


---


「また人間の絵本を読んでいるのか?」


柔らかな声がした。


リノは大きな葉っぱの上に座り、絵本を抱きしめる。


「うん!」


緑色の三つ編みを揺らして、満面の笑みを浮かべた。


「見て、お父様!」


ページを開く。


そこには、一人の騎士が描かれていた。


大きな剣を持ち、怪物から少女を守っている。


「人間ってすごいよね! 強くて、優しくて、誰かを守れるんだよ!」


国王は少しだけ目を細めた。


隣にいた王妃も、困ったように微笑む。


「リノ」


「なぁに?」


「確かに、優しい人間もいるわ」


母の声は優しい。


だからこそ、その後に続く言葉が少しだけ悲しく聞こえた。


「でも、絵本に出てくる人間ばかりではないの」


「え?」


「もし人間に出会ったら、逃げなさい」


今度は父が言う。


いつも穏やかな父の表情が、少しだけ険しい。


「昔、生の国には人間が侵入した」


「……」


「多くの仲間が捕まり、連れて行かれた」


リノは黙った。


父がそんな顔をするのを、初めて見た。


「どうして……?」


小さく尋ねる。


「どうして、人間はそんなことをするの?」


「分からない」


父は答えた。


「だが、欲や好奇心のために他者を傷つける者もいる」


「……」


「だから、お前だけは絶対に人間に近づいてはいけない」


---


その夜。


リノはベッドの中で、羽の形をしたペンダントを握った。


誕生日に両親からもらった、大切な宝物。


「でも……」


窓の外の星を見る。


「本当にみんな、怖い人なのかな……」


絵本の中の人間。


優しい笑顔。


誰かを助ける手。


あれは全部、嘘なのだろうか。


リノには、まだ信じられなかった。


---


数十年後。


「おじちゃーん!」


明るい声が、生の国に響く。


「おぉ、姫様! 今日もお散歩ですかな?」


白い髭を揺らした妖精が笑う。


彼は魂を管理する仕事をしていた。


「何してるの?」


「新しい命を送り出す準備です」


「え?」


リノの瞳が輝く。


「それって……人間?」


「ええ」


「見たい!」


「ははは、本当に人間がお好きですな」


小さな魂が、淡い光に包まれている。


もうすぐ、人間の赤ちゃんとして生まれる命。


リノはそっと手を合わせた。


「幸せになってね」


「姫様……」


老人の妖精は、少し驚いたように目を細めた。


「人間の世界は、あなたが思うほど優しいだけではありませんよ」


「うん」


リノは頷く。


「でもね」


小さく笑った。


「この子は、きっと優しい人になる気がするの」


---


その瞬間だった。


ドォォォン!!


生の国全体を揺らすような轟音が響いた。


平和な空気が、一瞬で淀む。


「な、何……?」


妖精たちが空を見上げる。


そして、門の方から叫び声が聞こえた。


「人間だ!!」


その声には、恐怖が滲んでいた。


「人間が侵入してきた!! 逃げろーー!!」


「え……?」


リノの身体が固まる。


まさか。


そんな。


「嫌……」


「姫様!」


老人がリノを庇うように前に出る。


遠くから聞こえる、妖精たちの悲鳴。


「助けて!」


「やめて!」


「放せ!」


そして聞こえた。


低く、下品な笑い声。


「ははっ! 本当にいたぞ!」


「これだけ捕まえれば大金だ!」


リノの胸に、冷たいものが流れ込んだ。


絵本の中の英雄とは、違う。


誰かを助ける手ではない。


幸せを奪うための手だった。


「……うそ」


震える声が漏れる。


「人間って……」


涙が滲む。


「怖い……」

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