②稽古・青い炎と赤い陰
そんな予言、怒らなければいいのに...
稽古場にて戦う師匠と弟子、親友ティム、無愛想な母、レグナ。
「とにかく、ヴァルターさんに伝えなきゃ...!」
アイネが不穏な噂を耳にして、ただならぬ焦りを覚えているその一方で、ヴァルターと彼の師匠であり、この国を治める王でもあるゼノンはいつもよりもやや緊迫した稽古を繰り広げていた。それは稽古場の外まで激しい金属音が鳴り響くほど激しかった。
「剣を止めるな!私を見続けなさい!」
そう言ったのも束の間、ゼノンは身体を低く構え、切り込む体勢に入る。
「君の剣は何のためにある!大切な人を、場所を守るためだろう!そんな太刀じゃアイネは渡せないぞ!」そしてヴァルターが身構えるのを垣間見ず、彼の元へ白い甲冑を纏ったゼノンの鋭い一撃が襲いかかる。ガキンッ! 彼の一撃は重く、そして素早かった。ヴァルターはそのまま地煙を上げ吹き飛ばされてしまう。ヴァルターが疲労困憊なのに勘付いたゼノンは剣を収めると、満足といった表情で倒れ込む弟子へと手を差し伸べる。
「ふぅー、私もまだまだ鈍っていないな!立ち上がれるかい、ヴァルター?ところで今日は珍しく遅刻したが、何をしていたんだい?」
ヴァルターはその手を取って立ち上がると、必死に身振り手振りを交え、アイネと中庭で話し込んでいた様子を表現しようとする。マシンガントークをするアイネの真似を交えた必死の表現だったが、ゼノンは腕を組み、深く頷いた。
「なるほど?大道芸の練習かい?」
「えぇ....?」と言わんばかりの困惑の顔をするヴァルターと純粋なのかわざとなのか分からない発言をするゼノンの元に、息を切らしながらアイネとティムが稽古場に飛び込んできた。
「お父様!ヴァルターさん!」
「どうした?アイネ、それにティムまで、落ち着きなさい?どうしてそんなに焦っているんだい?」
「お父様、実は先程...」
息を整え、ゆっくりと先程起きたことを話し出す。
数分後、話を聞いたゼノンは神妙な顔持ちで口を開く。
「...そうか、わかった。アイネ、私と一緒について来なさい。ティムはここに、ヴァルターももう少しここで休んでいなさい。」
そう言うとアイネの手を引きどこかへと歩いていく
「ちょっとお父様?一体どこへ...」
ヴァルターが2人が小さくなっていくのを眺める横でティムが小さく呟く。
「そんな予言、起こらなければいいですね。」
沈黙が流れる。そして急にティムがヴァルターの顔を覗き込み、話し出す。
「そういえば団長?お久しぶりですね!僕は城下の警備でしばらく会えませんでしたが、通訳とか大丈夫でしたか??ほら、僕とアイネ様、どちらが通訳上手でしたか?!」
それを聞き、あからさまに鬱陶しそうな顔をするヴァルター。面倒くさそうな仕草をしティムを見つめる。
「はいはい、自分でもめんどくさい事聞いている自覚はあります。(笑)とーこーろーでー? アイネ様との調子はどうなんですかー?」
ニヤニヤと抜かすティムとどこか恥ずかしそうに目を逸らすヴァルターの横を冷ややかな風が通り抜ける。
カツン、コツンと足音を立て現れたのは、女王レグナだった。慌てて数歩下がるティムと深く頭を下げるヴァルターの数歩後ろで彼女は足を止め、冷たい口を開く。
「その予言、貴方なら理解しているわよね?貴方の『それ』1つですべてが破滅へ進む事。そして、貴方が何をすべきか。」
ヴァルターの肩がぴくりと跳ねる。
「もしもその時が来たら、貴方が全てを捨てる覚悟をなさい。でも必要なようなら、私が...いえ、気にしないで頂戴。」
レグナはそのまま素っ気なく去っていった。残されたティムが立ち上がる。
「レグナ様が何故ここに...?それに今のは、『予言』の?」
ヴァルターは何も言わない。ただ彼女が歩き去った方向を見つめていた。その瞳にはかつての『故郷』の惨劇が映し出されていた。
その時が来たら、貴方が全てを捨てる覚悟をなさい、か。どういうことだろうか。
次回、シェイドの計画・日常、崩壊。




