↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/6

四.いたって健康です

 午後一番で診てもらうため、富恵は上野動物病院へ駆け込んだが、

 すでに待合室は多種多様なペットたちに埋め尽くされていた。


「うわぁ、混んでるな」


 さすがに「来る者は拒まず」がモットーの上野動物病院だけのことはあると、

 懐の深さに感心しつつ、富恵は待合室の隅にある長椅子の端に腰を下ろした。


 みぃちゃんの入ったキャリアを足元に置くと、富恵は改めて待合室のペットたちを見回した。


 犬猫の他にも様々な動物たちでごった返す中、まず富恵の目を惹いたのは

 比較的飼いやすく人気が高い小動物系の定番、ウサギやハムスター、モルモットである。


(ホンマ、犬猫並みに見るようになったもんな。

 YouTubeでも定番動画になってるし、

 小動物は人気コンテンツになりやすいんかな)

 

 自身も飼い猫をネタに自作アニメを上げているせいか、

 妙な親近感を覚える富恵の目に亜熱帯の雰囲気を醸し出す

 アクリル製の飼育ゲージが飛び込んで来た。


 そこには隠れ家となるシェルターからひよっこりと顔を出す

 丸い瞳と斑点模様が特徴の、小さなヤモリのような

 ヒョウモントカゲモドキがいた。


 富恵は思わずしげしげと見た。


(面白い模様のトカゲやな。

 そう言えば、最近は爬虫類愛好家も増えてるって聞くし、

 そんで、隣の子はザリガニか……、えっ、ザリガニ?)


 一瞬、ザリガニって、どう診るの? 薬はどうするの? 

 そもそも、ザリガニが調子悪くなるって、どういうこと?


 など、様々な疑問が富恵の頭に過っていると、

 看護師さんから声が掛かった。


「佐藤さーん、どうそ」


 富恵は診察室に入るなり、絶叫した。


「上野先生! みぃちゃんが! みぃちゃんが食べないんです!」


 上野はみぃちゃんが仔猫の頃から診てもらっている、掛かり付けの獣医師である。

 初めてここに診察に訪れたとき、仔猫ながら、ピーピー鳴かず、その堂々とした姿から

 「将来は地域のボスになるのでは」と、上野から期待されたが、

 実際はごはん以外、争いを好まない温厚な家猫になった。

 

 キャリアから出されて診察台の上でじっとしているみぃちゃを

 触診しながら上野は富恵に幾つかの問診をし、血液検査もしたが――


「健康そのものですね」

「えっ……?」

 

 検査結果に目を丸くする富恵に、上野は落ち着いた口調で説明した。


「赤血球、白血球、血小板の数や酵素及びたんぱく質などの各種数値は

 いずれも正常値内ですし、触診でも異常なシコリ等は確認できませんでした」

「で、でも、こんなにぐったりしてるし、ぜんぜん食べないんです」


 富恵は食い下がるが、上野はド正論で切り返した。


「元々、“猫は液体”と言われるくらい、身体が柔らかい上に、

 普段は脱力してることが当たり前の生き物です」

 

 諸説あるが、確かに昔から「寝子」と言われるくらい猫はよく寝る。

 基本的に、食べたり、遊んだりする以外はダラリと過ごしている。

  

 そして、上野は諭(さと)すように付け加えた。


「食べないことには、何か理由があるはずです。

 過剰に心配せずに注意深く見守りましょう」

「はい……」


 欲しい答えを得られず、富恵は肩を落として診察室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。