表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秀烽学園新聞部 ただいま取材中  作者: 音鳴 凪
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/41

04 - 取材

 総会から三日が経っていた。


 新聞部が発行した総会の記事は、京介の予想以上の反響を呼んだ。


 生徒会会長選挙の中止。現会長である白銀(しろがね)沙耶(さや)の続投。

 学業の成績に基づく新たな方針。部活動の研究会への降格制度。

 

 朝の食堂で、昼休みの廊下で、寮の談話室で。記事の内容が話題に上らない日はなかった。


 だが、話題の方向性は、京介が思ったものとは少し違っていた。


「白銀会長が続投してくれるなら安心だ」

「むしろ選挙なんてやるだけ無駄でしょ。誰がやったって白銀さんには勝てないんだから」

「成績で待遇が変わるのは当然でしょ。頑張ってる人が報われるべき」


 そんな声が、学園のあちこちから聞こえてくる。


 京介は昼休みの食堂で、隣のテーブルの会話を耳にしながら、黙ってカレーライスを口に運んでいた。


「部長、聞きました? あれ」


 向かいに座った遥斗(はると)が、トレイの上で箸を止めている。


「何がだ」

「隣のテーブルですよ。白銀会長の続投を歓迎してます」

「聞こえてる」


 京介はぶっきらぼうに短く答えた。


「部長は、どう思います?」

「どう思うも何も、俺たちは事実を伝えた。それをどう受け取るかは生徒一人一人の判断だ」


 そう言いながらも、京介は箸を動かす手が重いことに気づいていた。


 確かに白銀には実績がある。中学の頃からトップクラスの成績を維持し、昨年度は二年生にして会長選挙に圧勝。

 就任後も学園の運営を安定させ、対外的な評価も高く、生徒たちが信頼を寄せるのは当然のことだった。


 だが、それでいいのか。


(りん)は今日、別の取材か?」

「午前中は文芸部の部長に話を聞きに行くって言ってました」


 文芸部の部長は、先日の総会で真っ先に反対の声を上げていた。


「俺と凛は、午後から生徒会長への取材だ」

「白銀会長に?」

「そうだ。総会が終わってすぐに取材を申し込んでおいた」


 遥斗が目を丸くした。


「あの会長に直接取材するんですか?」

「当たり前だ。続投を決めた本人に話を聞かないでどうする」

「それは……そうですけど」


 遥斗は不安そうな顔を見せる。


「お前には別の仕事がある。午後は体育会系の部室を回って、総会の反応を聞いてこい」

「え、俺一人でですか?」

「もちろんだ。お前も新聞部に入ってもうすぐ一年経つ。期待してるぞ」


 その正確性はさておき、フットワークの軽さは評価している。「何に」期待しているかを明言していない以上、その言葉は嘘ではない。


「部長からの期待が! 了解です、任せてください!」


 遥斗は箸を握り直し、急いで昼食の残りをかき込み始めた。



 その日の午後、京介と凛は、校舎中央棟の三階に向かっていた。


「よし、行くぞ」


 京介は足を速めた。凛が半歩遅れてついてくる。


「ちょっと、そんなに急がなくても逃げないわよ」

「分かってる。でも、聞きたいことが山ほどあるんだ」

「取材メモは渡してるでしょ、イレギュラーはほどほどにしてよね」

「もちろん」


 当てにならない返事だ、と、凛は軽くため息をつく。自分はブレーキ役として、常に冷静な視点を忘れないようにしなければ。


 中央棟は学園の心臓部であり、ここに足を踏み入れるだけで空気が変わる。

 京介が扉をノックすると、中から丹羽の声が返ってきた。


「どうぞ」


 扉を開けると、白銀は窓際の席に座っていた。午後の光が長い髪に柔らかく落ちている。


 生徒会室は新聞部の部室とは何もかもが違う。贅沢な広さ、磨き上げられた床、壁に掲げられた歴代生徒会長の写真。

 書棚が壁一面に並び、中央に大きなデスクが据えられていた。


「ようこそ、槙野さん、藤枝さん。お待ちしていました」


 白銀の穏やかで、温かみすらある微笑み。学園中の生徒が白銀に惹かれる理由がよく分かる。

 だが一方で、先日の総会では、この笑顔ひとつで、あの場にいる全員を黙らせたのだ。


 丹羽が脇に控え、灰島が茶を用意していた。京介と凛は白銀の向かいに案内された椅子に腰を下ろす。


「お忙しいところありがとうございます」


 京介はメモ帳を開き、凛もその横でペンを構える。


「いいえ。新聞部の取材にはできるだけ協力したいと思っています」


 丁寧な言葉で、新聞部の仕事を認めてくれているように聞こえた。

 だが、京介にはその丁寧さがかえって引っかかった。最初からこちらの出方を見透かされているような、そんな感覚。


「まず、総会で発表された新方針について。成績による待遇の差や、部活動の研究会への降格制度。これらの具体的な基準を教えてください」


「学業については、定期試験の成績を基準とします。上位の生徒には自習室の優先利用や特別講座への参加資格を。基準に満たない生徒には、時間外の補習を義務づけます」


 白銀の言葉は淀みなく流れる。


「部活動については、年度ごとの活動実績——大会の成績やコンクールの結果などを総合的に評価し、一定の基準を設けます」

「その基準は誰が決めるのですか」

「生徒会が原案を作成し、総会で承認を得る形を予定しています」

「つまり、基準を作るのも、承認するのも生徒会、ということですか」


 いいえ、と白銀は小さく首を振る。


「それは正確ではありません。総会は生徒会を始めとした生徒の代表が集まる場です。総会での決定は、この学園の総意と言えるでしょう」


 白銀は微笑みを崩さない。総会での採決と同じ論理だった。手続きを踏んでいる以上、正当だと。


「それは生徒会長が選挙で選出されることを前提としているのではないですか? 次年度、選挙なしでの続投を提案された経緯について、改めてお聞かせください」

「総会でもお話しした通り、この学園は今、大きな転換期にあります。百年を超える歴史の中で、近年の成果は率直に言って物足りない。この状況を変えるには、継続的な改革が必要です」


 白銀の温度を感じない視線を受けながら、京介も質問を続ける。


「選挙を行わないことに対して、懸念の声も上がっています」

「もちろん承知しています。様々なご意見があることは、むしろ健全なことでしょう」


 白銀は穏やかに頷いた。


「ですが、総会の場で正式に承認された決定です。これは民主的な手続きを経た結果であり、その正当性は揺らぎません」



 その後、新年度明けに開催される総会の日程、生徒会から全校生徒へ向けた所信表明の時期など、あらかじめ凛が整理しておいたメモに沿って質問をしていく。


「申し訳ありませんが、そろそろお時間です」


 しばらくして、丹羽が立ち上がり、扉の方に目を向けた。


「本日はありがとうございます」


 白銀も立ち上がり、行動で終わりであることを示す。


「最後に——」


 京介はメモ帳を閉じ、立ち上がった。


「選挙の公示をする場で、選挙そのものを止める動議を出す。そのこと自体について、どうお考えですか」

「——面白いご質問ですね」


 白銀の微笑みが、ほんのわずかに深くなった。穏やかなままだが、目の奥に光が差す。

 凛が立ち上がり、京介の制服の裾を引っ張るのが伝わってくる。


「ですが、それについては、結果を見ていただくしかありませんね」

「しかし!」

「槙野さん」


 白銀の言葉には有無を言わさない圧力があった。

 生まれながらの王者の風格。


「新聞部の記事は、いつも楽しみにしていますよ。次の記事も期待しています」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ