03 - 総会
総会は、活動報告と決算報告から始まった。
「では最初の議題、本年度の活動報告および決算について。丹羽副会長、お願いします」
議事を進行する白銀の指名を受けて、丹羽が立ち上がる。
「本年度の各部活動の活動実績と予算の執行状況について、ご報告いたします」
丹羽の報告は淡々として隙がなかった。各部活動の一年間の成果が、数字を交えて読み上げられていく。
アメフト部の全国大会ベスト四、空手部の個人全国優勝と団体準優勝、サッカー部の県大会優勝、吹奏楽部のコンクール優勝。
京介はペンを走らせながら、円卓に座る部長たちの顔をちらりと見た。牛島は退屈そうに腕を組んでいるし、鷹野は背筋を伸ばしたまま微動だにしない。自分たちの実績が読み上げられても、当然のことだと言わんばかりだった。
一方で、目立った成果がない部活動については、予算の使用状況が淡々と読み上げられるだけで終わる。
「やっぱり座席の配置はそういうことのようだな」
京介は隣に座る凛に耳打ちする。凛も報告内容と座席配置をメモしながら頷く。
「随分と露骨なことをするわね」
後方の席にいる野球部の部長が、居心地悪そうに身じろぎするのが見える。
報告がひと通り終わると、白銀が口を開いた。
「丹羽副会長、ありがとうございます。本年度も多くの部活動が目覚ましい成果を上げてくださいました」
白銀は穏やかな微笑みを浮かべたまま続ける。
「申し上げるまでもありませんが、本日の活動報告は、次年度の予算編成において重要な判断材料となります。成果を上げた部活動には相応の予算を、そうでない部活動には見直しを」
白銀の言葉と視線に、参加者の誰もが居住まいを正した。
「では、会計監査委員会より決算の承認をお願いいたします」
会計監査委員会の代表が立ち上がる。
「会計監査委員会は、本年度の各部活動の決算について監査を実施いたしました。いずれの部活動においても不正な支出や重大な問題は認められません。以上をもちまして、本年度の決算を承認いたします」
*
会議室のあちこちで、小さなため息が漏れた。
疲れた表情の部長たちが姿勢を崩し始めている。
残る議題は、次年度の会長選挙の公示だけ。例年ならば形式的な手続きで終わるはずだった。
丹羽が議長席の白銀に目を向け、その目線を受けた白銀が小さく頷く。
「例年通りならば、次期生徒会会長選挙のスケジュールについてお話しするところですが、ここで白銀会長から皆様に動議の提出があります」
「皆さん」
丹羽の言葉を受けて、白銀がゆっくりと立ち上がった。
会議室が静まる。形式的な議題のはずだが、白銀の声にはいつもと違う重みがあった。
京介のペンが止まった。
(まさか、人気投票?)
遥斗の馬鹿げた噂が一瞬だけ頭をよぎる。
新聞部の三人は顔を見合わせた。
「ここ秀烽学園は、百年を超える歴史を誇り、数多の名士を世に送り出してきた名門です。しかし近年、その名声にふさわしい成果を残せているかと問われれば——皆さん、胸を張って頷けるでしょうか」
白銀はゆっくりと円卓を見渡した。
「我が生徒会は、次年度からいくつかの新たな方針を検討しています」
円卓以外の座席からざわめきが起きたが、白銀は構わずに話し続ける。
「学業の成績優秀な生徒には、より良い学習環境と支援を提供いたします。一方で、成績が基準に満たない生徒には、補習の強化の義務づけを」
白銀は一拍置き、その目線をざわめきが起きている方に向けた。
「顕著な成果を収めた部活動には、予算の増額と施設の優先利用を認めますが、活動実績が一定の基準に達しない部活動については、正式な部活動としての認定を見直し、研究会への移行も検討いたします」
後方の席が、今度ははっきりとざわついた。研究会への降格。それは予算も活動場所も大幅に制限されることを意味する。
「そんな……」
写真部の部長が声を上げかけたが、白銀の視線を受けて口をつぐんだ。
「これらはすべて、この学園をより強くするための改革です。秀烽学園は百年の歴史の中で、常に最高の人材を送り出してきました。その伝統を守り、さらに発展させるために、必要な措置です」
京介はペンを動かしながら、白銀の言葉を一字一句記録していた。
成果を出した者が報われ、出さなかった者は厳しく評価される。円卓に座るもの、円卓から外されたもの。
白銀はこの総会の場で、自分の目指す学園の姿をすでに形にして見せていた。
「この学園を立て直せるのは、強い意志と覚悟を持った者。——その覚悟が、私にはあります」
白銀は一拍置いた。会議室が完全に静まり返っている。
「よって、次年度は会長選出選挙を実施せず、現体制を継続することを提案いたします」
一瞬の沈黙を挟んで、写真部の部長が椅子を蹴って立ち上がった。
「どういうことだ!」
「そうだ! 生徒会長は選挙で選ぶ、それがこの学園のルールだろ!」
続けて野球部の部長も声を上げる。
「総会における動議の提出は、生徒会規約に則った正式な手順です」
非難の声に対する白銀の声は、あくまで冷静だ。
冷たさを増した白銀の視線を向けられると、声を上げた部長たちも、それに続こうとした者たちも、一様に息を呑む。
「選挙の公示をする場で、選挙そのものを潰すなんて……採決の前に、十分な議論を」
「先ほど会長が申し上げた通り、これは正式な動議の提出です」
最初に抗議の声をあげた写真部の部長が、それでもなんとか声を絞り出したが、今度は丹羽が即座に返した。
「人気投票じゃなかったな」
京介の呟きに遥斗は気まずそうな表情を見せた。
「でも、平穏無事には終わらなかったわ」
凛は居並ぶ部長たちの表情を観察し、それらを逐一メモしていく。
円卓を見れば、円卓に座っている部長たちは誰一人驚く様子がない。
「こりゃ、事前に根回し済みか」
白銀が一堂を見渡しながら採決を促した。
「採決を取ります。本議案に賛成の方は、挙手を」
真っ先に牛島が太い腕を上げた。
それを合図のように、円卓に座る部長たちが次々と手を挙げていく。
鷹野も一瞬の間の後に、静かに手を挙げた。
ただ一人、剣道部の龍崎は挙手せず、腕を組んだまま静かに目を閉じている。
「賛成多数。本議案は可決されました」
丹羽のひと言で、すべてが決まった。
会議室が騒然となった。納得がいかない部長たちが口々に抗議の声を上げるが、採決は終わっている。
会長職の継続が決まった白銀が、円卓に座る参加者をぐるりと見渡した。
背筋を伸ばし、何ひとつ恥じ入ることのない自信に満ちた表情。
白銀はその視線だけで再びざわめきを収めていく。
「本年度の生徒会中央総会の閉会を宣言します」




