36 - 集結
中央棟は、その名の通り学園のほぼ中央に位置している。
生徒会室を始めとして、重要な役割を担う施設が数多く存在し、その一階には風紀委員会の本部が置かれていた。
風紀委員会統括本部と呼ばれるそこには、普段は多くの風紀委員と、そこを訪れる学園生徒で賑わっている。
しかし、今その正面玄関では、激しい激突が起きていた。
「くそ、化け物め……!」
「一度退くぞ! 朱鷺沢委員長に報せを!」
《《反生徒会の動き》》を鎮圧するために、すでに多くの風紀委員が出払っていたが、こちらの人数は二十を超えている。
空手部主将鷹野千紘、剣道部主将龍崎健。
それでも、学園でも屈指の戦闘力を持つ二人を前にしては、手も足も出なかった。
倒れた仲間を抱え起こしながら、風紀委員たちはその場を離れていく。
「朱鷺沢は、もうしばらく動けんだろうがな」
風紀委員たちの姿が視界から去ると、龍崎はようやく竹刀を持つ手を下ろした。
「朱鷺沢はお前が倒したのか? ひなたはどうした?」
「あいつは、力だけでは勝てないことをもう少し学んだほうがいいな」
龍崎のその言い方で、鷹野にはひなたがどう負けたのか想像がついた。
ふくれっ面のひなたが、悔しさを噛み締めて構えを取り直す姿が脳裏に浮かぶ。
「……まあ、そのあとはあいつに任せてきた。問題ないだろう」
龍崎の言葉は、鷹野の眉間に寄った皺を見ての、彼なりのフォローだったのかもしれない。
「そもそも俺が、素手の相手に後れを取るわけがない。……貴様以外はな」
「龍崎、お前は来てくれると思っていた」
「ふん……貴様と再戦する機会を、みすみす逃すわけがないだろう」
因縁のある二人だが、お互いにその強さは認め合っている。この二人が並び立つ姿は、滅多に見られない貴重なものだった。
「お二人とも、ご無事でなにより!」
そこへ息を切らせて駆けてきたのは、文芸部部長の柊詩織と、美術部部長の蓮見真昼だった。
「ちょ、ちょっと待って……。い、息が……」
「大丈夫ですか、蓮見さん。お水をどうぞ」
蓮見は柊が手渡したペットボトルから水を飲むと、深呼吸をして息を整えた。
「……詩織ちゃん、意外と体力あるわね。いつも本を読んでいて、運動しなさそうなのに」
「私は毎朝ジョギングしてますよ。より良い読書のために、体力は必要ですから!」
「そ、そうなの?」
龍崎が、鷹野に向けて短く咳払いをする。鷹野は小さく肩をすくめると、蓮見たちの会話に割って入った。
「とにかく、二人とも無事に来てくれてよかった」
「あ、はい。部室棟で風紀委員会に見つかりそうになったんですが、助っ人が現れまして」
「助っ人?」
「榊原君の妹さんだそうよ。お兄さんに言われて駆けつけたとか」
蓮見の話を聞きながら、鷹野は作戦の全体像を頭の中で整理した。
「榊原がそちらに《《駆けつけなかった》》ということは、予定通り動き出しているということだな」
「でも、こちらにも来ていませんね……。どうしましょうか」
「このままここにいるわけにもいかん。あいつらもまた戻ってくるぞ」
龍崎の言葉通り、風紀委員たちはすぐに体制を整えて戻ってくるはずだ。
「——必ずうまくやってくれる。我々は手筈通りに向かおう」
鷹野はここにいない友人たちの顔を思い浮かべる。彼らを信頼し、自分たちは予定通りに動くべきだ。
「それに、『謎』は蓮見たちが解いたんだろう?」
「任せてちょうだい、ばっちりよ」
*
学園の改革は必要なことだ。
百年を超える歴史を持つこの秀烽学園において、今こそがその転換期だと信じている。
そして、その改革を推し進めることこそが自分の役目。
白銀沙耶は生徒会室で一人、ここ数ヶ月の出来事に思いを馳せていた。
国を支えるエリートを育てるこの学園では、生徒たちの自主性が重んじられているが、その歴史を紐解けば、大きな過ちもいくつかあった。
それでも、その都度、生徒たち自身の手で修正し、正しい方向へと進み続けてきたのだ。
「……私は過ちは繰り返さない」
すべては計画通りに進んでいたはずだった。しかし、今、事態は自分の予想外の展開を見せている。
「……私は何かを見落としていたのか」
窓から差し込む日差しに照らされた白銀の表情には、普段は決して見せない色が浮かんでいた。
苛立ちと呼ばれるその感情を抑えつけるように、白銀の両手は硬く握りしめられている。
「失礼します」
白銀の思索はノックの音で中断された。
生徒会室に入ってきた生徒会副委員長、丹羽太一郎は、窓際に立つ白銀に一礼してから顔を上げた。
その視線に映る白銀の表情は、すでにいつもの美しさと冷徹さをまとっていた。
「状況は?」
「それが……思ったよりもまずいことになってきていまして——」
丹羽の報告を聞き終わっても、白銀の表情に変化はない。
「分かりました。私も行きましょう」
「ですが、会長自ら出向かずとも、我々で何とか——」
「すでにそう言っていられる状況ではないでしょう」
白銀たちは短く言葉を交わすと、足早に生徒会室を後にした。




