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秀烽学園新聞部 ただいま取材中  作者: 音鳴 凪
第七章

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35 - 怒涛

 アメフト部主将、牛島(うしじま)鉄平(てっぺい)を倒した鷹野(たかの)は、その場を空手部員たちに任せて、自らは中央棟へ向かっていた。


 しかし、渡り廊下を抜け、中庭に出たところで、ジャージ姿の一団が鷹野の前に立ちはだかった。

 がっちりとした体格の部員たちが、フォーメーションを組んでいる。


「——今度はラグビー部か」


 鷹野が足を止めたのを見て、先頭の一人が不敵な笑みを浮かべて進み出てくる。


「待っていたぞ、鷹野——」

「道を空けろ。お前たちに用はない」

「そうはいかない。前回のヘマを取り返さないとならないんでな」

「……次から次へと」


 アメフト部の次はラグビー部。鷹野は小さく息を吐いた。

 他のところの状況が見えない以上、急ぐに越したことはない。集団戦の鉄則として、まずは主将を——


「ぐわ!」

「痛え!」


 鷹野が狙いを定めて構えを取ろうとした時、横合いから何かが飛んできて、ラグビー部員たちの隊列を直撃した。


「鷹野! ここは俺たちに任せろ!」


 声のほうを振り返ると、そこにはトスバッティングの要領でボールを打ち込む野球部員たちの姿があった。


「生徒会の手先め、俺たちが相手になる!」


 鷹野とラグビー部の間に入ったのは、鷹野も見知った野球部の部長だ。


「野球部か! 邪魔をするな。これは生徒会の——」

「うるせえ! 俺たちだって、もう黙ってられねえ!」


 その声を合図に、混乱しているラグビー部に向かって、野球部員たちが突撃を開始した。



朱鷺沢(ときさわ)委員長!」


 床に崩れ落ちた朱鷺沢を見て、龍崎(りゅうざき)は竹刀を下ろした。


「安心しろ、気絶しているだけだ」

「龍崎、この件は大問題になるぞ!」


 風紀委員たちは朱鷺沢を抱えると、慌ててその場を去っていく。


「——小熊、大丈夫か?」


 龍崎が声をかけると、床に伸びていた小熊がむくりと身を起こした。


「うう……やられちゃいました」

「立てるか」

「もちろんです」


 そう言いながらも、立ち上がった小熊の足元はまだ少しおぼつかない。


「小熊、それに龍崎。——助かったぞ、礼を言う」


 藍原の言葉に、小熊が拳を握りしめた。


「龍崎さんが来てくれなかったら、やばかったです!」


 藍原の背後では、図書委員たちが立ち上がり、倒れた棚や散らばった本を片付け始めていた。


「ここはもう大丈夫だ。あとは任せてくれ」

「よし、小熊、俺たちも中央棟に向かうぞ」


 後のことを藍原に任せ、龍崎は小熊を連れて図書館を後にした。


 しかし、図書館を出てすぐのところで、今度は柔道着を着込んだ集団が向かってくるのが見えた。


「あいつら、もう戻ってきたのか」


 先ほど朱鷺沢を連れて去ったはずの風紀委員会が、柔道部を連れて戻ってきたようだ。


「いたぞ! 龍崎、このまま逃すわけにはいかん!」


 柔道部員たちが半円を描くように龍崎と小熊を囲み始める。


「面倒なやつらだ」

「さっきはやられちゃいましたけど、今度はそうはいきませんよ!」


 相手の準備が整う前に、小熊が飛び出していく。


「先手必勝!」


 目の前に立った柔道部員との距離を一気に詰めると、勢いのついた前蹴りで吹き飛ばす。


「こいつ、ヒグマだ! 気を付けろ!」

「自分の名前はコグマです!」


 ヒグマと口にした柔道部員は、横蹴りを顎に叩き込まれてその場に膝から崩れ落ちた。


「さっさとかかってこい」


 龍崎は竹刀を上段に構えると、向かってきた柔道部員の手首を打ち、続けざまに二人目の肩を薙いだ。


「龍崎さん、先に行ってください!」


 本領を発揮したひなたの周囲には、すでに多くの柔道部員が倒れ伏している。


「頼むぞ。——もうすぐうちの部員たちも駆けつける手筈になっている」

「お任せを」


 ひなたは鼻から息を大きく吸い込むと、独特の呼気とともに強く吐き出す。

 空手において「息吹(いぶき)」と呼ばれる、逆腹式呼吸の技術。


「遠慮はしませんよ」


 にやりと笑うひなたを前に、取り囲んだ柔道部員に戦慄が走った。



詩織(しおり)ちゃん! 詩織ちゃんは無事!」


 蓮見(はすみ)真昼(まひる)は、文芸部の部室に飛び込むなり、そう叫んで(ひいらぎ)の姿を探した。


「蓮見さん? どうしたんですか、いきなり」

「無事でよかったわ……」


 読んでいた本から顔をあげた柊を見て、蓮見はほっとため息を吐く。


「落ち着いている場合じゃなかったわ! 説明は後、今すぐここを出るわよ」


 柊が戸惑いながらも立ち上がると、蓮見はそのまま柊の手を引いて廊下に出た。


「蓮見さん、まさか、藤枝さんの予想通り?」

「ええ、そう。私たちも中央棟に向かわないと」


 手を取り合って走り出した二人だったが、建物を出ようとしたところで、蓮見がとっさに柊の腕を引いた。


「待って、風紀委員だわ……」


 前方に、風紀委員が数名うろついている。こちらに気づいてはいないが、出入り口を見張っているようだ。


「まずいですね、部活棟全体を見張ってるんでしょうか」

「裏に回りましょう。別の道が——」


 その時、風紀委員の一人がこちらに目を向けた。


「おい、文芸部の柊だな」


 柊に気づいた風紀委員が、仲間に合図を送り近づいてくる。

 とっさに蓮見が柊を背中に庇う。


「——詩織ちゃんだけでも先に行って」

「そんな、蓮見さんも一緒じゃないと意味ないです!」

「ああ、もう! そのセリフは別のシチュエーションで聞きたかったわ!」

「逃すな、周り込め!」


 数を増やした風紀委員たちが迫る中、その声は朗々と響き渡った。


「やあやあ! 遠からん者は音にも聞け、近くば寄ってその目に見よ!」


 突然のことに、風紀委員たちも足を止めて声の方に視線を向ける。


「な……何だお前は」


 階段の上には、袴姿の女生徒が立っていた。

 額に漆黒の鉢巻を締め、ポニーテールが揺れている。そしてその手には、薙刀が握られていた。


「我が名は薙刀研究会、榊原(さかきばら)(あおい)!」


 葵は階段から飛び降りると、薙刀をぶんと振り回し、蓮見たちに近づこうとしていた風紀委員たちを牽制する。


「か弱い婦女子に手を出そうとは……。兄から聞いていた通りのやつらだ」


 榊原、兄——。


「あ! もしかして、居合道研究会の榊原さんの?」


 言われてみれば、確かに顔立ちが似ているような気がする。


「兄から事情は聞いています。ここはこの葵に任せ、お二人は先をお急ぎください」


 柊は呆然としていたが、蓮見がその袖を引いた。


「詩織ちゃん、今のうちに——」

「は、はい、そうですね」


 再び葵が薙刀を大きく振り回し、蓮見たちの逃げ道を確保する。


「葵が相手だ、無頼漢ども! 薙刀のサビにしてくれる!」



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