28 - 合流
「生徒会室……」
蓮見からもたらされた予想外の答えに、京介たちは顔を見合わせた。
「これは予想外だったな」
「まずくないですか? もし、レリーフのことがばれたら、処分されちゃいますよ」
「それも心配だけど、手記に書かれていたことが本当なのか、確認もままならないわね」
デザインを聞く限り、生徒会室にあるというレリーフこそ、京介たちが探しているものに違いないと思えたが、実際に確認するまでは分からない。
「ねえ、さっきからあなたたち、何の話をしているの? 手記ってなんのこと?」
蓮見は一人だけ会話についていけていない。
「蓮見に話さなければならないことがある。美術部の部長として、相談させてもらいたいことがあるんだ」
「……早く絵の作業に戻りたいのよ。レリーフの場所は教えたんだから、もういいでしょう?」
蓮見は不満そうに頬を膨らませたが、その視線が柊に向かうと、わずかに動きが止まった。
「蓮見さん、お忙しいところすみません。でも、折り入ってご相談があるんです」
蓮見の視線を感じ、それでも柊は恐る恐る言葉を発する。
「……う、肝心なところで詩織ちゃんが出てくるの卑怯ね」
蓮見は柊に視線をやりながら、渋々といった雰囲気で頷いた。
「詩織ちゃんも一緒なら、仕方ないわね」
*
京介たちは、蓮見を伴って文芸部の部室に場所を移していた。
「それで、話って何?」
作品制作を中断させられた蓮見は、不満そうな顔を隠そうとしないが、その視線は、柊が動く度に、そちらに引き寄せられる。
どうやら、この場に柊がいることで、なんとか気持ちを落ち着かせているようだ。
文芸部の部室、その机の上には、薄い本とノートが置かれている。葛城文乃が残した手記と、ここまでの経緯が書かれた凛の取材ノートだ。
「すまんな。少し長くなるが、順を追って話す」
そう前置きをすると、京介は、白銀の無選挙による続投から始まった一連の出来事を話し始めた。
新聞部で起きた部室荒らし、旧校舎での風紀委員会との攻防、そして先日の廉正裁定が行われた経緯。
さらに、京介たちが発見したリコール制度について。
十年前に成立した経緯と、その後、五年前に学園規則から削除されたこと。
手がかりを失いかけたところで発見された、葛城が残した手記。
「——そういうわけで、レリーフを探していたというわけだ」
「ふぅん。初めて聞く話ばかりね」
やがて、ひと通り話を聞き終えると、蓮見は小さくため息をつく。
「正直に言うと、私はあまり興味がないわ。誰が生徒会長でも、絵が描ければそれでいいのだから」
「でも、それじゃあ——」
あっさりと言い切る蓮見に、遥斗が思わず身を乗り出した。
「落ち着け、遥斗」
一見冷たい言葉のように思えるが、蓮見の考えは、他の多くの生徒も同じだろう。
自分自身に直接の害が及ばない限り、危機感を持つのは難しい。
「——美術部は、部活動に支障が出ている人はいませんか?」
蓮見にそう問いかけたのは柊だった。
「文芸部では、補習が忙しくて部活動に顔を出さなくなっている子が出始めています」
「……それは、うちも同じね。補習まみれで部活どころじゃないって子が何人かいるわ」
それにしても、可愛い顔だわ——。
蓮見は真剣な会話をしつつも、真正面から見る柊の顔に釘付けになっていた。
「私、蓮見さんの描く絵はとても好きですよ」
半分上の空だった蓮見の耳に、「好き」という一語だけが鋭く飛び込んできた。
「す、好き!!」
「絵です! 絵のことです!」
「落ち着け、蓮見!」
勢いよく立ち上がった蓮見を、柊と京介が必死に落ち着かせる。
度々脱線する蓮見を見て、遥斗と凛は目を合わせると、呆れ気味に嘆息した。
「なんだか、面倒な先輩ですね……」
「柊さんはあまり近づきすぎないようにね」
柊は凛の言葉に、無言でこくこくと頷く。
「——この学園には色々な生徒がいる。絵を描くことが得意なやつ、スポーツを頑張っているやつ。こいつみたいに、部活動を頑張っているやつも」
部活動を頑張っている代表として指さされた遥斗は、なぜか照れくさそうに頭をかいた。
「だが、そうした生徒たちの居場所が、今の学園では狭まりつつある。それが正しいかどうかを、一部の人間だけで決めるのは違うと思っている」
「……私は権力争いには興味がない。でも、絵を描く環境が、よその誰かの都合で歪められるのなら、それは別の話ね」
柊は自分の描いた絵を好きだと言ってくれた。部活動ができなくなった子が描いた絵を、楽しみにしている人もいるだろう。
それは、決して他人事ではない。
「どうかお願いします。——蓮見さんの力を、貸してください」
何よりも、柊が自分を頼ってくれている。
「詩織ちゃんに頭を下げられて、この私が断れると思う?」
「……ありがとう、ございます」
「ただし、一つ条件があるわ」
蓮見の口元に、含み笑いが浮かんだ。
「全部終わったら、詩織ちゃん、今度こそ絵のモデルを引き受けてくれる?」
全員の視線が柊に集まった。
固まる柊を心配した凛は、その耳元で、無理することないわよと囁いている。
「……ま、前向きに、検討させていただきます」
柊の答える声は、消え入りそうなほど小さかった。
あくまで前向きに、そう繰り返す柊を見て、蓮見は満面の笑みで頷く。
「ふふっ。じゃあ、決まりね」




