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秀烽学園新聞部 ただいま取材中  作者: 音鳴 凪
第六章

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27 - 所在

詩織(しおり)ちゃん、こっち見て!」

「い、いえ、本当に今日は違うんです、蓮見(はすみ)さん——」


 絵筆を握った蓮見の手が、なおも(りん)の背中に隠れた(ひいらぎ)を捉えようと伸びる。


「ちょ、ちょっと落ち着け、蓮見……」


 柊の姿を見て、突然興奮し始めた蓮見を、京介たちはその後、数分かけてようやく落ち着かせた。


「……最近次の展覧会に向けて煮詰まってたところだったから。急な詩織ちゃんの供給で取り乱したわ……」


 柊は凛の後ろに完全に隠れてしまっている。


「蓮見さんの名前を出した時、柊さんが挙動不審になった理由が分かったわね……」


 どうやら蓮見は柊を「理想の文学少女」として認識していて、絵のモデルになることを熱望しているらしい。

 ただし、その思いは柊からすると迷惑のようで、蓮見の希望はいまだ叶えられていない、そういう事情のようだ。


「蓮見、まずはこっちの話を聞いてくれ」


 蓮見の視線は、名残惜しそうに凛の背中に隠れた柊の姿を追っているが、ようやく会話ができる程度には落ち着いてきていた。


 蓮見は明らかに不満そうに大きく息を吐くと、ようやく京介に向き直る。


「それで、詩織ちゃんがモデルになってくれること以外の用件って何かしら」


 先ほどのテンションはどこへやら、その口調には刺々(とげとげ)しさが宿っている。


「こ、この人信用できるんですかね?」

「しっ!」


 京介の後ろで遥斗が囁くが、凛にすばやく制止されている。

 そんな二人のやりとりを背中に感じながら、京介は軽く咳払いし、ようやくここに来た本題に触れた。


「十年前、この美術部に楠木(くすのき)(こう)という生徒が在籍していたと思うんだが、名前を聞いたことはあるか?」


 楠木の名前を口にした途端、蓮見の表情が変わった。柊への興味とは別の色が、その目に灯る。


「楠木さん? もちろん知っているわ。私が憧れている先輩のお一人よ」


 蓮見は腕を組み、いくぶん背筋を伸ばす。


「美術部では有名人よ。当時、その才能は学園中に広まっていたらしいわ」


 手記の中で楠木は、調和を大事にする柔和な性格として書かれていた。

 生徒からの人気が高かったとも記されていたが、それに加えて、美術分野の才能も相当だったようだ。


「実はちょっと理由があって、楠木さんの作品について調べているの」

「楠木さんの作品なら、今もいくつか学園内に残っているわよ。絵ならここにもあるけど」


 凛の言葉に、蓮見は部室の壁を指差す。

 美術部の壁には大小様々な絵が飾られている。このうちのどれかが楠木の手によるものなのだろう。


「絵ではないんだ。レリーフを探している」

「レリーフ……? どんなデザイン?」

「それが、細かいデザインは分からないのよ。——記念に作られたものらしいのだけど」


 手記には、レリーフの設置場所はおろか、そのデザインについても書かれていなかった。


「呆れたわね、形も分からないものを探しているの?」

「手がかりは、楠木さんが制作した、ということだけだ」

「変な話ね。——何か事情がありそうだけど」


 明らかに(いぶか)しがる空気が漂う。


 いずれにせよ、蓮見にはすべてを話す必要がある。

 できれば先にレリーフを見つけ、リコール制度実現の可能性を確認してからにしたかったが。


「あ!待って。レリーフって、あれじゃないかしら」


 話し出そうとした京介の言葉は、蓮見の言葉に遮られた。

 蓮見は何かに思い当たったようで、ポンと手のひらを合わせる。


「何か心当たりがあるのか?」

「ええ、思い出した! 素晴らしい作品で、今でも印象に残っているものがあったわ」

「それは、どんなデザインのものだ?」


 蓮見は眉間に指を当てて、記憶を辿る。

 それは、楠木の作品にしては珍しく、木彫りのレリーフだった。

 長方形の枠には精緻な蔦模様が描かれ、そして——。


「確か、中央に燃え盛る炎がデザインされていて」


 その炎は、木彫りとは思えないほどに精巧に表現されていた。


「その炎を見守るように小さな星が輝いているのよ。それから、炎を囲むように配置された五種類の花。——全て異なる花なのに、全体として調和が取れている。それは素晴らしいものなの」

「炎、星、そして五種類の花……」


 京介の鼓動が、わずかに速くなる。

 後ろを振り返れば、凛も遥斗も頷いていた。


「間違いありません。きっとそれです」


 凛の背中から柊が顔を出し、その手に持った手記を示す。


 炎と星。

 新たに生徒会長となった碧山(あおやま)(おさむ)と、その横で彼を支える紫苑(しおん)恭一(きょういち)


 五種類の花。

 炎と星の元に集った、五つの部活動、その部長たち。

 空手部鶴見(つるみ)、剣道部馬場(ばば)、美術部楠木、文芸部葛城(かつらぎ)、そして新聞部菫川(すみれがわ)


 あの手記を読んだ京介たちには、楠木がそのデザインにこめた想いがはっきりと感じられた。


「それが、あなたたちが探しているもの?」

「ああ、間違いなさそうだ」


 京介は頷いて肯定する。そして、もう一つ確認すべき大事なことがあった。


「蓮見はそのレリーフの裏側を見たか? 裏側に何か彫られていなかったか?」


 蓮見は怪訝そうに首を傾げた。


「いいえ、見ていないわ。飾ってあるレリーフを見ただけで、直接手に取ったわけじゃないから」

「そのレリーフはどこにあるのですか?」


 蓮見の言葉に、柊が思わず前に出てくる。


「生徒会室よ。ほら、生徒会長が座っている豪華な椅子があって、ちょうどその後ろの壁に飾られているのよ」



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